「仕事とウェブ解析士」をテーマにお送りさせていただくウェブ解析士インタビュー。28人目は、インストラクショナル・デザイナーの鈴木 真保さん。インストラクショナル・デザインとは、学校、企業などで行われるさまざまな「教育」において、効果・効率・魅力を高める設計を行うことです。鈴木さんはこの知識を、ウェブ解析士をはじめ教育の場面で生かされています。
テストで合格点を取ったら終わりじゃない。知識を糧にするための教育設計を講師とサポーター側から考え、実践したお話を伺いました。
(インタビュー・編集:ライター ふじねまゆこ)
上級ウェブ解析士が、地方商工会のウェブ担当者になったら
これまでのご経歴から、地元ECサイトの運営、商工会の事務職員、ウェブ解析士協会の事務局カリキュラム担当と、多彩なご経験をされていて驚きました! どういった経緯でウェブ解析士を取得されたのでしょうか?
ウェブ解析士を知る以前に、職業訓練でウェブ制作を学んでいました。ポートフォリオみたいに使えるサイトを作ろうと思ったのですが、せっかくなら好きなものを題材にしようと、大好きな静岡県周智郡森町に関するポータルサイトを作りました。好きなお店や観光地のレポートを掲載していたら、森町商工会で森町のポータルサイトを運用していた情報化推進担当者から問い合わせが来て、あれよあれよといううちに、 コンバージョン1で就職先をゲットできました(笑)
ちょうどそのお誘いを受ける前に、当時の初級ウェブ解析士を取得していました。転職のチャンスだったので、「無いと困るんです! 」と協会に頼み込んで、静岡県ではまだ少なかった上級ウェブ解析士認定講座を開催していただいたのも懐かしい思い出です(笑)
ウェブサイトを拝見しましたが、8年経った今も見やすくて読み応えのあるコンテンツですね! 商工会ではどういったことをされていましたか?
パートで受付などの事務をしながら、ブログを書いたり、ウェブサイトを更新したり……。軽トラを運転して、取材にも行きました!月1回、ウェブ解析レポートの報告をしながら、「褒めるウェブ解析」をしていました。
「この記事が公開されて、これだけアクセスが上がったよ! 」とか、やったことに対する結果を数字で示しながら、良い点をひたすら伝えました。ウェブ解析士の講座で学んだのは、数字を見るだけのアクセス解析をしないということ。事業の役に立つように、使えるものは何でも使うということ。みんなで力を合わせてサイトを育てていくには、この使い方がベストだと信じていました。
ただ、1年くらい続けた頃、うっかり報告を忘れてしまったことがあったんです。そのとき、「あれ、今月は無いの? 」と聞かれて、とても嬉しかったです。ウェブ解析が「みんなのふつう」になったって。
パートタイムで事務員をしながら、ウェブ解析士としてウェブサイトをバシバシ改善! なんて、ドラマみたいでカッコイイです!
ある日いきなりウェブ担当者!とか、ついでにウェブ担当よろしくね!ってケース、実は多いかもしれません。地方はウェブサイトの予算がつきづらい傾向がありますし、パソコンが得意だからという理由でウェブ担当者になったという話を聞きます。そういう状況は私にとってチャンスでした。ウェブ解析士テキストを見ながらウェブ解析の知識を伝えていたので、「ウェブ解析士で学んだあれって、こういうことかな? 」と気づく場面もあって。実践しながら知識を身につけていましたね。
町おこし系のサイトでは、イベントの様子やお店情報など、町の人が知ってほしいと思う情報を重点的に載せたくなりますが、トイレや駐車場の情報がなければ、車社会の地域ではハードルになってしまう。トイレも駐車場も町の人から見ると当然のことなので気づきにくい。外からのお客様の目線でなければ見えないことです。まさにウェブ解析士的な視点だなと思っています。私は毎日、森町の外から通勤していたので、その視点をうまく伝えられたかなと思います。
インストラクショナル・デザインが活かされたウェブ解析士認定講座
森町から湖西市商工会へ移ったあと、ウェブ解析士協会の事務をしながら様々な活動に携われていたそうですね。
ウェブ解析士協会の事務局は少ない人数で回しているので、電話・メール対応などの受講者やマスターの方々の対応をしながら幅広い活動に携わりました。例えば、ウェブ解析士マスター認定講座のオンライン化にも協力させていただきました。
当時、代表理事の江尻さんだけがマスター講座を開催されていました。江尻さん1人に集約されていたものを、どうすれば他の人も関わってマスターを育てる体制にできるか考えるタイミングだったんです。まずは江尻さんの話を聞きながら、講座で教えていることを洗い出すことから始め、同期型でやるべきところと、そうでないところを整理しました。
それまでは同期型(対面や、オンラインミーティング形式等、みなが同じ時間を共にするコミュニケーション形態)を軸にした講座でしたが、非同期型(メール等、相手がいつ反応しても良いコミュニケーション形態)をとれるLMS(ラーニングマネジメントシステム)も活用した学習環境を作りました。江尻さんのほかにも、マスターを中心としたサポートチーム(受講者のお兄さん・お姉さん的な役割)も作ったりして、学びの環境をブラッシュアップしていきました。実は、この過程について、学会発表をしたり、修士論文を書いたりさせてもらいました。
現在は上級・ウェブ解析士認定講座ともに、オンライン講座が続々と増えていますね。3年前であれば、かなり時代を先取りしていたのではないでしょうか。
2017年の時点で、協会ではすでにZoomによるオンラインカンファレンスを行っていました。全国にウェブ解析のエバンジェリストたるマスターを増やすためには、日本のどこにいてもマスター講座を受講できる必要があります。以前から、東京を含め全国各地で開催していましたが、年3回程度しか開講できず、なかなか受講のチャンスがない状況。その壁を超えるためにオンライン化は必要でした。
また、上級ウェブ解析士認定講座では、講義を聞くのみでなく、レポートをたくさん作らなければなりません。以前は、レポートを書く以外は、教室に集まって一同に講座を受ける形でした。オンラインにすると、動画の講義を聞いたり、レポートを書いたりというのは、各自が自由な時間に非同期で学習できます。講師と受講者が集まる貴重な時間は、作ったレポートについてディスカッションするなど、「同期型(対面)だからこそできる学び」に使うことができます。以前の講座と比べると大きく変わっていると思います。
オンライン講座になったことで、受講する方の層も変わったのでは?
最初のオンライン講座は、仕事を定時で帰宅して家事をしたあとの参加を想定し、平日19時から21時で実施しました。受講者の中には育休中の方もいらっしゃって、画面の後ろで赤ちゃんが泣きだしたことがありました。
その方は育休明けの就活に向けて受講されていました。育休中でも就活に活かせると思って参加してくださったことは、とても嬉しかったです。
最近では、新卒入社の社員向け講座が行われていると聞きました。
法人会員さんに多いですね。事務局スタッフとしてお話を伺ったことがあるのですが、「業務は1年経験させれば身につくけれど、そこまで待てない。夏までに基礎知識を身に着けた状態でお客様の前に立たせたい」とのことで、名刺交換の研修に続けてウェブ解析士認定講座を行うような状況だそうです。
中には「ブラウザってなに? 」といった、パソコンに慣れていない方もいらっしゃいます。
そういった方にとって、ウェブ解析士認定講座はハードルが高く感じられたのではないでしょうか……?
私自身も、初級ウェブ解析士をとったときは、Google アナリティクスにログインしてみただけの状態でしたから、気持ちはよくわかります。ウェブ解析士協会のGoogle アナリティクスは、いろいろ設定してあるので、勉強できることがたくさんあります。ウェブ解析士ならば閲覧できるので、じゃんじゃん活用するといいのではないかと思います。
ウェブ解析士マスター2人によるeラーニングサービス
鈴木さんご自身も、ウェブ解析士認定講座のeラーニングサービスを始められたそうですね?
6月2日にローンチしたばかりのサービスで「e-learners」といいます。実は8年前のこの日、当時の初級ウェブ解析士認定講座を受講していました。当時はこうなることなんて想像できなかったですね(笑)
参考:e-learners | ウェブマーケティングを学ぶオンラインコンテンツ
このサービスにはどういった特徴がありますか?
ウェブ解析士マスターとインストラクショナルデザイナーがコラボレーションして設計したサービスです。同期型・非同期型のメリットを最大限活かし、学習ができるようデザインしています。
私の初級ウェブ解析士時代の先生であり、協会理事でもある田所輝美雄さんと一緒に、学習や資格取得に向けたサポートをさせていただきます。
ウェブ解析士マスターが2人で対応してくれるのは、すごく安心できますね!
今回のウェブ解析士認定講座は、Zoomによるオンライン講座ではなく、すべて非同期型。つまり、掲示板や動画を駆使した学習です。まずはテキストと動画で理解を深めていき、質問は私達、ウェブ解析士マスターが2人体制でお答えします。ですので、自分の好きな時間に学習することが可能です。動画は章ごと単元ごとに分かれていますから、得意な章はさっと進めて、苦手なところはじっくり何度も見ることができます。各章ごとの小テストや練習問題も多数準備しました。繰り返し学習できるようにしてあるので、自信が持てたタイミングで本試験を受けられます。
万が一、本試験に落ちてしまっても、再試験に申し込んでいただければ年内に限り動画の閲覧、小テストや練習問題、マスターへの質問は利用できるので、合格までしっかりサポートします。
地方在住の方や、子育て中の方など、時間に制限のある方にとってとても良いサービスですね!
私も静岡県在住なので、本当に思うのですが、地方の方は受験料に加えて交通費、宿泊費、移動時間などのコストがかかって受講へのハードルが高い。最近はオンライン講座が増えてきていますが、Zoomによる同期型の場合、開催時間の制約があります。そういった面をフォローできる仕組みと体制が作れたかなと思っています。ウェブ解析士が、ユーザーエクスペリエンスを大切にするように、ラーニングエクスペリエンス(学習体験)を大切にしたい。学び手に寄り添う学習環境を提供したいです。
「無理かもしれない」と思っても、一歩踏み出してみて
これから受験を検討されているかたへ向けて、メッセージをお願いします。
ウェブ解析士に限らず、きっかけはどこにあるかわからないので、まずやってみることが、これからの時代は重要になるのかもしれません。新型コロナによって、オンラインの可能性はさらに膨らみました。子育てや仕事で忙しくても、育児の合間や仕事の空き時間でできる学習環境が整いつつあります。まず一歩踏み出してみてください。きっかけを掴めたら、知らなかった自分にも出会えると思います。「自分はこんなことも好きだったんだ」と。
8年前、パートの事務員だった私は、紆余曲折を経てインストラクショナル・デザイナーになりました。インストラクショナル・デザインを学ぶ前は、パソコンインストラクターをしていて、「やっぱり学びは対面じゃなきゃ」と思っていたんです。しかし、今やオンラインで静岡から熊本大学の正規の課程の授業を受けています。授業はほぼすべてがオンラインで、修士論文や博士論文の発表会のみがオフライン(あと、なぜか研究合宿が温泉旅館でオフラインです(笑))。修士や博士といった学位でさえも、オンラインで取得できるのです。
最近はN高等学校をはじめオンライン完結の学校が増えてきましたね。
熊本大学のオンラインキャンパスでは、どういった講義を受けられるのでしょうか?
例えば、URLひとつと「これについて考えを述べよ」といったシンプルな課題が出されて、自分なりの答えを導き出します。学生全員で議論するので、講堂で教授の話を1時間聞くよりも、倍くらい頭から汗をかきます(笑)
しかも、24時間いつでも発言できるし、いつでも返信していい(あるいはしなくてもいい)環境で活発な議論ができるんですね。もしこれが対面式のグループディスカッションだと、花形の人とそうでない人で発言に差が出てしまうけれど、そういったことがありません。
そんな大学ですので、学生も多彩な個性を持っていらっしゃいます。病院の看護師をされている学生は、激務であるにもかかわらず積極的に参加されています。加えて、学生のバックグラウンドが違うことで、いろいろな知識のコラボレーションが生まれて面白いですよ。医療の知識と、ウェブの知識がリンクすることもあるんです。それは場所や時間の制約無く学びあえる環境があるから可能であって、時代は大きく変わりました。
ウェブ解析士も、面白いバックグラウンドをもつ方が多いですよね。住む場所や環境に囚われずに、様々な個性を持ったウェブ解析士が増えたら、さらに新しいコラボレーションが生まれそうです。貴重なお話をありがとうございました!
忙しくても、工夫次第でなんとかなります。気持ちの面で、一歩踏み出してみてください。
あとがき
子育て中の方や、長時間仕事をこなされている方にとって、学ぶ機会の確保はハードルに思われることと思います。地方在住の方は、交通費や移動コストがさらにかかるでしょう。そういう状況でも、以前と比べれば学びやすい環境が整いつつあると、鈴木さんのお話を聞いて嬉しく思いました。
まず気持ちから一歩踏み出してみる。受け身の学びではなく、自ら体験する学びをされてきた過去をお伺いでき、とてもワクワクしたインタビューでした。ありがとうございました!
鈴木さんの活動のご紹介
★e-learners ウェブマーケティングを学ぶオンラインコンテンツ
ウェブ解析士などの講座をオンライン上で学習できます。
インストラクショナル・デザインの知識をもって設計された、ラーニングエクスペリエンス重視のeラーニングシステムです。
★Facebook:https://www.facebook.com/sumahosan
インストラクショナル・デザインを実践したZoomイベントなども共有されています。