今回、先日権さんからご紹介いただいた鈴木珠世さんと染谷昌利さんの共著。
今回この二人がネットショップの本を書くと聞いたとき、ぜひ読みたいと思った。
それは二人とも、ネットショップのプロではない。ユーザ側のプロなのだ。
つまり、お二人ともアフィリエイトで成功し、指導をしている人。アフィリエイト広告で成果をあげるには、ユーザの心理を汲み取るしかない。だって商材はネットショップで売ってるものなので、「世界で自分だけ!」みたいな希少性では勝負できない世界だからだ。
今回は視点を変えて、この本を買ってはいけない人、お勧めできない人をあげておこう。
10倍売れるネット通販テクニックが知りたい人
キャッチコピーの書き方やランディングページのデザインなど通販で売れるためのテクニックはこの本に書いていない。具体的なネットショップの開設の方法、ドメインの取得方法なども詳しくはない。だからドメインやランディングページのデザインなどの個別テクニックを知りたい方はこの本以外の本を参考にした方がいい。
この本の最大の魅力は第1章にある「準備で決まる成否の8割」にある。準備とはネットビジネス戦略に他ならない。多くのネット通販参入者は「やってみなければ分からない」「リアルで売れてるからネットも売れる」と思って飛び込んで大やけどする。この本は最も重要なポイントとしてネットの特徴を知り、成功するためのアイデア出しまで細かく説明している。1章だけ見たらネットショップの本に見えない。それはつまり、準備はテクニックより大事だということでもある。
出せば必ず儲かる商材を持ってる人
商材について誰もが欲しくて、競合よりも明らかに優れていて絶対の自信があるのであればこの本は不要。もっと言うとネット通販も不要。確実に儲かるなら、費用をかける分儲かるのだから、いきなり大手スーパーに卸したり、大手テレビ局に出稿してもいいかもしれない。
この本では「売れる商品は無い」と言い切る。だから商品に自信がある人は不快かもしれないが、(私が知る限り)そういう人はお客さまのニーズを知らないか、競合を知らないか、自分の商品の良さが伝えられないケース。耳が痛いかもしれないが、大損するよりはいいだろう。
売れるし楽だから大手モールに出店する人
楽天は優勝するし、Yahoo!ショッピングが無料になったので大手ショッピングモールへの参入でイーコマースを始める人が増えている。セミナーや資料で成功した店舗のチラシや話を聞いて、その気になっているならこの本はガッカリするかもしれない。この本は「巨大モールに出店したら成功するわけではない」と述べている。
大手モールのメリットデメリットについて、売上はあがっても、儲からない、ショップの名前を覚えてもらえないデメリットはこの本で多く紙面を割いていない。モールが悪いと言い切ってもいない。しかし、全体を通してこの本が伝える自分のやっているビジネスに自信と誇りをもつなら選択肢として慎重に考えることになるだろう。
ネットショップを全部業者に丸投げしたい人
テクニックはプロに任せたいので、戦略だけ考え通販ビジネスに投資して儲けたいという人にもこの本は向いていない。「顧客の成功の手助け」とか「親戚や友達に使ってもらおう」とか投資対収益が読めないめんどうなことがたくさん書いてある。そうなると業者選定が重要になってくるので、この本を読まずに、いろんな業者の話を聞いてみるといい。どれがいいか分からなくなるだろうけど。
ネットショップは「好きなこと」「楽しいこと」を選択するということは投資目的の人には向いていない。が投資目的で成功した店舗というのも私はほとんど知らない。
秒速で10億円稼ぎたい人(笑)
秒速で10億円稼ぐ人は誰でもできて、確実に儲かるマル秘テクニックを時間限定で販売する。買った人にはさらに今回明かさなかった極秘テクニックを加えて販売する、買った人には限定対談動画付けてまた販売する・・・の繰り返しになるので、期待を高め、購入して失望し、また次を買わせるという右肩下がりの流れ(なんじゃないかな知らないけど)が重要になってくる。儲かってしまうと次の教材を買ってくれないですしね。
この本は全く逆。期待を高め、購入して満足し、だからまた購入するといった右肩上がりのネットショップ運営の基本を紹介している。
接客したくないからネットショップはじめる人
eコマースなら接客しなくても商品が売れるし、クレームも直接来ないから楽、なんて考えているならば、この本の多くは役に立たないかもしれない。「ネットショップだからこそお客さまとの接点を最大化しよう」というだけあって、ネットショップは人と触れられないからこそ、人間味や信頼がリアル以上に大事だと伝えている。クレームもリアル店舗より丁寧に対応するようもとめている。
以上、お勧めしない理由をリストアップしたが最後に一つ。
じゃ、この本は理論の本なの?
というと、それは違う。
大手企業から中小企業まで、さまざまな見せ方、伝え方、接し方の事例は豊富。
またランディングページなどの具体的テクニックは「付録」にある。この業界の本は技術、理論、具体例を1つにまとめることが多いが、あえて技術論を付録におくことで内容が古くならないように作られている。
今後に望むこと
ぜひ、時代の流れにそってこの本を改訂し、第2版をつくってほしい。イーコマースも含めWeb業界の本はすぐ陳腐化してしまうが、書籍は本来ずっと読まれるもの。この書籍もぜひ長く読まれ続ける本として、常に改良してほしい。
書評者 一般社団法人ウェブ解析士協会 代表理事 江尻俊章