「仕事とウェブ解析士」をテーマにお送りさせていただくウェブ解析士インタビュー。34人目は、元ウェブデザイナーで、現在は主にウェブ解析士として活動しているシンクレア樹理さん。
ニュージーランド出身のご主人と結婚され、出産の2ヶ月後にオーストラリアのメルボルンへ移住。8歳と3歳のお子さんを育てながら、主にECサイトのウェブデザインとウェブ解析サポートをされています。
育児中もバリバリ働きたいと思っていた樹理さんですが、産前に思い描いていた働き方とは違う選択をされてきたそうです。海外での子育て、お子さんの病気、コロナ禍などの波を乗り越えて、仕事を続けるためのヒントをいただきました。
(インタビュー・編集:ライター ふじねまゆこ)
子育てと仕事、目標に向かって小さな一歩を重ねた9年間
よろしくお願いします!簡単に自己紹介をお願いできますか?
はい。2011年に上級ウェブ解析士を取得し、現在は個人事業主として、ECサイトの制作とウェブ解析の仕事を続けています。メルボルンに住んでいますが、日本の仕事がほとんどです。ECサイトのデザイン・構築・ウェブ解析・運用サポートが主な事業です。
今(2020年8月14日取材時)、日本は夏休みと新型コロナの影響で、自宅で子供と過ごしながらリモートワークをする家庭が増えてきています。
メルボルンはどういった状況でしょうか?
メルボルンは制限ステージ4という、かなり厳しい状態が続いています。自宅から半径5km圏外へ出られず、外出は生活必需品の買い物のみ、1日1回だけ許されています。夫も家で仕事をするようになりました。
日本以上に大変な状況ですね。お子さんも休校・休園ですか?
そうなんです。オーストラリアは日本と季節が逆で、今は冬になります。長女の通う小学校は7月のはじめに冬休みがありましたが、ロックダウンのために今も休校、リモートラーニングの措置が取られています。保育園もお休みですね。
外で遊ぶこともできないのは、子どもも、親もツライですね。
ロックダウンは2回目で、3月に1回ありました。今回は7月中旬ぐらいから4週間くらい続いています。夫婦でバランスを取りながら仕事をしていますが、なかなか、大変ですね。
インタビュー前に、仕事と子育てで葛藤があったと伺いましたが、どのような葛藤があったのでしょうか?
長女を出産する前は、産後もバリバリ働こうと思っていました。ウェブは進化のスピードが早い業界ですから、一度離れたら戻れないと思い、長女が1歳になる前に保育園へ入園しました。ですが、その後すぐに長女が喘息を発症しまして。保育園に行ける日が想定よりもずっと少なく、5歳になるまでに5回も入院しました。
私自身は、これまで入院したことが無い健康体だったので、病気への不安と、慣れない看病で本当に大変でした。
それはツライ……。仕事時間の確保と子育てのバランスは、働く親にとって共通の悩みだと思います。お子さんの病気があるとなおさらですよね。
それでも無理して仕事を続けていましたが、子どもが3歳のときに、できる範囲で仕事をしようと割り切りました。子供が寝た後の2時間を仕事にあてて、ワークライフバランスを重視しようと。
今は、長女の喘息が落ち着いてきたので、少しずつ仕事量を増やしていきたいなと思っています。
私も子育てをしながら仕事をしていますが、想定外ばかりで……。
1日2時間の制限にモヤモヤしませんでしたか?
私は妊娠&出産を通して、この世の中には、コントロールできることと、できないことがあると学びました。女性の場合、妊娠中は身体と精神両面のバランスが変化しますし、産後は子供の病気、事故、思わぬハプニングなどの可能性のために、スケジュールの立て方が大きく変わりますよね。
私はそこで悩むのをやめました。コントロールできないなら、自分がそれに合わせていくしかない。メンタルを保っていられたのは、ウェブ解析士認定講座で学んだ、戦略の考え方を知っていたからだと思います。36歳にフルタイムで復帰できるようにする! という長期目標を立てて、それまでにできることを少しずつ達成するキャリアパスを描きました。
ウェブ解析士的な考え方ですね! 人生設計は数値化しづらくモヤモヤしがちなテーマですが、“いつまでに”’、“こうありたい”と具体的な理想像を設定して小さなPDCAを回すのはウェブ解析の流れと似ていますね。
そうなんです。根っからの解析人間っぽいですが(笑)。
設定した課題を達成できないことは多々あって、空振りも失敗もたくさんしてきました。
Google 系の資格を取得したり、クラウドワーキングを利用してみたり、CafeTalk で講師をしてみたり。たくさん小さな挑戦を続けて、やりたいこと、やりたくないこと、価値観といった自分のスタイルがクリアになった気がします。
ちなみに、この方法のメリットは、最終的なゴールに少しでも近づいていればいいので、あまり落ち込まないことです。
直近の大きな想定外に、コロナ禍が挙げられると思いますが、変化はありましたか?
どちらかというと、良い変化の方が多かったかもしれません。夫が家にいてくれるので。今も、ラウンジで子どもをみながらミーティングに参加してくれています。以前よりも時間の確保がしやすくなりました。午後の1時間は長女が次女を見てくれて、とても助かっています。
他にも、社会的にオンラインワークへの理解が深まり、外出できない影響でオンラインショップの需要が増え、コロナ禍は個人的にチャンスの側面が大きいと感じています。
私の知人で、農業関係の方がオンラインショップを始めたいと情報収集されているので、もしかしたらご紹介できるかもしれません。
ぜひ! 私のビジネスパートナーと一緒に作ったオンラインプログラムに参加していただければ、ウェブサイトのデザインから運用サポートまでいたします。このプログラムは、私のワークライフバランス維持に大きく貢献しています。
仕事と子育て両立のコツは、サービスのテンプレート化
10年ほど前、地方の広告代理店で中小企業向けのウェブサイトを作っていました。当時は、納品後に更新されないウェブサイトが珍しくありませんでした。
せっかく作ったのに、更新されなければ役に立ちません。「私が作ったウェブサイトが死んじゃう!」という思いがあって、当時はまだ珍しかったGoogle アナリティクスに触れました。
ただ、Google アナリティクスのデータを渡しただけでは、お客様の理解は進みません。ウェブ解析の正しい知識を得て、ビジネスパートナーになるウェブサイトを作りたい。お客様の知識の底上げをするなら、自分自身の理解も深めなくてはと思い、ウェブ解析士講座を受講しました。
そのもどかしさ、すごくわかります。ウェブ解析の認知がまだ浅く、アクセス状況がわからないサイトのほうが多かった時代ですね。
実は、このウェブ解析士認定講座で運命的な出会いをしました。
「このサイトのCVを上げるために、100万円の予算でできる施策は何か?」というテーマでグループワークをしたときに、デザイナーの私は内部施策しか浮かびませんでした。でも、別の受講者の方は「100万円分の広告出稿をする」と答えていたんですね。
ハッとさせられました。自分には無い視点を得られたことが、ウェブ解析士認定講座の大きなメリットでした。
そんな経験があったので、渡豪した後、フリーランスとして仕事を得たいと思ったときに、Google 広告を出してみたんです。そうしたら、たまたまメルボルンに住んでいた方からお問い合わせをいただいたんです! 日本人で、米問屋を営われていて、ウェブ運用について相談したいと。
Google 広告、侮れないですね! 広いオーストラリアから、同じ街で、しかも日本人。
そうなんです。それからは、そのビジネスパートナーからお仕事の依頼を受け、今のプログラムを作りました。1日2時間しか稼働できないことを伝えて、その範囲でできるビジネスを一緒に作ったんですね。
ECサイト構築、ウェブ解析、運用サポートまでされているそうですね。業務範囲が広いですが、どうやって1日2時間に収めているのでしょうか?
ポイントは仕事のテンプレート化です。制作会社へウェブサイトの制作を依頼すると、すべてオーダーメイドですよね。ヒアリングから、設計、構築……。お客様ごとに要望が違いますから、打ち合わせだけでも時間が必要です。お客様のターゲットを絞れば、仕事のおおよその流れは同じですので、テンプレート化して省力化することができます。
型さえ決まっていれば、効率的にできそうですね。
このプログラムでは、9ヶ月でオンラインショップの制作から運用のサポートをします。
最初の3ヶ月で、ウェブサイトをカラーミーショップで作ります。やり取りはメールのみです。お客様もお忙しいので、やり取りが少ないほうが合っているようです。
ウェブサイト完成後から、お客様の運用サポートとして、事前に作った5分程の動画講座を定期的にメール配信します。この動画で、基本的なウェブの知識とカラーミーショップの操作方法をマスターしていただきます。1回の配信ごとに課題があり、それをこなしていくと、ショップ運用とウェブの知識は一通り理解いただけます。
お客様は運用の知識が得られますし、制作側はクリエイティブに集中できる良い形ですね。
1. ターゲットを絞る。
2. 事前に教育プログラムとやりとりのテンプレートを作る。
3. 短い時間を、長期間、積み重ねるスケジュールを組む
この3つを重視して、忙しい方に理解してもらいやすく成果を生むサービスと、自分のライフスタイルに合ったサービスができました。
心強いビジネスパートナーを得られましたね! 私もGoogle 広告に出稿してみようかな……
本当に運が良かったです。1日2時間だけでも、ウェブの仕事に携われるのは嬉しいですね。
わずかな時間も長く続ければ、チャンスはきっと訪れる
実は私、資格のために勉強するのが得意じゃなかったんです。資格があっても、その知識を使いこなせていなければ意味が無い。実務経験と知識を間違いなく持っていることの証明だと思うんです。ウェブ解析士は年に1度テストがあり、フォローアップセミナーが充実しているので、私の目的に合った資格でした。
上級ウェブ解析士認定講座まで、まとめて受講されましたか?
初級ウェブ解析士(現:ウェブ解析士)を取得したときに、隣にいた女性へ上級ウェブ解析士認定講座も受けるのか聞いてみたら、「こういうのは勢いで取らないと!」と背中を押され取得しました。
当時の初級ウェブ解析士認定講座で先生をされていた、女性のウェブ解析士マスターの方が素敵だったことも理由の一つですね。
いろいろなライフイベントを乗り越えて、10年近く資格を維持し続けられたことはすごいことだと思います。ウェブデザインの仕事をやめる選択肢は無かったのでしょうか?
続けることが大事だと思っています。育児中は特に、仕事が気分転換になると思うんです。子供の成長とは別軸で、お客様のビジネスの成長も見ることができるのは、社会とのつながりになります。
ウェブ解析士協会は、個人で働く私の拠り所になりました。独学ではなく、ウェブ解析やマーケの最先端に立つ方々から、正しい情報が得られて、お墨付きをもらえることは自信になります。
働き方の価値観が多様化しているなかで、樹理さんのご経験はとても参考になりました! これから先は、どんなライフプランを考えていらっしゃいますか?
先にお伝えしたように、36歳くらいになったらフルタイムで働くことを目標にしていました。来年、下の子が日本でいうところの幼稚園に入りますが、日本と違って週2、3回しか登園日がありません。まだフルタイムで稼働するには難しそうなので、様子を見ながらチャンスをつかめたらいいなと思います。より大きな仕事にも挑戦してみたいですね。
あとがき
樹理さんが経験された子育てにおける仕事と時間への葛藤は、働く親の多くが感じることではないでしょうか。葛藤の乗り越え方は人それぞれですが、短い時間を長く積み上げて試行錯誤を続けられたお話は、先が見えない今の状況において、とても参考になりました。今後のご活躍も、心より応援しております!
シンクレア樹理さんのTwitterアカウント
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