「仕事とウェブ解析士」をテーマにお送りするウェブ解析士インタビュー。67人目は、Snow Peak USA, Inc.でグローバル戦略を担当する佐藤 佳さん。
前回のインタビューから8ヶ月後。コロナ禍による社会変化に伴い「2020年は学ぶ年にする」と決めた佐藤さん。同年に上級ウェブ解析士を取得し、初級・上級SNSマネージャーも取得。コロナ禍の波を乗り越え2021年8月に渡米後、会社のアメリカ進出を支えながら日経クロストレンドへ寄稿するなど、さまざまな場面でご活躍されています。海外のビジネス展開で資格が役に立った場面や、資格取得のきっかけを振り返りながら、事業ミッションにまっすぐ向き合う姿勢の大切さを教えていただきました。
(インタビュー・編集:ウェブ解析士 ふじねまゆこ)
会社のグローバル進出を支える
――スノーピークといえば、キャンプ用品を中心としたグローバルブランドとして、勢いのあるアウトドアメーカーですよね。どのような企業風土のなかでお仕事をされているのでしょうか?
佐藤 佳さん(以下、佐藤さん):スノーピークは社員全員がキャンパーとして、自分たちが欲しいものを作っている会社です。そんな社風もあって、日ごろから野遊びに出かけ、お客様と交流する機会を大切にしています。
――スノーピークの経営思想はとても本質的だと感じました。その海外進出を牽引するのが佐藤さんのミッションですね?
佐藤さん:そうですね。2021年の夏から渡米し、Snow Peak USA, Inc.で主にアメリカにおけるビジネス推進を支援しています。こちらに来て感じたことは、市場の大きさや文化の違いですね。ウェブサイトのアクセスの傾向も、日本とアメリカでは違う点が多々見受けられ、毎日が学びの連続です。
――社外活動では、日経クロストレンドで「ウェブ解析士を実務で生かす」という連載をスタートされたそうですね?
佐藤さん:きっかけは、ウェブ解析士協会の委員会活動で、担当者さんと知り合ったことでした。現在、日経クロストレンドさんでは有料会員向けコンテンツとして、ウェブ解析士マスターの寺岡さんが担当したウェブ解析士認定試験対策講座を配信されています。この講座の受講を検討されている方、あるいは受講された方に向けて、実務のリアルな話を書いてもらえないか、とご依頼いただきました。
――「少額の予算でどう改善を進めるか?」など、実務でよく耳にするテーマが佐藤さんの経験と共にまとまっていて、とても参考になります
佐藤さん:ありがとうございます。執筆当初は「売上やコンバージョンが○○アップ!」みたいな目を惹くハウツー系の方が、ページビューも上がるだろうし、担当者さんも喜ばれるんだろうなぁ……と思っていました。とはいえ、私は実務で役立つ「考え方」をまとめる方が得意ですし、その方がビジネス環境が変わっても活用できて、読者の方の役にも立てるのではないかと思ったんです。担当者さんは私の想いを尊重してくださり、好きな形で執筆させていただいているので、とても感謝しています。
――今後、どのようなテーマの記事を予定されていますか?
佐藤さん:「予算が限られている」、「データ活用の文化がまだ社内で育っていない」といった実務でよくあるテーマに対し、どのような切り口があるかを私の経験とともにお伝えできたらいいなと考えています。例えば「メールマーケティングを導入する6つのメリットと解析方法」では、ウェブ解析を導入する前にメールマーケティングに挑戦することをおすすめしました。ウェブの場合、流入元からコンバージョン設計に至るまで考えなければいけないけれど、メールならメッセージを1通書くことができれば始められます。指標もGoogle アナリティクスよりもシンプル。「ウェブサイトをリニューアルしましょう!」よりもハードルが低いのでオススメです。
――読者へ届けたいメッセージはありますか?
佐藤さん:ぜひ、ウェブ解析の様々な手段よりも会社のミッションへまっすぐ向き合っていただきたいです。売上向上のテクニックや新しい技術を取り入れることも大切ですが、会社が目指すビジョンを見据えたコンテンツ作りが大切だと思います。会社が果たすべきミッションを一人ひとりが考えられれば、必然的に何をすべきかが明確になり、コミュニケーションもスムーズになる。結果、社会にも良い影響を与えられると思うんです。
上級ウェブ解析士取得の理由は「ご縁とタイミング」
――もともとは、上級ウェブ解析士を取得するつもりではなかったそうですね。
佐藤さん:いろいろなきっかけが重なり、このタイミングで取得することにしました。1つはウェブ解析士マスターのコスギサヤカさんに「上級とらないの?」と聞かれたことですね。その時は特に困ったこともなく、仕事も順調で目標達成もしていたので、いずれは……くらいの感覚でした。
気になって上級ウェブ解析士について知りたいと思い、同じ中部地区で知り合った二村勇輔さん(インタビュー記事はこちら)に聞いてみたんですね。二村さんいわく、「佐藤さんならおすすめします」とおっしゃってくださって。二村さんの一言で「取得するとプラスになるんだな」と、背中を押されました。
3つ目はコロナ禍です。2019年の夏頃に会社から今後のグローバル展開について話があり、海外へ目を向けていました。それもあって早い段階で新型コロナウイルスのニュースを知り、ことの重大さに早く気づけたと思います。「もしかしたら世界が変わってしまうかもしれない」という予感は的中し、緊急事態宣言、ロックダウンに続き、大使館も閉鎖されビザの申請ができなくなりました。少なくとも1年は日本から動けなくなると考えた時、「ここはスキルアップのため、とにかく勉強に励む年にしよう!」 と決めました。
ちょうどそのとき、ウェブ解析士協会の前代表理事の江尻俊章さんが「原点回帰で上級ウェブ解析士認定講座をします」と宣言されていて、それも大きな後押しでした。
――講師が江尻さんというのが、最後の一押しだったんですね。
佐藤さん:実は、私がウェブ解析士を取得した後、最初に出会った資格保有者がウェブ解析士マスターの江尻さんだったんです。当時、協会のメルマガで江尻さんから、「金華山(岐阜県)に登ったあとウェブ解析の話をしましょう」というセミナー告知をいただいて、「面白そうな人だなぁ」と興味を持ちました(笑)。ちょうど会社の4半期報告会と重なり、セミナーのみの参加でしたが、そこで受けたアドバイスが私の原体験でもあります。
このときの私は、会社の新事業で悩んでいました。「今までにないサービスをウェブサイトで伝えて、見込み客を集めるにはどうしたらいいのか」。これが当時持っていた私の疑問です。あわよくばアドバイスをいただけたらと思ってセミナーに参加したんです。
セミナーで江尻さんに「ウェブ解析のどういうことを学べばこの課題を解決できるようになりますか?」と聞いたら、「今、佐藤さんがやるべきことは、ウェブ解析ではなくて、経営を学ぶことですね。いろんな経営者に話を聞くといいですよ」とアドバイスをいただいて。なるほどと思い、実際にさまざまな経営者へ話を聞いた結果、自分なりの解決策を見つけることができました。江尻さんは私の原点にあるお方です。その江尻さんが原点回帰で上級講座をすると聞いて、ぜひ!という具合で受講しました。
――その原点が、以前寄稿された記事「知識ゼロ・経験ゼロから始めて、4年連続 200%成長したウェブサイトの作り方②」につながるんですね。
2020年に学んだことは、2021年にどう活かされた?
――2020年から2021年夏の渡米までの期間、学んだことで役に立ったことは?
佐藤さん:まず上級ウェブ解析士に関しては、事業戦略全体を考える良い機会になりました。業務ではGoogle アナリティクスで収集したデータをもとに施策を考えることが実際のところ多いと思います。上流工程の事業戦略を考え、KPI、KGI、KFSの達成度を計測できるよう設計し、収集したデータで検証するのが理想ですが、なかなか上流工程から全てを構築する時間はありません。
上級ウェブ解析士認定講座では、一連の工程を課題を通じて追体験できます。やはりビジネスにインパクトを出そうと思うと上流の戦略設計は必要で、課題を通じて学んだフレームワークを実務に活かすために、学ぶ時間をとってしっかり向き合う点で役に立ちました。
――具体的にはどのような内容が役に立ちましたか?
佐藤さん:例えば、ペルソナ設定、ビジネスモデルキャンバス、カスタマージャーニー、価値創造マップなどのフレームワークですね。存在を知ってはいたけれど取り組む時間がなかったものを実践する良い機会になりました。
他にも、他社(ウェブ解析士協会)の課題として取り組めたことが良かったと感じています。新卒からずっと同じ会社で働いているので、社外へ提案する経験がほとんどなかったんです。講座を通じて他社支援のコンサルを疑似体験し、知らず知らずのうちに身内に向けた提案や話し方になっていた自分に気づきました。これは実践しなければ分からなかったと思います。
――SNSマネージャーについてはいかがでしたか?
佐藤さん:以前、社内の方から「佐藤さんはウェブ解析士ですよね?ということはSNSも詳しいですよね?」と聞かれたことがありました。SNSは独学でも学んでいましたし、会社でもプライベートでも使っていましたが、体系的に教えられるかというと自信がなかったんです。そこでちょうど講座が開講されて、これまたラッキーと思い受講したことが背景にありました。講座では、会社のSNS運用におけるポイントやノウハウを整理して学ぶことができ、実務ですぐに役立ったので、有難かったです。
――ウェブ解析士=SNSが得意とは必ずしも言えないのですが、そう思われがちですよね。
佐藤さん:そうなんです。でも、やったことがないことや、自信のないことを求められた時は、成長するチャンスですよね。個人的にはSNSよりも、ブログ等のストックコンテンツのほうが好きですが……(笑)。
ウェブ解析のノウハウは異文化理解に活かせる
――アメリカでの生活はいかがですか?
佐藤さん:渡米してからインプットが多すぎて、毎日がカルチャーショックの連続です。そもそも言語が違うので、1日会社にいるだけで知らない単語や表現がどんどん出てきます。生活面でも、例えばスーパーで売っているバナナは1房10本くらいあって、「アメリカのバナナは買っても食べきれないな……」なんて思っていたら、隣にいた方が3~4本バナナをちぎってカゴに入れるのを見て驚いたり(笑)。後から知ったのですが、アメリカのスーパーは量り売りのところが多いんですよ。前提になる文化・価値観が違うと、実生活がこんなにも違うのかと驚くことばかりです。
ビジネスにおいても、例えば日本なら「30代の女性」というぼやっとしたイメージでも共有しやすいですよね。基本的に日本人で、独身か既婚か……みたいな。でもアメリカの場合は多民族国家ですから、さまざまな文化的背景を持った人が世界各国から集まっているんです。日本よりも具体的な人物像を設定しないと、「これは私のことだ」とは思ってもらえなくて、届けたい人にメッセージが届かないと分かりました。
――確かに、アメリカ大陸の西側と東側、内陸部でも文化や価値観が違うと聞きますね。
佐藤さん:そうですね。それから、異文化を理解しようと思ったとき、ウェブ解析士で学んだノウハウやツールはとても役立っています。例えばGoogleトレンドを使うと、アメリカの人がどのくらい日本に関連する言葉、例えばonsenとか、edamameとか、haikuなどを知っているか、認知度や検索需要の感覚も掴めますよね。ちょっとしたウェブ解析のノウハウやツールを知っているか否かで、手がかりの数がだいぶ違うと思います。
最初はアメリカで何ができるのか想像つかなかったけれど、焦らずに日本でやっていたことを現地でやってみたら理解できるんだと実感しました。今後も、グローバルマインドなビジネスパーソンとして、その国の理解を深めながら仕事を続けていきたいと思います。
あとがき
前代表理事の江尻さんとの出会いから海外進出のお話にいたるまで、佐藤さんの原体験から生み出された可能性にワクワクが止まらないインタビューでした。ハウツーやテクニックにとらわれず、ミッションにまっすぐ向き合いながら学びを楽しむ佐藤さんのようになりたいと思いました。