「仕事とウェブ解析士」をテーマにお送りさせていただくウェブ解析士インタビュー。42人目は、京都府長岡京市でタルト専門店「プチ・ラパン」を営むケーキ職人、友田成生(ともた・みちお)さん。
レストランやホテルなどでの勤務を経て2007年に開業。ケーキ作りのかたわらサイトを更新しつつ、さらに小規模事業者向けにウェブ事業を助言する講師も務め、シェフパティシエ・コンサルタントと「二足のわらじ」をはきこなしています。
ウェブ解析の学びを通じ「自分で気づいたことって、ワクワクするし続けられる。だからこそビジネスに効果があります」と話す友田さん。資格以外にも手に入れられるものについて、じっくり話していただきました。
(インタビュー:上級ウェブ解析士 ナカノアヤコ)
「点」の知識を「線」で結び目標へ進めるように
――閉店後のお疲れのところインタビューに応じていただき、ありがとうございます!
友田成生さん(以下、友田さん):朝は8時から、夜は7時までお店に立っています。子どもたちが手伝ってくれることもありますが、僕と妻の二人で切り盛りしています。
――その忙しさの中、2018年にウェブ解析士、2019年に上級ウェブ解析士を取得されました。
友田さん:店のホームページは10年以上前から作っていて、「WordPress」も他の人のブログなどを読みあさりながら独学で使うようになりました。経験があるということで、地元の商工会が主催し小規模事業者がウェブサイトについて学ぶ講座に、僕が講師として呼ばれました。お教えするなら体系的に知識を学びたいと思い、いろいろ比較した結果ウェブ解析士にたどり着いたんです。
上級の時は3人いた受講生が2人途中でリタイヤしちゃって、ウェブが本職でない僕は心が折れそうになりました。でも妻に「落ちたら1年間口きかない」と具体的な期間を指定して激励(?)されていたので、睡眠時間を削りながらなんとか合格することができました。今では「パティシエのわらじ脱げてるよ!」って言われてますが(笑)。
――ウェブ解析士が良かったところは何でしょうか?
友田さん:ウェブ解析士の講座では、ウェブ解析の手法だけでなくその意義やマーケティングについても学ぶことができます。その場その場でわからないことを調べてきた「点」の知識がつながって、「線」になった感じです。
さらにゴールを設定することの大切さも学びました。それまでウェブサイトの効果を感じられなかったのは、目標を設定しておらず効果の検証ができなかったからだと気づくことができました。
認定講座に試験に、と受けると金額的にも結構な負担になるわけですが、「何か変えなあかん」と思い切りました。自身のウェブメディアを運用し課題を感じていた経験が講座によってそういうことかと理解でき、試験も簡単に感じられましたよ。
お客さんに「自分が作りたいもの」を買ってもらう方法に気づく
――「何か変えないと」ということで、実際に変わったことは何でしょう。
友田さん:いろいろなお店での勤めの経験を経て、2007年に独立して自分の店を出しました。きっかけは「こういうお菓子は作りたくないねん……」という思いです。コンサルタントさんに来てもらい、「インスタ映えするような商品を作ったらいいですよ」と助言されたこともありました。でも、そういうのは作りたくないわけですよ。
ホームページには、最初は何を載せていいかわからない状態でした。いろいろ調べる中でコンテンツマーケティングという概念を知り、僕らみたいな小さなお店の生きる道はこういうことなんだと思うようになりました。自分の作りたいものとお客さんが欲しがっているものをマッチングさせれば、やりたいことができる、と。
僕にとって大きかったのは、カスタマージャーニーマップとの出会いです。それまで、集客は僕にとっては「点」だったんですね。だけどうちの店を知って、調べて、ほかの店と比較検討して、うちの店を選んでもらって……。集客するのに必要なことって一つじゃないということを知ることができました。いろいろなところで話しているんですが、いちばん効果が高かったのは店頭の案内板を書き直したことです。
――めちゃめちゃオフライン施策ですね!
友田さん:しばらく前まで「タルト専門店」って書いてたんですね。うちはタルト専門店なので。
でも小さな町なので、ケーキ屋さんに求められるのって、いちごショートケーキとかプリンみたいな「普通のお菓子」なんですよ。それが嫌になって「町の外からタルト好きの人が来てくれへんかな」と思っていた。それも少し伸び悩んでいた時にウェブ解析に出会ったんです。
それまでは自分の作りたいもの、自分のやりたいことが第一。「俺の作るもんが好きな人だけくればいいんや」という感じでしたが、お客さんの声に初めて耳を傾けたんですね。
子どもの学校のPTAの方から「自分では買っていないけど、お店のシュークリームをごちそうになりましたよ」と言われたり、店の前で「おいしいシュークリーム屋さんがあるって聞いたんですけどどこですか」と尋ねられたり。「もしかしたらうちですかね」って答えました(笑)。ずっと「うちはシュークリーム屋やない」と思っていました。でも、シュークリームは店を知ってもらうきっかけだと分かったんです。
――案内板にはなんと?
友田さん:「噂のシュークリーム、ここにあります。」です。
お店のある京都府長岡京市には、長岡天満宮などそれなりに観光スポットもあって。週末は店の入っている建物の前を若いカップルがふらっと通ることもあるんですね。文言を変えたら、「噂のシュークリームってどれですか」と入ってくる人が出てきたんです。
恥ずかしいので「いやこれお客さんが言うてはるんです」って言いながら案内しています(笑)。ウェブ解析士の資格を取っていなかったら、していなかったことですよ。
上級ウェブ解析士への学びで自分の使命を見つける
――続けて上級ウェブ解析士を取得されました。
友田さん:ウェブサイトについて僕が他の事業者に教える機会があったのはすでにお話しした通りです。それをきっかけに、個別にコンサルティングをする機会をいただきました。「ミラサポ」(中小企業・小規模事業者向けの補助金・給付金申請や事業支援)という国の制度を使ってもらいました。事業者は事業を支援してくれる専門家を無料で呼び、派遣された僕は国からお金をもらえるという仕組みで、結構な回数呼んでもらいました。それを1年半続けているうちに、上級を受けるだけのお金が貯まったんです。僕のことを呼んでくれた人たちへの恩返しという思いがいちばん大きかったですね。
――上級の講座で新たに気づいたことはありましたか?
友田さん:上級ではウェブ解析士協会の実物データを見ながらレポートを作ります。協会は、年商何億円とか、大きな規模の企業を相手にしている。僕は小規模事業者です。自分のところに比べたら売り上げ何十倍ですよ。
SNSの活用にしたって、ウェブで検索した時に出てくるのは大手を対象にした情報が多いです。Twitterも、僕は1日10回も投稿できないですよ。お菓子を作らないといけない。広告だって、月に何万円と使えるわけじゃない。無料でできることしかできないんです。コンサルさんに「集客するためにこれをしましょう」と言われてもその場だけで、長続きしない。
上級ではカスタマージャーニーマップ、コンセプトダイヤグラムなどのビジネスフレームワークを学びます。自分なりに考えられるようになりました。自分で気づいたことって、なんだかワクワクするし続けられる。だからこそ効果があります。このワクワクを教え伝えることが上級ウェブ解析士としての自分の使命だと考えています。
「事業を良くしたい」と知恵を絞る時間が大切と悟る
――いろいろな分析手法が出てきました。実践したことはありますか?
友田さん:店のサイトでタルトの記事をアップしようとしていたんですが、きっぱりやめました。リアルの導線をウェブでも取り入れようと。
「プチ・ラパン」のシュークリームに興味を持った人は、店へのアクセス方法を調べます。それをコンバージョンポイントに設定して、地図だったり、車で来てくれたお客さんのために駐車の仕方を丁寧に説明したりするコンテンツを作りました。
アクセス方法って、ランディングページになりえないと思ってたんです。ところが調べてみたら閲覧開始数がページビューの50%以上になっていたので、店が入っている施設の駐車場の公式ページと思ってアクセスしているのではないかと考えました。高級ブティックや、京都府外からの来客もある人気のカフェやアンティークショップが入っている施設なので、せっかくこの施設に来たならぜひ「プチ・ラパン」にどうぞ、というコンテンツも作りました。
あと、2020年にはECサイトも始めました。お客さんは何も物理的に身近じゃなくてもいいということですね。自分が作ったお菓子を欲しい人が、京都じゃなくて東京にいたっていいわけです。職人というか、僕の場合は自分の作りたいものをお客さんに合わせて変えることは難しい。自分の提供したいことに合致するお客さんを見つければいいということです。
――最後に、小規模事業者をはじめ、ウェブ解析の資格を考えている人にぜひご助言をお願いします。
友田さん:小規模事業者の仲間と話すと、ウェブサイトで集客できてるの?とよく質問されます。僕の経験から言うと、一つ優れたコンテンツを上げられれば長い間集客できます。ただ、みんな文章を書くのがちょっと苦手で。数をこなさないとうまくならないじゃないですか。面倒だけど、小規模事業者は身につけないといけないことだと思っています。
そして、お客さんがハッピーになるには何をしたらいいかというカスタマージャーニーマップを作ることをお勧めします。ターゲットを絞って。初めは「その人だけに売る……?」っていうのは怖いかもしれません。僕は「自分では買ってないけど食べてる」っていう、子どもの友達のお母さんを思い浮かべて作りました。
あとは、事業を良くしたいと思って真剣に知恵を絞る時間を持つことが大事だと思います。僕は補助金申請することでこの時間を確保しています。例えば総事業費30万円の補助金申請が審査に通らなかったしても、自己資金10万円の中でできることに取り組むとかね。それでもやりたくなるまで考え抜くんです。僕も何度か挑戦してきましたが、審査の合否はそのうち二の次になっちゃって(笑)。ウェブ解析士を取得した時の学びを利用してご自身の事業を磨く時間を取ることで、見えなかったものが見えてくると思いますよ。
あとがき
ご自身の作りたいタルトへの情熱と、それをビジネスとしてさらに成功させるためにスキルを磨いてきた友田さん。職人ならではの「こだわり」を感じました。オンラインとは関係ないように思える施策でも、ウェブ解析を通じて得た知見が確かに生かされています。紙幅の都合で書き切れませんでしたが「5000軒一人でポスティングした」「自社ECサイト開設1カ月後に一晩で120個売れた」などのお話もありました。お会いする機会があればぜひ直接聞いてみてください。
「プチ・ラパン」のサイトはこちら。