ウェブ解析士はいらない? 上級ウェブ解析士、二村 勇輔さん

「仕事とウェブ解析士」をテーマにお送りさせていただくウェブ解析士インタビュー。20人目は、上級ウェブ解析士の二村 勇輔(ふたむら ゆうすけ)さん。

名古屋を拠点に中部地方で活躍されている二村さん。持ち前の営業力と解析スキルで、幅広い業種の企業をサポートされています。「ウェブ解析士って取ったほうがいい? 」という質問に「いらないんじゃない? 」ときっぱり答える背景と、資格を取る意義についてアツくお話いただきました。

(インタビュー・編集:ライター ふじねまゆこ)

上級ウェブ解析士 二村 勇輔さん
目次

ウェブ解析士を取るだけでは年収が上がらない

名古屋市にお住まいとのことで、中部地方の中では人口が多い都市圏ですが、新型コロナの影響はありますか?

今はそこまで影響がありませんが、今後は影響がありそうです。ただ、個人の仕事に影響がないとはいえ、クライアントの売上が下がっていたら元も子もないので、案件ごとにヒアリングしています。

今はなるべく自宅で仕事をされているのですか?

いや、普通に打ち合わせに出ていますよ。もちろん、極力外出しないようにしていますが。でも名古屋って地方の一つなんで、オンライン打ち合わせをするために最初の一回はオフラインで教えてくれって言われるんですよ。結局オンラインできてないけど……、みたいな(笑)
そうやって経営者の意識が変わっていくようにするのも、自分の仕事のひとつですね。

二村さんのお仕事はそういった経営者向けのコンサルタントというか、相談役のお仕事をされているのでしょうか?

実は僕もわからなくて。コンサルタントをされているお客さんに同行することもあるんですが、そういうときは「ウェブコンサルをしている二村です」って紹介されるんですよね。でも実は、自らコンサルタントって名乗ったこと一回も無いんですよ。

では、二村さんの代表的な事業は一言でまとめるとどういうことをされていますか?

難しい質問ですね……大きく2つあって、ウェブ解析とディレクションが多いです。
メインでウェブ解析をしつつ、ディレクションに派生しているという感じです。

ウェブ解析士の受験を考えている方へコメントをお願いします!

実際に上級ウェブ解析士講座を受けて、独立してみて分かったんですが、正直、ウェブ解析士っていらないんじゃないかと……。

ええっ……! どうしてですか?

新人教育とか、異業種の人がウェブの知識を身につけるためにとか、自分の課題解決のためにウェブ解析士を取るという意思がある人は良いと思うんですよ。でも、「資格を得たら収入が増える」とか、「資格をとったら受注数が増える」とか、そういう資格では無いと思うんです。江尻さんのウェブ解析士の年収を上げたいという想いにはすごく共感しているし、素敵だと思うんですが。

[showBlogCard href=”https://www.waca.or.jp/knowledge/31095/” title=”ウェブ解析士の資格で稼ぐための、3つの誤解と背景【代表理事だより】” img=”https://www.waca.or.jp/wp-content/uploads/2018/08/AdobeStock_128719429-150×150.jpeg” sitename=”ウェブ解析士協会”]

確かに、弁護士や社会保険労務士といった資格とは違いますね。

数名から「二村さん、ウェブ解析士ってどうですか? 」って聞かれたんです。いや知らんがなって(笑)
僕は率直に、目的がよくわからないなら取らないほうがいいですって話をしています。

ウェブ解析士を取ったらアクセス解析ツールをバリバリ使えるようになるとか、そんなわけがない。実務でわからないところをテキストやネットで情報収集して、Google アナリティクスなどのツールを使いこなし、解析の経験を積んで、運用面までちゃんと回して勉強する分には良いと思うけど、ウェブ解析士を取っただけで仕事ができるとか、夢を抱きすぎている人が結構多い気がします。

本当にそのとおりで、ウェブ解析士で基礎知識を身につけて、そこから先は「自分で崖を登れ」って資格だと思うんですよね。

ぶっちゃけ目的によるって話なんですよ。実は僕、藁にもすがる思いでウェブ解析士をとったんです。ウェブって学校で教わらないし、専門の学校も無いじゃないですか。だから、学校代わりに学びたいと思った。実際に知識を得ることはできたのですが、経験は自ら手を伸ばさなければ得られないんですね。

逆に、ウェブ解析士をとって良かったことは、同じ目的を持った人と知り合えるんですね。そこがすごく良かった。尊敬する人に巡り会えた。だから、くれぐれもウェブ解析士の資格を取っただけで年収が上がると思わないでください(笑)。

カリキュラムに載っていない「傾聴」の重要性

The Best Evangelist 2019を受賞されたとのことで、おめでとうございます。
どういったところが評価されたと感じていますか?

正直わからなくて(笑)
でも、投票してくださった方の声を見たら、名古屋で開催したGoogle アナリティクスのセミナーを評価してくれた方はいらっしゃいましたね。今は新型コロナの影響で中止していますが、「アクセス解析の日」と決めて定期的にセミナーを開いています。

初心者向けの講座で、全3回のうち、Google アナリティクスを集中的に話したのは1回のみ。他の2回は特定のウェブサイトを課題に挙げて、それを改善するにはどうしたらいいですか? っていうグループワークをやってもらいました。

[showBlogCard title=”「第3回 初心者向け Google アナリティクス勉強会 2019」が開催されました” sitename=”ベースキャンプ名古屋 – コワーキングスペース” href=”https://basecamp-nagoya.jp/blog/evevt/entry-3417.html” img=”https://basecamp-nagoya.jp/media/002/201907/mode3_w360-aea1785d98f5ff7350b401dd1069ce81.jpg”]

かなり実践的なセミナーですね

そうです。だってみんな、Google アナリティクスの細かい単位の話をしても興味無いじゃないですか。やるにしても基本的な用語や、必要なレポートの見方を解説するくらいです。最低限このレポートをみておけば大丈夫だよと。あとはセッションにおける細かな注意事項などは話しました。

地方で仕事をしていて感じる課題は、ウェブリテラシーの底上げですね。企業のウェブサイトを見ていて、Google アナリティクスの設置がうまくできていないサイトも見かけるので、やっぱり企業規模関係なく、ちゃんとした解析の土台を整えていけるようにしたいな。せめて「すべてのウェブサイトのデータ」ビューは保存しておこうよってみんなに知ってもらえたらいいかなとか。

ウェブ解析士マスター、井水さんのインタビューでも、「企業関係なくスクラムを組んでレベル上げていかないとヤバいよ! 」とお話されていたので、この流れはウェブ解析士協会を中心に地方へと派生しそうですね。

業界全体が解析に触れてほしいですね。Google アナリティクス勉強会もその一環です。ウェブ解析士の名前が広く知られるほど、「解析」というものに対して注目されるようになると思います。だから僕は、事業に関わる人全員が「解析」を考えるべきだと思いますよ。業界関係なく。そうすれば、地方のウェブリテラシーの底上げになり、地域全体が盛り上がっていくでしょうから。

企業活動において「解析」の分野を挙げたときに、真っ先にでてくるのが「ウェブ解析士」になると思います。ただそこで勘違いしてほしくないのは、資格だけあれば何でもできるんじゃなくて、実務積んでる人じゃないとできないよって話なんですよね。

そのとおりです。そうじゃないと、「あいつ、いらない」って話になってしまう……。

「解析について私、わかります! 」ってレポート出して終わりって人いますよね。いや、世の中のビジネスのうち解析だけで解決できることなんて無いから!  お客さんにきちんとヒアリングして、ちゃんとした優先順位をつけた悩みの解決を一緒に考えなければ、数字だけ追っていてもまったく意味がない。

それこそ、営業の経験と解析の知識があわせ持てたら良いですよね。

コンサルタントや営業はそういったウェブの知識を身につけて、ちゃんとお客さんの成果を出せるようになろうって言いたいです。
逆にアナリスト寄りのウェブ解析士にも、ウェブ制作会社とか裏方の人ばっかりと話するんじゃなくて、営業と同じくお客さんの本当のニーズを汲み取れる人間になってほしいですね。

クライアントの「本当のニーズ」を汲み取る2つのコツ

お客さんの本当のニーズを汲み取るコツはありますか?

ありますね。
2つあって、1つ目はまず対面の数を増やす。圧倒的に増やす。

会って話すってことですか?

会う。電話でもメールでもいいんですけど、コミュニケーションの数増やさないと、絶対ムリですね。
僕は多分、アポ数が多い方なんですよ。今週もコロナで自粛中とは言え、オンライン・オフライン含めて12件アポが入っていて、毎週それくらいはこなしています。それは新規だけじゃなくて打ち合わせも含みます。できる限りお客さんと会ってほしいですね。

2つ目は、コミュニケーションの質を高めるためにお客さんの話を疑ってほしいです。
話し合いのコツになるんですが、ウェブに関する相談でよく「ホームページで売上を上げたいんです」って話からスタートしませんか?

お問い合わせ数を増やしたい。みたいな話はよく聞きますね。

おそらく悩みのスタート地点が「ウェブサイトの問い合わせ数が少ないからリニューアルしたい」とか、そういう話だと思うんですよ。それが初回面談のきっかけになると思うんですよね。

ここで普通の人だったら真摯に「問い合わせが少ないんですね、今どれくらいなんですか? 」「これからどれくらい増えたら嬉しいですか? 」って聞くと思うんですよ。そこから「それを達成するためのウェブサイトを作ろう」って話になる。これで受注して制作プロジェクトが始まる。

でも僕、基本的にそれはやらないんです。問い合わせ数をどれくらい増やしたいか聞いた後に、「これが1番の課題ですか? 」って聞くんです。そのほかの課題は無いの? って。

そうすると懸念事項として採用と設備投資、だいたいこのあたりがネックになってくる。企業存続する上で必要なヒト・モノ・カネですね。それらひとつずつ取り上げて投資を検討しているものがあるか聞くんですよ。

聞き出したことすべて机上に並べて、じゃあ増やさなきゃいけないのは問い合わせ数なのか? 問い合わせ数が増えた場合、窓口がすぐパンクすることがわかっているなら、採用の広告費に投資したほうが良いのではないか?とか、お客さんに優先順位をつけさせるんです。それで優先順位が高いことから解決するから、サイト制作からスタートすることは無いんです。

お客さんも、自分自身も、目先の利益に囚われないってことですね。長いお付き合いになりますね。

長い付き合いになったお客さんは、別の何かで必ず相談に来るんですよ。僕にはできないけど……みたいな相談も来る。そういう関係になっていくべきです。ウェブ解析でわかるポイントは、事業全体を数字で把握できるようになること。
その前段、事業のボトルネックがわかるようになるには営業力が必要なんです。

お客さんと直に話をしながら、事業を取り巻く環境も含めて俯瞰する力です。そこで分かったことを持ち帰って、現状を数字に落として、サイト改善や広告を打った場合の効果予測ができるのが解析スキル。フェーズが違うんで、それを一方の力だけでやろうと思うから無理が出るんです。

営業とウェブ解析士がタッグを組めば強力ですね。それが人同士であれ、個人のスキルであれ。

デザイナー×コーダーが仲悪いみたいな話があると思うんですけど、営業×ウェブ解析も仲良くなるべきなんです。そういう意味で言えば、井水さんがお話されているスクラム組むって方向性のとおりだと思います。それについて僕は根が深い問題だと思っていますが、フリーランスでウェブ解析士のスキルでもって企業サポートを生業にするならば、営業から制作に渡すところまで全部一人ですよね。

だとしたらちゃんとした傾聴力を身につけて、何がネックになっていて、どの優先順位で解決していったら良いかわかるようになること。そうしたらお客さんはどのフェーズで何をやるかわかる。それに対して自分にできること、できないことを丁寧に説明して、それぞれの予算をみて、どれから手をつけるか一緒に組み立てていけばいいんですよ。

座学では身につかない、経験しなければ得られないスキルですね。やってみるための道筋が見えました。

お客さんに会ってコミュニケーションを多くとること、かつ、お客さんの話をいい意味で疑うこと。長い目で見たときに、本当に「問い合わせ増」「売上増」が今すぐやるべき課題解決なのか。鵜呑みにしちゃうと駄目ですね。その鵜呑みにしない力をつけるためには数をこなさないと駄目です。

ウェブ解析士のカリキュラムには「マーケティング」の項目があって、それは企業活動における上流工程ですよね。でも、さらに前段の話があるんです。対面して「今の悩みはなに? 」って聞くことが抜けているんです。

それはカリキュラムにはないですよね。今後、追加されるかもしれないですね。

僕がウェブ解析士の資格をとって年収上がらないって言う理由はそこにあって、ウェブ解析士講座で学んだ手法を駆使すれば、売上などの数字を上げることは可能だと思います。ですが、その数字がお客さんの本当の悩みを解決できているどうかかは、別問題だと考えています。

お客さんの本当の悩みを聞いて目指すゴールと課題を明確にできれば「これが終わったら、次はこれに取り組む」という道順が見えてきます。その道をお客さんと一緒に進むことが、お客さんの本当の悩みを解決するプロセスであり、結果的に自身への顧客満足度・契約数・契約期間の向上、そして収益に返ってくるものだと思います。

ウェブ解析士の範囲を超えた、非常に具体的なお話でとても参考になりました! ありがとうございました。

あとがき

地方のウェブリテラシーに感じている課題や、営業×解析士の可能性について、とても盛り上がったインタビューでした。属人的で人脈に頼りがちになっているウェブの現状を覆すこと。地方のウェブをもっと活性化するため、身近な企業や人の悩みを聞き傾聴力をつける重要性を学ぶことができました。ありがとうございました!

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