「仕事とデジタルマーケティングと資格」をテーマに、ウェブ解析士協会会員の働き方を深掘りするインタビュー。94人目は、中小企業診断士 企業経営理論をはじめ30以上の資格をもつウェブ解析士、阿部義之(あべ よしゆき)さん。資格取得を先行投資と考え、将来必要になる分野を体系的に学ぶものとして取り組んできたそう。デジタルマーケティングに必要な知識をほぼ網羅する阿部さんに、学ぶべき分野の選び方を伺いました。

(インタビュー、編集:ウェブ解析士 ふじねまゆこ)
経営から広報、システム、法務まで網羅する資格マイスター
――自己紹介をお願いします。
阿部義之さん(以下、阿部さん):株式会社ブレーンセンターに勤務しています。企業広報を支援する編集プロダクションの会社です。主に上場企業のコーポレートサイト運営を、プランニングからデザイン、撮影、編集、技術サポートまで一気通貫で支援する仕事です。
また、accompanyLLCの屋号で、ウェブ活用のセミナー講師などの複業もしています。
――阿部さんは30以上もの資格を持っていると聞きました。なぜ、それほどの数に至ったのですか?
阿部さん:ウェブ関連の支援を続けていると、分野外の相談をよくいただくと思います。 例えば、自社に適しているウェブサーバーの選び方や、個人情報保護の扱いですね。
質問されて分からない分野を資格で学んでいった結果、今の数字になったという感じです。

――ウェブ、印刷、データ分析、経営、法務……、企業活動に必要なものはほぼ網羅されていますね! 資格の選択基準はあるのでしょうか?
阿部さん:仕事で少しでも触れ、いずれ必要になるだろうなと思った資格を選んできました。
例えば、企業のコーポレートサイト支援では情報システム部門と連携する場面があると思います。事業会社の情報システム部門は社内ネットワークの管理が専門で、案外、ウェブの仕組みはご存じないケースが少なくありません。
支援側がわからないまま進めると思わぬトラブルにつながってしまいますから、ウェブのインフラ部分について基本を体系的に学ぶために資格を活用したという流れですね。
――資格勉強は合格をゴールにしてしまいがちですが、基本を理解し、使えるようになるのが本来の目的ですもんね。
阿部さん:そうですね。最近、AI・ディープラーニングの活⽤リテラシーを扱う「G検定」を取得しましたが、AIについて耳にする雑多な情報を正確に捉えるには、資格で学んだ基本が大いに役立っています。
少しでも関わって分からない分野は、資格で基本をおさえるのが一番だと思います。その分野に関係する知識を網羅できますから。
ウェブ業界に足りない「品質管理」は温故知新で学べ
――2021年にウェブ解析士公式テキストの編集に関わり、誤字脱字を激減させたそうですね。
阿部さん:そうですね。誤植ゼロを目指した結果、ウェブ解析士アワードの「Curriculum Creator2021」を受賞しました。
私は印刷業界でキャリアを積んだこともあり、ウェブ業界の品質管理に甘さを感じていました。当時のテキスト編集の進め方は、とにかくコンテンツを作り、チェックの段階でクオリティを上げようとしていました。
この改善には編集プロセス自体を変える必要があると判断し、編集に入らせていただきました。結局、およそ400ページすべて1人でリライトすることになりましたが。
—すごいですね!
阿部さん:自分でもよくやったと思います。各分野のプロが書いた原稿は、個性的で理解しづらい部分が多くありました。
そのため、いきなり校正するのではなく編集で全体の体裁を整えておくことで、校正段階で間違いを見つけやすくなります。
「みんなでチェックしよう」は「誰かがチェックしてくれるから大丈夫だろう」という思考になりがちです。ディレクション役が1人立ち、校正メンバーと連動する体制がうまく機能したおかげで、誤字脱字を減らせたのだと思います。
――ウェブコンテンツは品質管理が甘くなってしまう傾向にあると思います。ウェブ制作をする立場にあるとき、何から学ぶべきだと思いますか?
阿部さん:日本の製造業がいまでも強いのは、最終チェックをなるべく減らす作業プロセスの仕組み化があるからだと思います。
「QC(品質管理)7つ道具」や、トヨタの「5W1H思考法」などは、ウェブでも通用する品質管理の考え方です。ハウツーではなく考え方を、ウェブ制作においても取り入れてみてはいかがでしょうか。
これらはコミュニティが違うので触れる機会がないかもしれませんが、ISO9000の勉強会なんかもあります。ウェブ制作のマネジメントをする方がこれを学ぶと、根本的なところからレベルアップできると思いますよ。
資格を横断的に生かす「境界人」になれば、AIを使う立場になれる
――資格を生かすために、まずすべきことは何だと思いますか?
阿部さん:そもそも知識は暗記して詰め込めばいいものではなく、使うことによって定着するものなんですね。結局、使わなければダメ。
ウェブ解析士認定試験は、言葉の定義に関する問題が多いけれど、それらの言葉やツールを使うつもりで勉強しておくべきです。知っているだけでは意味がないですから。
――最近はAIの進化で、ウェブコンテンツの仕事がなくなるのではないかと危機を感じています……。幅広い知識を活用する力はますます大事になりそうですね。
阿部さん:複数の資格を学び、考え方を活用できれば、AIに仕事を奪われず、逆にAIを使って高いパフォーマンスを出す立場になれますよ。
例えば、企業がGDPR対策をするとき、法務とシステムの2部門を踏まえた調整が必要になりますよね。この最適解をAIによって正確に導き出すのはまだ難しいでしょう。
ひとつの課題に対し複数分野を踏まえて考えなければならない時代、橋渡しになる人は今後も重宝されると思います。
――確かに、身の回りで活躍されているウェブ解析士の方から、「実際はなんでも屋みたいなものですよ」って話をよく耳にします。
阿部さん:これからはセミナーで登壇するような「業界人」よりも、各分野をまたいで存在する「境界人」が活躍すると思っています。

阿部さん:境界人って目立たないんです。表に出ず、社内の便利屋さんとして重宝されるような人ですね。私も職場で重宝されています(笑)。複数の分野をまたいで考えるべき課題は、多くの場合、1人でまとめなければ俯瞰できないものです。
職人による分業が当たり前だった活版印刷の時代から、DTPの登場で仕事を集約できるようになったときと同じです。DTPは、紙の基本、インクの基本、デザインの基本、出版の基本を全部理解しておかないと、間違いに気づけないですよね。
――ウェブも同じく、技術進化とともに分業と集約を繰り返していますもんね。
阿部さん:ウェブ解析士はその核となる資格だと思います。今や、ウェブを抜きにしてできることはほとんどないですから。
――最後に、ウェブ解析士を取得しようと考える方へメッセージをお願いします!
阿部さん:よく、どの資格を取るべきか聞かれます。そこでおすすめしたいのは、「資格は先行投資だ」という考え方です。
その分野で多くの人が持つ資格は、差別化になりません。今、必要な資格を取るのではなく、将来必要になりそうな資格を取っておく。そして複数分野の資格を組み合わせて生かす。これにより、会社員の方であれば必要とされるタイミングで声がかかりやすくなりますよ。
仕事でいずれ使うかもしれないなら、チャレンジしておくことをおすすめします。
あとがき
2時間にわたるインタビューで、知識の学び方と生かし方を語ってくださった阿部さん。この記事にはまとめきれないほどの情報量でした! WACA近畿支部のイベントによく出席されているそうですので、オフラインイベントでぜひ声をかけてみてください。
関連リンク
■マルチ資格おじさん ハイライト:https://www.blogger.com/blog/post/edit/4493808832811479857/1402158223216210728