「仕事とウェブ解析士」をテーマにお送りさせていただくウェブ解析士インタビュー。29人目は、株式会社中屋(あいだや)代表、籐 貴之さん。
栃木県宇都宮市を中心に、ウェブマーケティングのサポートや、広告運用、ウェブサイト制作など、地域から求められることは何でもされています。最近は、小学生向けのプログラミング教室をスタートされたそう。
「僕らが当たり前だと思っていることは、実はそうじゃないことに気づかなければいけない」と話してくださった籐さん。地方のウェブマーケティングにおいて見落としがちな視点を、たくさん教えていただいたインタビューでした。
(インタビュー・編集:ライター ふじねまゆこ)
お問い合わせフォームにメールアドレスは必要ない?
栃木県宇都宮市を中心に活動をされているとのことで、普段感じていらっしゃることはありますか?
最近、特に感じることがあって。都内と地方でインターネットに対する価値観が全然違うなと。このあたりは、年配の方が多い地域で、年々、若年層よりも高齢者が増えています。そういう地方ならではだなと思うことが多々あるんです。
例えば、先日、コンシューマー向けのサービスで「お問い合わせフォームにメールアドレスの項目を入れないでほしい」と依頼があったんですね。
ええ……! 多くのお問い合わせで必須項目ですよね? どうやってお返事するのですか?
お申し込みフォームでメールアドレスが必須となると、メールアドレスを普段、利用していない人はわからないので先に進めなくなってしまうんですね。高齢者の方は特に、メールなんて使わない方が多いですから。
何でもかんでも「詳細はホームページで」って世の中になっているけど、実は当たり前じゃないことを僕らは気づかなきゃいけないなと思いました。
よくニュースで高齢者の運転免許について話題になりますよね。高齢者は運転するなって言いますけど、それを取り上げるとどこにも行けなくなります。簡単に言いますけど、車が生活の足になっていて、公共交通機関も減っている地域では、なかなかそううまくいきません。
それと同じで、年齢、性別、地域、価値観など、その土地に住む人と接してみなければわからないことがたくさんあります。
ウェブの枠を越えて、一歩踏み出してみないとわからないことがたくさんありますね。
他にも、僕は小学生向けのプログラミング教室を運営していますが、参加者のお母さんから「ホームページあるんですか?」って聞かれたことがあります。
ええー! 接点はどこにあったのですか?
お母さん同士の口コミや、看板、チラシです。何より、口コミに勝るものは無いなと感じます。
確かに、口コミやチラシから情報を得ることもありますが、どこへ行くにも事前にググる癖がついてしまって、それが当たり前だと思っていました……反省。
地域性を分かった上でコミュニケーション設計を考えると、地方はまだまだ面白いと思いますよ。紙媒体、マス4媒体、イベントや会合といったリアルの場が有効な場合もある。いろんなものを組み合わせてPRする面白さが地方にあると感じます。
高齢者向けのBtoCビジネスならば、地方新聞のテレビ欄にある広告をおすすめすることがあります。月2万円の小さな広告欄で、1ヶ月間、毎日掲載できます。地方紙だから、その県に絞って訴求ができて、読者層は高齢の方が多い。
確かにそうですね。ピンポイントで訴求できそうです!
ウェブ以外の幅広い媒体の知識は、どのようにして得るのでしょうか?
中小企業のオーナーの方々は、そういった広告媒体をすでに試していらっしゃる。
打ち合わせの際に、「あの媒体は良かった」といった話を耳にします。担当者、オーナーのリアルな話は、セミナーに参加するよりずっといい情報だと思います。これも口コミの力ですね。
口コミってすぐに広まるものではないですし、こちらでコントロールできない類のものです。顧客との信頼関係が「あのお店、良いらしいよ」といった口コミで伝播するので、新規顧客を集めることよりも、サービスを良くしてリピートしてもらうことに重要性を感じます。
「もっと広く伝えたい」というのは、広報に関わる方みんな思っていることだと思います。とはいえ、サービスさえ良ければすぐ口コミが広まるかというと、そうはいきませんよね。
そうです。ですから、最初に目標設定をして、自分たちができる施策を考えます。
僕がお客様からウェブマーケティングの相談をいただくとき、必ず作るシミュレーションシートをお見せしますね。
お話を伺いながら、はじめに必ず売上目標を金額で設定します。というか、目標がなかったら施策が出てこないですよね。仮でも良いので、ぜひ最初は目標設定をしっかりしていただきたい。シートの左上にある目標に数字を入力すると、他のセルが連動してKPIの数値が変動します。こういった売上目標から広告などの予算を算出する方法は、上級ウェブ解析士認定講座でも、課題として取り上げられる内容だと思います。
目標設定ができると、営業目標、広告予算の見通しと、ウェブサイトの規模がどれくらいあれば、目標達成できるかなどが具体的に見えてきます。現在100セッション得ているサイトに、20,000セッション集めるにはどうしたらいいかとか。
マラソンに置き換えるとわかりやすいかもしれません。例えば、今、頑張れば2km走れる人が、1ヶ月後に42.195kmを完走するためには何ができるか。漠然と「走れるようになりたいな」じゃなくて、具体的な数字に落とすと施策が見えてきますよね。それってスイッチが入る瞬間だと思うんですよ。でも、ウェブの場合、これがわからないままスタートする人が多いんです。
心強いサポーターとつながるには?
いよいよ地方企業も、海外を視野に入れないといけないなと感じています。
「族車」ってご存知ですか? 独特な形の中型バイク。
ああ、分かりました! 暴走族が乗る改造バイクですよね。
あれが今、海外にめっちゃウケているんです。これ、実は日本の独自文化なんですよね。
言われてみれば……!
ある日、族車を扱う企業へ海外からメールが届いたそうです。連絡を受け取った側は、迷惑メールかと思っていたらしいですが、たまたま英語に長けた知り合いが「これ、売ってって聞いてるよ?」って教えてくれたことをきっかけに、海外向けの事業を始めたそうです。インターネットって、何がきっかけになるかわからないなと思いましたね。
地方のウェブ担当者や事業者は、籐さんのようなウェブマーケティングに詳しい方や、海外展開に強いサポーターとつながるきっかけが少なく、そういった新規事業を展開するには、ハードルがあると感じています。
そういった専門分野に詳しい方とつながるには、どうしたらいいでしょうか?
オススメは「よろず支援拠点」という、中小企業庁が主体のサービスを利用してもらうことですね。この事業は、国が設置した無料の経営相談サービスです。誰でも、何度でも無料で利用することができます。経営者はもちろん、従業員でも、フリーランスやNPOもOK。全国47都道府県に設置されており、中小企業診断士、税理士、社労士などが所属しているので、どんな悩みでも適切なアドバイザーとつなげてもらうことができます。
国が運営している事業ですから、もっと多くの人に利用していただきたいですね。僕もこの組織でウェブマーケティングの相談を受けています。お話を聞きながら、目標づくりまでサポートさせていただくことが多いですね。
これは心強いサービスですね!
あとは、商工会議所主催のセミナーでつながることは多いですね。
セミナーからウェブ解析士に興味を持たれるかたはいらっしゃいますか?
ある程度の規模をもつ企業で、経営者から社員に対して、ウェブ解析士講座を受けるよう指示されるケースは見かけたことがあります。ですが、中小企業の場合、営業で、広報もやって、顧客対応もしているのに、パソコンが得意だからホームページ更新もやってとお願いされる……みたいな状況になりがちで。更新作業とウェブマーケティングって範囲がまったく違いますし、サーバーに触ったことが無ければ学習する時間も必要です。
実際、そんな状況のウェブ担当者に、タスクの洗い出しと作業時間を明確にして、オーナーと話し合う場を設けるようアドバイスしたことがあります。
ウェブ解析士の域も、ウェブマーケティング会社の域も超えていますね。
相談の幅は広いですね(笑)
データの見方が分かると、情報の見え方が変わる
ウェブ解析士を目指すと得られるものはなんでしょうか?
普段、生活していて何らかのデータを分析する機会はほぼ無いと思います。そういったデータ分析をするようなお仕事に就いていなければ、あまり身近ではないでしょう。とはいえ、データの見方を知っておくと、ニュースやバラエティに使われているデータの受け取り方が変わります。
平均年収の数字1つ取ってみても、データの見方を知っているか否かで印象が変わると思います。日本の平均給与は441万円ですが、平均値は差の大きな値があると、その値に応じて偏りが生じます。強引な例を挙げるなら、10人のうち9人が1万円を持っていて、1人が11万円持っていたら、平均値は2万円です。明らかに偏りができていますよね。では中央値は?性別による差は?正規、非正規の違いは?といった視点によってデータの見え方が変わります。
確かに平均の出し方は小学校で習って覚えていても、中央値の考え方はウェブ解析士を取るまでピンときませんでした。私の勉強不足かもしれませんが。
平均値のほうが身近で受け入れられやすいですし、よく用いられますよね。中央値などデータの扱い方を知っておくと、データを鵜呑みにすることなく、多角的に物事を見られるようになるので、バラエティ番組やニュースの見方が変わると思います。
逆に、データを扱う側になったときは注意が必要です。都合の悪いデータを排除してしまったり、誇張したグラフを作ってしまっては、本当の成果に結びつきませんし、信頼を失ってしまいますから。
ウェブ解析士認定講座をどんな方へおすすめしたいですか?
ウェブ解析士は幅広い知識を求められます。なぜなら、ウェブ解析士はオンライン・オフラインを問わず、事業の成果につなげる行動を促すことが仕事です。この言葉はテキストの冒頭に書いてあります。ウェブ解析という名称から、インターネットだけの話のような印象を持たれると思いますが、マーケティング全体を俯瞰するため、受講すると範囲が広く感じられると思います。
ウェブマーケティングに関わる企業であれば、営業、デザイナー、エンジニアがウェブ解析士の知識を持ち合わせていると、アウトプットが変わってくると思います。ウェブマーケティング系の会社とタッグを組むときにも、ウェブ解析士の知識は役に立ちます。
義務教育に取り入れてみるのも面白いかも知れませんね。高校生が触れているSNSやメディアから、どんな発想でマーケティングができるか考えてみたり。平均値と中央値の考え方を、実例とともに触れておくと、先々役に立つかもしれません。
ウェブマーケティングに、プログラミング教室など、幅広い事業を展開されている籐さんならではの視点ですね!
ウェブ解析士の知識はいろんなことに通じると思います。社会人になって語学を学ばれるように、ウェブ解析を含め、マーケティングの勉強をしていても損にならないと思いますね。
あとがき
普段の生活では気づきにくい「当たり前」が、そうではないと気づかされました。テレビやニュースを見ていても、つい一面だけで判断してしまいがちですが、自分の目で見て、データを多角的にみてみることの大切さ。目標設定によって視界がひらける感覚。地域に深く根ざし、価値提供をしようと思った時に、とても大切な視点だと思いました!
籐さんの活動
籐さんが運営されている、地元工務店や、ハウスメーカーの方へオススメのウェブ広告サービスです。地域を限定し、適切なウェブ広告を配信することで、集客や反響獲得につなげます。
国が運営する無料で利用可能な相談窓口です。ウェブマーケティングを始め、事業に関わることはどんなことでも相談できます。籐さんは栃木県よろず支援拠点に所属されています。