「仕事とウェブ解析」をテーマにお送りするインタビューシリーズ。49人目は、大阪府在住でIT会社社長の加藤大雄(かとう・だいゆう)さんです。
加藤さんが社長を務めるのは、病院を運営する医療法人などのIT化を支援する企業。新型コロナウイルス感染拡大で外出の機会が減り、ウェブの活用を希望する病院・クリニックが増えているそうです。ウェブ解析士の学習内容は「ハードルが高かった」という加藤さんですが、経営者自身が資格を取得する意義について話していただきました。
(インタビュー・編集:上級ウェブ解析士 ナカノアヤコ)
解析経験があっても難しかった
――お仕事の内容と、ウェブ解析士のことを知った経緯について教えてください。
加藤大雄さん(以下、加藤さん):ウェブサイト制作・運営のほか人材採用の支援もしており、小規模のクリニックなども含めると顧客は約100院に上ります。Google アナリティクスやGoogle サーチコンソールを使ったウェブ解析にはもともと取り組んでいました。
レポートを作るため何か調べていた最中に、たまたまウェブ解析士協会のコンテンツを見たのか、Facebook広告に表示されるようになったのがきっかけで存在を知りました。「ウェブ解析士」の名前がかっこいいな、と思って。受験を決めたのは、運営団体である協会のこともいろいろ調べたうえでです。解析の幅を広げたかったのが大きいですね。
――解析経験をお持ちなら、試験内容も受け入れやすかったのではないですか?
加藤さん:経営者なのでビジネスフレームワークにはなじみがあったとはいえ、わからないことは山ほどありましたよ。公式テキストを読んでも単語がわからないので、まずそれを調べて初めて文章の意味を理解するといった具合でした。ネットで「難易度はそれほど高くない」というコメントを見かけましたけど、決してそんなことはないと思います。
――厳しい挑戦だったんですね。どんな勉強方法だったのでしょうか。
加藤さん:寝る前に1章分など、きりのいい範囲を区切ってテキストを読みました。ネットで「とにかく読みまくれ」というアドバイスを読んだので、読み込みには購入してから2カ月くらいかけたかな。公式問題集も解きました。
IT企業の経営者仲間2人と一緒に受けたんです。僕は初めて、他の1人は3回目、もう1人は2回目の挑戦で、3人で問題を出し合うこともありましたね。結果、僕と3回目の挑戦の2人が合格しましたが、あとの1人は不合格でした。
――ご自身の合格のカギは何だったでしょうか?
加藤さん:一発合格はできたものの、「これはきつい」と思いました。どの問題を間違えたかすらわからない。ただ、計算問題はすぐに解けそうになかったら後回しにしたのが良かったのかもしれません。試験時間は60分しかないですし。
――ウェブ解析士となられ、経営者としてどのような変化があったか教えてください。
加藤さん:知識の幅が広がりましたね。もともと自社制作サイトについてはページビュー数やセッション数、参照元など、Google アナリティクスで見られる基本的な指標をもとに月次レポートを作っていました。それでもウェブ解析士の公式テキストに出てくる言葉はわからないものだらけでしたから。
経営者の集まりで話を聞くと、いまだにごりごりの営業をしている会社は多いです。自社のホームページにGoogle アナリティクスすら入れていないのに「ホームページから問い合わせがきたらいいのに」といった声を聞きます。
そういった経営者には、ウェブ解析士を目標に幅広く勉強することを勧めています。試験という最初のハードルは高いけど、今後間違いなく必要な知識が身につきます。デジタル・トランスフォーメーション(DX)の旗を国が振っていますけど、よくわからないという人はまだまだ多いですから。
国が旗を振る陰で DXの現実
――そういえば公式テキストも、ウェブ解析の目的はサイトの改善ではなくビジネスの改善だと指摘しています。
加藤さん:経営者の意識を変えないといけないのはその通りですね。新型コロナウイルスの感染拡大に振り回されたこの1年、特にそうです。
前年は中小企業デジタル化応援隊の専門家として6社ほどの研修を担当し、経営戦略の中にウェブを入れる話をしました。ウェブってなに?という経営者もいるので、まずはそこからです。それからリクルートサイト、コーポレートサイトの活用法と、なぜ活用しなければならないかについてお話ししました。
ITを活用したい、しなきゃいけないとわかっているのに、行動している経営者は本当に少ないです。始めたいがよくわからないといった問い合わせは結構あります。「今日からでも始められますよ」「スマホでできますよ」と声をかけますが、自分では動かない。その背中を押すのが僕の仕事です。
相場より高くても受注するには
――加藤さんの会社がIT化を支援すると、お客さまのビジネスはどう変わるのでしょうか。
加藤さん:病院のウェブサイト制作にあたっては「患者さんファースト」を掲げています。患者さんは頭痛とか倦怠(けんたい)感とかの症状を治したいと思って検索し、病院のウェブサイトにたどり着く場合が多いです。
なのでファーストビューは、そういった症状からどの診療科を受ければ良いのか探せるようにします。モバイルファーストではありながら、高齢者にも使いやすいよう電話番号を目立たせます。病院へのアクセス方法のページには地図はもちろん、あらゆる最寄り駅からの経路、駅から乗るバスの系統だけでなく、病院に向かうバスから見られる車窓の景色を撮影した動画も掲載しています。
――徹底していますね。
加藤さん:ウェブやITのリテラシーは低い業界です。病院にかかわる人は医療に対し強い思い入れがあるので、ウェブサイトを作ろうとするとついそちらが前面に出てしまう。患者さんが使いやすいサイト作りに院内が一丸となれるよう、いろいろな立場の人が参加できるホームページ委員会を設置して定期的に意見交換をしています。
その分「相場より費用は高いです」ということは初めにお伝えします。「作って終わり」の会社とは違うこと、地域医療を担う病院の発展に寄与することをお話しし、ご納得いただいています。
資格以外に得られる二つのこと
――無料でもウェブサイトが作れる昨今、確かに経営者の意識を変えるお仕事だと感じました。最後に、受験を迷っている経営者の背中を押すメッセージをお願いします。
加藤さん:一番は「ウェブ解析士の資格を取得したらもうかります」ですね。これまでも、ウェブを活用すれば会社の収益構造が良くなる、効率性・生産性が上がるとお伝えしてきました。
それから人脈形成です。ウェブ解析士協会はいろいろな講座やイベントを開催していて、毎日のように告知メールが届きます。イベントを通じていろいろな人と知り合えるし、知識の幅が広がります。こういうのを学べるといいな、と潜在的に感じていたところに刺さる内容の講座が多いです。メールマーケティングにまんまと引っかかっているのかもしれませんが(笑)。
参加費は無料から数千円程度です。経営者が集う団体はいくつもありますけど、年会費が少なくとも6万円とか、中には数十万円かかるところもあります。それに比べたら微々たるもの。ウェブ解析士の試験はハードルが高いと思ったら、イベントから参加するのもありだと思いますよ。
あとがき
「顧客接点」を最も大事にしているという加藤さんの会社ですが、2020年からのコロナ禍で取引先から面会を謝絶される状況に直面しました。このため、これまでは顧客にしていなかった小規模のクリニックや医院、医療以外の分野にも展開を考えているそうです。「知識の幅」を広げる意義に繰り返し言及していた加藤さん。刺激を受けたのは私だけではないはずです。