「仕事とウェブ解析士」をテーマにお送りするウェブ解析士インタビュー。82人目は、香川県東かがわ市が舞台のスマホゲーム「Glove Story」の発起人・開発者であり、ウェブ解析士協会の地域DX推進活動「Digitable Town(デジタブルタウン)」を牽引するウェブ解析士マスター、八木 暁史(やぎ あきふみ)さん。Glove Storyは自治体発のインディーズゲームでありながら、地方紙から大手新聞社、ラジオ、SNSなど、メディアを越えて注目を集めています。この成果に至ったを背景をお伺いしました。
(インタビュー・編集:ウェブ解析士 ふじねまゆこ)
ダウンロード数ではなく「東かがわ市に関わる時間」を増やせ
――「Glove Story」のダウンロード数は、2024年3月末時点で2000件を越えているそうですね。この反響をどこまで想定されていましたか?
八木さん:ある程度のメディアに取り上げられるところまでは想定していました。想定外だったのは、面白いってコメントが多かったことです。
――ええっ、 それが想定外?
八木さん:スマホゲームに限らず、名作や新しい切り口のゲームがどんどん配信されていますよね。この状況で無名の素人が作ったゲームを楽しんでくれるのは少数だと思っていました。
――ユーザーはGlove Storyのどんなところに面白さを感じているのでしょうか?
八木さん:ゲームの途中で登場する手袋工場は反応が良いですね。市の特産品の手袋を作るイベントがあるんです。
――私もプレイしてみたのですが、手袋の作り方なんてまったく知らなかったので新鮮でした。昔のRPGゲームでよくあったギミックが懐かしい……。
八木さん:市役所の近くの「手袋資料館」で革を裁断する機械を見たとき、制作工程が新鮮で面白くて。そこから手袋作りの工程をシナリオに使うアイデアに至りました。
――ほかにも、東かがわ市に行かなければ知り得ないローカルネタや、御朱印帳集めが面白かったです。
八木さん:ありがとうございます。東かがわ市は雑誌にもほとんど取り上げられない、観光地としてはマイナーな場所だと思います。ただ、知らないからこそ情報は新鮮で価値があります。そして、そのようなマイナーな場所のデジタルに対する期待はとても大きいものです。
あと、このゲームはリリース後すぐに、ゲーム実況などの動画配信を公式に許可しました。これは、このゲームの目的がダウンロード数や収益化ではなく「東かがわ市に訪れてもらうこと」だからです。ゲームが苦手な方はYoutuberさんの配信を見て楽しんでいますし、実際に見せていただきとても面白かったです。
YouTube配信はより多くの人にゲームを追体験させてくれます。ゲームをダウンロードしなくても、配信を見た人が100人、200人と増えれば、それだけ東かがわ市を知った人が増えるわけです。ゲームのダウンロード数は必ずしも目的にはならないんだと改めて気付かされました。
制作者の覚悟と信頼が、プロジェクトメンバーをストーリーへ引き込んだ
――ゲーム開発のご経験はあったのでしょうか?
八木さん:いいえ。全くの未経験です。東かがわ市の支援が始まる前に、半分は趣味の延長でゲームプログラミングを学び始めました。作りたかったゲームのジャンルが30年以上前の技術なので、現代の技術ならば簡単にできると思いきや想定外に難しかったため、社会人向けのプログラミング教室へ2年通って制作しました。
――なぜ、東かがわ市のDXにゲーム制作を絡めたのでしょうか?
八木さん:旅行雑誌をめくると、東かがわ市の掲載量は1ページにも満たない状況でした。この状況では、よくあるSNS配信もSEOも効果が期待できないでしょう。東かがわ市を知ってもらうきっかけをまず作らなければいけないと考え、思いついた手段のひとつがエンターテインメントでした。
頭を悩ませながら電車に乗り、ふと車内に目を移すと、高校生たちはみんなスマホでゲームをしていたんです。そのとき「東かがわ市をスマホゲームに落とし込めばいいのか」とひらめきました。ゲームを通じて東かがわ市と関わる時間が作れたらいいんじゃないかと思ったんです。
――プロジェクトを成功させるためには、仲間選びも重要だと思うのですが、Glove Storyはどのようなチーム体制で制作されたのですか?
八木さん:全体の企画推進・構築は私で、広報は香川県のウェブ解析士マスター 山田恵理子さんにすべてお任せしました。
――八木さんご自身もSNS運用の知識をお持ちでありながら、なぜ山田さんに一任したのですか?
八木さん:事業者の立場になってあらためて気づいたのは、プロジェクト全体が見えなくなることでした。ゲームを面白くすることに全力投球しながらSNSで情報発信する二刀流のようなことはできないと、制作しながら痛感したのです。
だから、ゲーム開発担当と広報担当で視点を分けたほうがいいと考えて、香川県のことをよくご存知の山田さんにお願いしました。
開発しているとつい、東かがわ市とは直接関係のないゲームネタを発信してしまいそうになり、山田さんにご指摘いただくこともしばしばありました。かつ、多くの人へ伝えるためには連続性をもって継続発信するのが一番です。適切なタイミング、情報量を熟知する彼女の広報活動が非常にありがたかったです。
――Glove Storyは東かがわ市長もデバッグに協力してくださったとか?
八木さん:市長とは大学の同窓生だったこともあって、協会との業務提携のときにご挨拶してからずっと懇意にさせてもらっています。
リリース前にGlove Storyをプレイして感想をくださいってお願いしたら、面白とかの前に改善箇所の箇条書きのレポートが送られてきて驚きました(笑)。デバッグ市長、完全にプロジェクトメンバーです。
――X(旧:Twitter)では、市長と積極的に交流されていましたね。ご当地Vtuberとの掛け合いもあったとか。
八木さん:そうなんです。配信中に市長が応援コメントを寄せて、Vtuberさんが慌てていました(笑)。
八木さん:正直、市長の影響力は本当に強いと感じます。良くも悪くも、市長の発言にメディアが反応するわけですから、絶大なインフルエンサーですよね。
僕個人がゲームを作っても、こんなに反応が得られません。市長が関心を持って情報発信してくださったおかげで、想定以上の反響を得られたと思っています。
上っ面だけの「地方DX」をしていませんか?
――地方DXを盛り上げたい人へ、伝えておきたいことはありますか?
八木さん:地域の企業・お店を見ず、インターネットで情報格差がなくなっていることに気がつかないまま、「地方は遅れている」という文脈で支援するのはめちゃくちゃおこがましいぞと伝えたいですね。その地域のリアルを自らの目で確かめるところがスタート地点です。
東かがわ市に限らず、縁もゆかりもない支援団体からDX支援のアドバイスをいただいても、その地域のことをまったく理解していなければ受け入れてもらえないケースってたくさんあると思うんですよ。
――本当に、そのとおりですね。
八木さん:これはウェブ解析士協会も含む全国の地域DX支援で言えることですけど、「地方中小企業を支援したい!」と何の疑問も持たず、しかもそれが良いことのように言う人に多く出会うんですよ。
そういう方たちには、ちょっといじわるな質問をしたくなるんです。
「相手が大手企業だったら、それを理由に断るんですか?」って。
支援対象を地方中小企業に限定しているのは、会社規模で態度を変えると宣言してるようにも捉えられますよね。それってすごく失礼だと思うんです。
――ドキッとする質問ですね。
八木さん:そもそも「地方DX」という言葉をから釘を刺しておきたいですね。地方だから東京と比較して劣っているなんてことはない。「地方」ではなく、東京を含む全ての「地域」で、デジタルの苦手な方に支援していくことが地域DXの第一歩です。そしてそのゴールは、デジタルを溶け込ませることだと思ってます。
あとがき
X上でさまざまな立場の方がGloveStoryをプレイし楽しむ様子をみて、子どもの頃に友人やきょうだいとゲーム攻略した情景が浮かびました。時代が変わってもゲームの楽しみ方は変わらないとあらためて感じます。
一方で、地域DXを支援する側が持つべき心構えは、胸にグサリと刺さる言葉でした。その地域、その企業のリアルを見たうえで課題に向き合うことができているでしょうか? もし、自分が担当者だったら何ができるでしょうか?身が引き締まるインタビューでした。 (ふじね)
Glove Storyのダウンロード
・iphone版:https://apps.apple.com/jp/app/glove-story/id6474999861
・Android版:https://play.google.com/store/apps/details?id=com.WebAnalyticsConsultantsAssociation.GloveStory
※AndroidでGoogle Playを利用できない環境の方:https://form.run/@info-C9ViWKiwexRA7RuOURbG
Glove Story公式ホームページ
Glove Story 公式SNSアカウント
・X(旧Twitter):https://twitter.com/glovestory_hk
八木さんのSNSアカウント
・X(旧Twitter):https://twitter.com/yagiakifumi