「仕事とウェブ解析士」をテーマにお送りさせていただくウェブ解析士インタビュー。37人目は、マミオン有限会社代表、森 万見子さん。
「大人のための算数・数学教室 大人塾」をはじめ、社会人向けの研修・教育事業を展開されています。ウェブ解析士協会のLMS(ラーニングマネジメントシステム)、Moodleの管理者として、ウェブ解析士マスターとともに教育環境を整えるサポートもされています。
「主役は受講生、私は黒子」と話す森さん。よい学びとは“学びたい人が自発的に求めるものであり、教えつけられるものではない”という、教育の根本を鋭く突くものでした。ウェブ解析士に限らず、子育て世代や、教育に関わる方にぜひ伝えたいお話です。
(インタビュー・編集:ライター ふじねまゆこ)
わからないことは、これからわかるようになればいい
私も数学・算数が苦手で……、大人塾にとても興味があります。森さんは大人塾も含めて、どういった事業を展開されていますか?
教育関連全般の事業をしています。BtoCとしては大人塾やパソコン教室で、BtoBでは法人向け研修コンテンツの制作・販売などを行っています。ウェブ解析士協会のラーニングマネジメントシステム(Moodle)の管理もしています。
大人塾は一般的な塾と違い、私が教壇に立って注目を集めるようなことはしていません。あくまでも受講生が主体で、学びを支援する。受講生それぞれに目的があって、それを達成するための黒子に徹したいという考えで教育業をしています。
塾というと、まず先生がいて、そこに生徒が集まるイメージが強いですが、具体的にどういったものでしょうか?
比較的珍しい教育方法だと思います。受講生がそれぞれ自分の目的を持っていて、自分の楽しみや目標達成のために学ぶ。もちろん、カリキュラムはこちらで提案します。そして、受講生が学習を進めていくうちに困ったと思って振り返ったときに、私たちがサポートをします。講師はあくまでもサポーターです。
森さんは先日、ウェブ解析士協会主催で「基礎数学講座」のセミナーを開催されていましたが、ウェブ解析士に興味はあるけれど数字が苦手……という方は何から学べばよいでしょうか。
数字が苦手な人は、付け焼き刃的にウェブ解析の知識をつけるのではなくて、今、自分ができないところのはじめは何かを見つけて、そこから学びましょう。なので、できるところから復習がてらやり直すのが良いかもしれません。
小学生の頃につまづいたところに、まっさらな気持ちで立ち返るということですね。
はい。多くの数学が嫌いな大人を見ていて、数学・算数嫌いの方は分数、割合をしっかり理解しないまま、「覚えなくちゃいけないこと」にしているから嫌いを抜け出せないのかな、と思うことがあります。
数字は言語のひとつだと思っています。日本語や英語と同じで、数字を意思疎通や理解のために使うのです。ウェブ解析士は数字で会話します。ウェブ解析で得られる様々な数値から、閲覧者の動向を見て、仮説・検証をします。解析ツールで得られる数字を、解析者が意思を持って汲み取らなければ、仮説検証のためにどの数字を見ればいいかわからないでしょう。
では数字を業務上の言語として活用するには、どうしたらいいか。まずは、式を丸覚えしないこと。ウェブ解析士の場合、テキストの数字をもっと身近に感じるというところでしょうか。
テストの点数を取るために丸暗記するのではなく、時間をかけて身につけるということですね。覚えずに理解するためにはどうしたらいいのでしょうか?
公式と思われているものは公式ではなくて、考え方を式にしたものなんです。何を測りたいのか目的があって、それを測るためにどうしたらいいか考えたときに、この数字と、この数字を組合せればいいんじゃない? という考え方。それを公式として表面的に覚えてしまうとわからなくなってしまう。
今、何を求めたいの?それは何と何を比べたらいいの?と、整理して考えていくと、自然と答えが導き出されます。
言葉や式を覚えるのではなく、知りたいこと・目的を言語化して、答えを出すために必要なものはこれだよねと整理すれば、自然と身についていくと。
そうです。小中学校で「数学は覚えること」と学んだ方は、なんでもまるっと覚えようとすると、何がなんだかわからなくなってしまう。ですから、「覚えなくちゃ」という意識は忘れてしまったほうがいいんです。
他にも、数学が苦手な人をみていて思うことは、単位を意識しない方が多いですね。
単位というのは、ウェブ解析士で言うところのパーセントや、金額(円)といったことでしょうか?
単位は、パーセント、○○人、一人当たりとか、○○キロあたりとか。忘れちゃうというのは、答えを出すときに意識していないから。テストで単位を書き忘れて減点されたことはありませんか? 公式を表面的に覚えている人は、単位を忘れてしまいがちです。
例えば、一人あたりの獲得単価の単位は円ですよね。そうすると円を人数で割るという計算しか出なくなる。覚えることはほとんどありません。考え方を学べば覚えることは減ります。
これまで、単語を覚えてから考えることが多かった気がします。まず単語を丸覚えして、CPCなら、コスト、パー、クリック……1クリック当たりのコスト、みたいな覚え方。でも、CPCという単語だけ丸覚えしていると、いざ指標として使おうとしたときに、ピンとこない。
私は逆で、単語が覚えられないんですよ。目的さえわかれば考え方がわかるので、単語として記憶しません。
ウェブ解析士の資格取得の目的を受かることにしないで、学ぶことを目的にするとちょっと楽になるかなと思います。
大人の学びはテストの点数よりも、論理的思考力と言語化能力を育むことがゴール
Moodleで受講生が学ぶ環境を作るにあたり、意識していることはありますか?
講座は私が作るわけではなく、ウェブ解析士マスターの教育哲学が反映されます。ウェブ解析士マスターのみなさまが考える、良い学びを実現する環境整備など諸々のお手伝いをし、受講生の資格取得に結びつくことができたらと思っています。
コロナ禍によって、多くがオンライン講座に移行されていますが、受講した方が体験することはどんなことでしょうか?
ウェブ解析士マスターの方針によりますが、今までの座学教育からさまざまな学びの形を選べるように広がると思います。Moodleをうまく活用していただいて、受講者一人ひとりが、考えて、明日に活きる学びにつながればいいな思います。
対面でしか得られなかった受講生同士の交流は減ってしまいますが、Moodleを活用することで、受講者は自分の考えを言語化し、発表する体験が個別にできるようになりました。以前は時間の制約で発表できなかった人もいたかもしれませんが、今はひとりひとりが、自分の言葉で考えをまとめなくてはいけません。こういった経験は、間違いなく人生の役に立つでしょう。
1人の時間を濃く使える時代が来ているということですね。
ウェブ解析士の資格を活かせるかどうかは、正直、本人次第ですよね。試験対策をして、合格さえすればいいというものではないはずです。あとで活かせる知識として学べるかどうは、本人の学びに対する接し方も大切ですが、講師側の教育哲学も受講者のその後の経験に影響する時代になりつつあると感じます。
ただ資格を取ればいいというものではなく、個別にどう寄り添えるか。ウェブ解析士マスターの方々は、試行錯誤されていることと思います。その考えをMoodleに反映していただければ、もっとよい学びを受講生に提供できるのではないかなと思います。
確かにそのとおりですね。受験も、資格も、合格が目的になってしまっては、本来の学びの目的から外れてしまう。
受講者側も、急いで資格をとることよりも、時間をかけて、数字と仲良くなる過程を大切にしていただいたら、本当の意味で力になると思います。しっかり勉強して数字を理解できれば、これまで数字に感じていたストレスがめちゃくちゃ減ると思います。ウェブ解析を学びながらわからないところに気づいたとき、数学・算数を学びなおすチャンスですね。
ウェブ解析は数字を見ることが常になりますから、丸覚えよりも理解が求められると思います。苦手を克服できるとすごくラクになりそうです。耳慣れないカタカナ用語は覚えなくてはならないですが……。
カタカナ用語、私も苦手です!ウェブ解析士認定試験を受験する前に、カタカナ用語をすべて日本語に直しました。
カタカナ用語をそのまま覚えることはできないけれど、意味がわかれば身につきます。試験に通るために言葉を丸暗記するのではなく、用語や略語の意味まで理解すれば、上司やお客様が求めていることを理解できます。すごくストレスが減ると思いますよ。
なるほど。本質的な理解を、ウェブ解析士は特に求められているような気がします。資格取得よりも取得後が大事だと、これまでインタビューをしてきた方々も仰っていました。とはいえ、私は数字への苦手意識がなかなか抜けなくて……。数字が並んでいると目が泳いでしまうんですよね。
わからないものは、焦らずに、少しずつわかるようになればいいんです。もしかしたらクライアントさんが数字嫌いかもしれない。そのときに、丸暗記したアルファベットの略語と数字を並べても、伝わらなかったら意味がないですよね。真の理解は、相手にわかるように伝えられてこそ得られるものです。
目的があって、この数字が何を示していて、これをどうしたらいいのか。丁寧に噛み砕き、理解し、相手がわかるように明示できたら、それは良いウェブ解析士だと思うんです。
ウェブ解析士は知っている側の人間だからこそ、相手の理解が進むようなフォローをしていくべき。知らなくったって、それが知るチャンスかもしれない。そういう相互理解が、やさしい世界につながると思うんです。
学びは教えられるものではなく、自ら得ていくもの。それを支える「安心感」でありたい。
少し話は変わりますが、森さんの事業について教えてください。大人塾で得られることはどんなことですか?
受講生の8割は昇格試験、正社員登用試験、就活転職を目的に受講にいらっしゃいます。
企業の昇格試験とはどういうものが多いですか? あまり馴染みが無いもので。
就活中にSPI(適性検査)って受けました? ああいう試験を昇格試験や転職試験の際に受けるのです。その中に数学の試験が含まれているんです。
あれは入社後もあるのですね。何年かおきに、昇格するために受けるものですか?
そうです。他には、正社員登用試験などにも利用されています。契約社員から正社員になるときに受ける試験ですね。
なるほど。受講者の方はSPIの参考書を持って集まるのでしょうか?
いいえ。こちらで教材を用意しています。
入塾テストで、現状の数学レベルをチェックします。1人ひとりのわからないことに合わせて、こちらの教材を使って理解を深めます。一般的な塾のように、先生が教壇に立つ授業ではなく、受講生ごとにやることも、進め方も違います。
単元ごとに解説スライドが用意されていて、それを読んでいただきながら理解を深めていきます。単元が非常に細かいため、その人が理解できていない単元を丁寧に、基礎から見直すことができます。
これは割合の基本の解説スライドで、割合を学習するときに最初に見るものです。
28012割合1_割合を求める from 大人のための算数教室 大人塾
解説が丁寧でわかりやすいです!
多くの受講生が忘れがちな単元は「割合」です。みなさん、割合でひっかかりがち。小学校4年生くらいで学んだときに理解できなくてそのまま数学嫌いに突入する方多いです。
また、多くの方がわかりづらいと思うポイントは、分母と分子に比較したい数字をあてはめるとき。どちらにどの値を入れるのか理解できず数学を嫌いになるパターンが多いです。分数や割合が苦手な方にとって、数字を扱う仕事は大変だと思います。
私も苦手かもしれません。具体的に自覚できていないのですが、割引・割増といった計算がパッとできたらいいのにと思う場面は多いです。
割引、割増も、結構みんなひっかかるんですよ。こんな感じで、小さい単元のスライドが250種類くらいあります。
29021損益算割引割増 from 大人のための算数教室 大人塾
わかる人には、「こんな基本的なことがわからないのか……」と、思われるかもしれません。わからないことが悪いことじゃなくて、これからわかればいいことなので、わからない人は、他人と比較してくよくよしたり、自分を責める必要なんて無いんです。わからないは、わかるのチャンスですから。
大人になると振り返れないですよね。ふと疑問に思っても、誰にも聞けないんですよね。こういうの。
そうなんです。基礎の理解が身につけば、「なんだ。いままでの悩みってバカみたい」って思える。当たり前のように数字で会話するビジネス社会において、数字が使えることはストレスからの解放ですね。
自分がどこでつまずいているか、見守ってくれる存在はとても貴重だと思います。
大人も、子どもも。
私の役割は安心感の提供だと思っているんです。わからなくなったときに、いつでも聞けるとか。学びは教えられるものじゃなくて、自ら得ていくもの。受講者主体のもの。
なので、私がやれることは特にありません。横にいるだけ。黒子なんです。
子育ての極意を教わっているような気がします。子どもの主体性を育むことは大事なことだと思うんですが、つい口を出してしまって……。
小学校4年生の算数だけは気をつけてください。これだけは、子育て中の方に必ず伝えています。
具体的に何を気をつけたらいいですか?
教えすぎない。
小学4年生の教育はとても重要です。数字や九九など覚えることが中心だった3年生までの教育から、覚えたことの使い方に切り替わるタイミング。そこでつまずいている方がとても多い。
そのときに、算数を「覚えさせられる」「やらされる」と、一気に算数嫌いになるので、気をつけてください。きちんと、分数と割合を理解させてあげてください。大人になっても本当にここが苦手な方多いです。
自分が4年生でつまずいているので、すごくわかります。気をつけなくては……。
あとは、数を数える練習がいいと思います。モノを触りながら数えるとか。数を実体として捉えることは重要です。10とか15といったイメージが自分の中に植えつけられるように、手でつかめるものがいいと思います。手で触れるもの。視覚だけでなく、触覚で体に覚えさせる。それがあれば、考え方を学ぶ段階でイメージしやすくなり、余計な労力が減る気がします。
それなら、小さい子が遊びながらできそうですね!
ある程度大きい子どもならば、親の仕事で数字がどんな使われ方をしているのか共有してみても面白そうです。将来の夢がユーチューバーと言われる時代ですし、目的を言語化して、いざ数字と使おうとするとき、ウェブ解析士の知識は大いに利用できそうです。
あとがき
森さんのお話は、ウェブ解析士の枠を越えて、学びについて深く考えさせられるものでした。わからないままにしていたことを、あらためて自分のペースで学び直すことは、回り道のように見えて近道ではないかと思います。ウェブ解析士認定講座がきっかけで気づきがあったとしたら、それはチャンスなのかもしれません。
これまでの「わからないこと=悪いこと・恥ずかしいこと」という態度を捨て、「何がゴールか、どこがわからないのか、わかるために何ができるか、どこからはじめるか」をフォローしながら見守る姿勢は、現代の学び、子育て、教育現場といった広い分野において必要とされていると痛感しました。
ウェブ担当者向けの基礎数学講座 大人塾
森さんの事業「大人塾」で開講されている、ウェブ担当者に必要な解析レポートの見方を基礎から学べる講座です。通塾によるオフライン講座と、Eラーニングから選ぶことができ、自分にあったスタイルで受講することができます。「Google アナリティクスや、プレゼン資料のグラフを見て、よくわからないときがある」「実は、統計が苦手」といった方にオススメです。
「普通」にくくられない やさしい社会へ
マミオン有限会社さんでは大人塾をはじめ、大人向けの各種教育事業を展開されています。
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