「仕事とウェブ解析士」をテーマにお送りするウェブ解析士インタビュー。23人目は、ウェブ解析士アワード2019でThe Best Evangelistを受賞された小林 孝司さん。
リーマンショック後の2009年に北海道美瑛町への移住を決意し、ソニーを早期退職。1年間デジハリでウェブ制作全般を学ばれ、美瑛町、観光協会、まちづくり団体を経て美瑛町 DMO チーフ・マーケティング・オフィサーとして実績を積み、2018年からは独立して活動されています。
DMOとは「ディスティネーション・マネージメント・オーガニゼーション」の略で、「観光地経営組織」のこと。つまり、地域の観光資源を総合的にマネジメントする組織です。
そんな背景のある小林さんに、美しい観光資源の豊富な北海道美瑛町での活動を伺いました。
(インタビュー・編集:上級ウェブ解析士 保格 淳)
問題点の見える化が戦略立案の原点
The Best Evangelist 2019の受賞おめでとうございます!
ありがとうございます。
北海道の方々から応援をいただいたようでした。
観光地域のマーケティングやブランディングに、ウェブ解析を活用して活動を展開している点が評価され、とてもうれしく思います。これからも地方を元気に、そして自らも成長できるよう努力していきたいですね。
北海道の代表的な観光地である、美瑛町に在住されているんですね。
富良野に隣接し、ドラマやCMのロケ地も多いパッチワークの丘の風景が有名ですが、最近人気になった「青い池」は、美瑛町にあります。
美瑛町ではどんなお仕事をされてきたのですか?
「美瑛町観光協会」や、「丘のまちびえい活性化協会」などの地域観光、「美瑛ファーム」などの農業者や宿泊事業者を中心にサイト制作や運用に携わってきました。
サイト制作以外にもウェブ解析を活用した観光マーケティングや地域ブランドの構築、体験型プログラムの開発なども行ってきました。
どれも素晴らしい景色ばかりですね。
解析を活用したマーケティング事例としてはいかがですか?
青い池は Mac OS X の壁紙で世界中のブームになりましたが、若年層の観光客が激増した反面、実はそれまで丘の景観に癒やしを求めて訪れていた中高年層は減少したんです。
そうした問題点の見える化が戦略立案の原点です。観光客へのアンケート調査や観光スポットに設置した観光客数の計測機器も活用しましたが、ウェブ解析は必要不可欠なツールでした。
先程仰っていた、体験型プログラムとはどんな内容ですか?
「親子で麦刈り体験」という農業体験を企画しました。丘に広がる畑の中で昔ながらの道具で収穫作業に汗を流したり、大空の下で一緒にバーベキューをしたり、農家さんと触れ合ったりする宿泊型のツアーです。定員の2倍を上回る参加申込がありました。
丘を見て、すぐ帰るパターンとは違う企画ですね。
丘陵地形で畑を営む美瑛農家の知恵や工夫を知ってもらうこと、農家と直接対話すことで、農業をもっと身近に感じてもらうことが、このイベントの狙いでした。
ほかにも、ブランディング活動をされているとか?
美瑛町の地域ブランド「ビエイティフル」ですね。ブランド認定制度の確立、認定商品の開発、PRイベントやウェブサイトの構築・運用、マネジメントまですべて町内の事業者と連携しながら行いました。
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農家と観光客をつなぐ美瑛畑看板プロジェクト
最近ではどんな活動がありますか?
「美瑛畑看板プロジェクト」があります。
丘陵地形に点在する畑がパッチワークのように連なる美しい農業景観を見ようと、美瑛には世界中から年間160万人の観光客が訪れます。しかし無秩序に踏み荒らされる農地の被害はあとを絶たず、農家と観光客の間にできた“溝”がどんどん深くなっていたんです。
いわゆるオーバーツーリズムの状態ですよね……。
2016年に、観光名所として知られる「哲学の木」が農家自らの手によって伐採される悲劇が起こりました。先代から畑と一緒に受け継いだ大切なシンボルツリーを伐採することでしか事態の収拾ができないという、苦渋の決断だったんです。
畑看板のプロジェクトということですが、立ち入り禁止看板ではないんですか?
立入禁止にするのではなく、あえて農地をバックにベストショットが撮影できるスペースを設けました。
農地所有者の名前を明記すると同時に、QRコードで農家の思いやストーリーを観光客に直接語りかける看板です。
農家と観光客の双方がより良い関係を築くための第一歩を願ったプロジェクトなんです。農家と観光客、双方がより良い関係を築かないことには永続的な丘のまち美瑛の存在はありえませんから。
畑看板には、もう一つ重要な狙いがあったということでしょうか?
そうですね。美瑛の観光資源である美しい丘の農業景観は、農家の営みそのものです。美味しい農産物をつくると同時に美瑛の丘を魅力的に演出していること。そのことをもっと誇りに思ってもらいたいと。
丘が連なる土地を畑として維持することは、実に大変な苦労を伴います。この美しい景観を見た観光客の方々にもそれを感じとってほしいと思いますし、休農地の荒廃や後継者問題もある中で立ち向かっている美瑛農家のファンになってほしいと思います。
ウェブ解析のスキルにはメリットしかない
観光や旅行でウェブ解析を活用するポイントって何でしょうか?
ウェブ解析から顧客のニーズや行動を読み解くカスタマー解析の視点は観光事業においても非常に重要だと思っています。ですから宿泊事業者の方を対象としたウェブ解析講座も開催しているんですよ。
ウェブ解析士の資格や知識のメリットやデメリットについては、どうお考えですか?
結論から言えばメリットしか無いと思います。観光や農業に限らず事業の成果をあげるためには、周りの多くの人に問題点や根拠を説明したり、説得をする必要があります。そのエビデンスとしてウェブ解析はとても有効なツールになりえます。
そして、地域課題に対する施策立案や目標達成方法(ストーリづくり)、関係者との合意形成などといったプロジェクトマネジメントと組み合わせることが重要です。
サイトの制作に関わる方々も多いと思いますが。
サイト制作の場合でも、クリエイティブのA/Bテストをしたりすると説得力は違ってきますね。
小林さんにとってウェブ解析とは?
ウェブ解析は目的ではなく手段です。その資格や知識をツールとして、事業や地域を変化させ、活性化していくことがゴールだと思います。
そのために誰とどうプロジェクトを動かしていくか?そういうプロデューサー視点をぜひ持っていてほしいと思います。
アフターコロナについてどう考えていますか?
すでに言われているように、ビフォーコロナに戻ることはないと思います。こうしてオンラインでインタビューを受けているように、距離があって直接会わなくてもできることがわかってしまうと、オンライン化が一気に進みますね。ですからデジタルマーケティングの重要性は一気に増すと考えています。
小林さんのこれからの方向性は?
畑看板プロジェクトは、美瑛の農業景観を守る活動の第一歩です。将来に渡って持続可能な美瑛の農業と観光のあり方を創り出していきたいですね。そしてここでの実績を他の地域活性化にもつなげられたらと思っています。自分自身も田舎暮らしのライフスタイルとして実現したいことはまだまだたくさんあるんですよ。
あとがき
小林さんへのインタビューで強く感じたのは思いを実現する強い意思でした。大企業を早期退職し1年間学び直し、北海道の田舎に移住し行政職員の時期を経て、独立にいたるまで10余年をかけて一歩づつ実現していくことはなかなか出来る事ではないと思いました。
小林さんのマーケティング事例はこちらにも!
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