自ら強みを作り上げ、学んだことと経験値を武器に地方で経営改善に取り組むウェブ解析士マスター、関原 雅人さん

ウェブ解析士マスターの関原雅人さん

「仕事とウェブ解析士」をテーマにお送りさせていただくウェブ解析士インタビュー。19人目は、支援機関の専門家として、多くの経営課題に取り組んでいるウェブ解析士マスター、関原雅人さんです。

関原さんは、ウェブ解析士マスター以外にも、ITコーディネータ、フードコーディネーターの資格を持ち、そこで学んだ知識を現場で活用しています。企業でマネジメント、フリーランスで制作に携わった経験が、今の業務に活きているそうです。過去5年間の相談実績は、3,000件以上にもなります。自分をブランディング化し、相手に強みを判断してもらうために自分を差別化したことが、企業の「売り」を整理することに一役買っているとのこと。

今回はそんな関原さんに、普段の業務や、地方での取り組みについて聞いてみました。

(インタビュー・編集:上級ウェブ解析士 斉藤 陽子)

目次

フリーで独立してやっていたからこそ、経営者の悩みもわかる

関原さん、2011年にウェブ解析士マスターを取得されていますね。他にもITコーディネータの資格をお持ちですが、現在はどんなお仕事をされていますか?

今は支援機関で中小企業や小規模事業者さんの経営相談の仕事をしています。
一般的に経営相談は、税理士や中小企業診断士が扱うイメージが強いのですが、士業でない人でも専門分野の経営相談を行うことができます。

自分が経験してきた専門分野なら相談を受けられる、ということでしょうか。なにか事例を教えていただけますと。

例えば、経営計画書は作成しているが、ある事業の売上を伸ばす必要があると計画の目標数字が設定されているのですが、それを実行するための具体的な取り組み方に悩まれている場合があります。私が広告業の経験があることで具体的に何をするのか明確に伝えることができます。

経営計画書や目標数字があるだけではダメなんですね。どういった所に着目されるんですか?

まずは企業が気づいていない強みを発掘して整理し、売上を上げるための施策はウェブ解析士で学ぶKPI、KGIの考え方も用いながら、目標から実行プランで何を優先に取り組むのかディスカッションするところからスタートします。
多くの経営者は自社の強みが「当たり前」に見えてしまい、凄い強みがあることに気づかず、何を売りにしたらよいか悩んでいることが多いです。

多くの経営者の方が経営に関する悩みをもっている、ということですね。

経営者は社内に相談できる人がいないケースが多く「経営者は孤独だ」とよく言われています。

「孤独」ですか…、経営者は自信を持って社員を導くイメージが強いんですが

金融機関とうまく連携して取り組んでいる企業もありますが、社長の本音は弱みを見せると融資を受ける際に不利になるかもしれないという不安があり誰に相談したらいいか、という悩みをもっています。
支援機関に所属している私たちは守秘義務があるので、そういった相談を受けて一緒になって考えるお手伝いをしています。

一緒になってというのは経営者にとっても心強いですね

私も独立して20年経ち、創業時の悩みや経営の悩みを経験しているため、相談に来られる経営者と共感できるところがあり、信頼して頂けることも多くなりました。

支援機関とはあまり聞き慣れない言葉ですが、どういった組織なのですか。

商工会や商工会議所、県の外郭団体や士業の方が認定支援機関となっている場合があります。いわゆる経営相談の窓口のことです。
現在は、えひめ産業振興財団内に設置された愛媛県よろず支援拠点をメインに、愛媛県知財総合支援窓口、愛媛県信用保証協会、商工会議所等の相談員・専門家をしております。

扱われている相談はどのようなものがあるのですか。差し支えなければ教えてください。

1つの専門分野がデザインになりますので、チラシ広告を作りたい。デザイナーに依頼するお金がないので自分で制作する方法を知りたい。パッケージのデザインのリニューアルをしたい。地域産品で商品開発をしたい。ホームページで商品を売りたいなど様々です。

要望がたくさんあると何から取り組むか迷ってしまいそうですね。

取り組みの優先順位を整理しながら、経営者の方に実行プランの考え方を定着させる、経営者自身で行動できることをゴールとなるよう伝える努力をしています
経営者だけでなく、部門の担当者が来られることもありますので、持ち帰って社内で周知する手順について説明したりもします。

優先順位の整理とゴールを見据えることがポイントなんですね。

それを実行することによって、何か月で成果を出すのか目標設定や、成果が出たか出ていないか検証し改善する、またお客さまが離れていないかも計測する必要性を伝えます。
「こういう風にやったら良かったんだ」と手順が分かることで、1つ先のステージに進めることが多いですね。

食品業界に強みを持つように自身のブランディングを変えた

他にもフードコーディネーターの資格をお持ちですよね。関原さんは、食品業界が強みなんですか。

食品業界に強みがあると伝わるように自身のブランディングを変えたところが大きいですね。

自身のブランディングを変える…それは他の方との差別化を図るためですか?

広告代理店で飲食店や食品メーカーの仕事が多く、量販店の販促計画からパッケージデザイン、ウェブデザインまで関わっていました。
食品以外の分野も実は扱いがあり、例えば宝飾品メーカーのデザインも経験があり宝石のことも詳しかったりします。ただ、どの分野でもできますと相手に伝えると、相手は何が得意なのか迷ってブレてしまうため、食品メーカーに勤務したことをきっかけに『食品業界』に絞ったんです。

宝石のこともご存じなんですね、知りませんでした。得意なことを選別するのは難しくないですか?

自分でそれを試したように、相談に来られる経営者さんの一番の売りは何になるのか、整理のお手伝いを一緒に考えることができるようになりました。

地方ではホームページにお金をかけすぎないことも伝える

地方では都心に比べてウェブ解析士の数もそれを活用しようとする企業も少ないです。でも、先ほど関原さんがお話してくれたように、まわりを動かすことができれば地方でも解析を広めることができますよね。

はい、十分広めることができると思います。
地方では2つの傾向があり、
・連絡先や会社の存在を示すサイト
・ネット通販やお客様の問い合わせを受けるサイト
です。

地方の傾向が2つということですが、なぜなんですか?

企業の担当者もウェブサイトの分析をしたいと考えているのですが、1日10人程度しか訪問しておらず、アクセス数が十分に稼げていないため、分析の指標が取りづらい、というサイトも多いです。

地方だとそういった企業が多いですよね。

企業にこのサイトの目的を尋ねても、「目的?」というような反応で、ウェブサイトぐらいないとダメかなと知人に頼んで作ってもらいましたというような「ただ作っただけ」という返答も多いです。
目的やゴールが決まってないからただサイトがあるだけで、再度訪問しても何も変わっていない。だから、「ウェブサイトに事業の成果につながる目的を持たせませんか?」と話をするようにしています。

ウェブの目的意識をもったことのない企業の反応はいかがですか。

それでも『目的がない』と言われる企業もあります
そういった場合は、ウェブサイトのリニューアルの話は一旦保留します。外注に出しているところは費用もかかり、内製化されている作業の工数もかかるので。
ウェブはそのまま会社の存在だけわかるようにと。

会社の存在だけ、ですか。

その変わり、企業の取り組みを知ってもらうために、SNSで情報発信をすることを伝えます。
手軽に発信でき、誰かからコメントが付くと喜んでくれますね。これを繰り返し、発信すれば反応があるということを体感してもらいます。

なるほど、経験すれば意欲がわいてきますよね。

企業からすると今まではウェブサイトで問い合わせがなく、ウェブの効果を考えることもなかったのですが、情報発信すると双方向のコミュニケーションができるきっかけになると担当者が認識してくれます。
ここで初めてウェブサイトにも手を入れようかという話になってきます。
企業にとって『一番効果があるものは何か?』を考えて、力を入れてもらうところをどこにするのかを判断して伝えています。

企業の担当者にコミュニケーションを図れる実感を持ってもらわないと前に進まないんですね。ウェブサイトとSNSのどちらに力を入れたらいいか尋ねられたりしませんか。

そうですね、この段階では『ホームページにお金をかけすぎないように』ということも伝えるようにしています。

なぜ「お金をかけないようにと」伝えるんですか?

やる気スイッチが入りすぎて奮発してしまうケースがありまして……、ちょっと落ち着いてもらうためです。
物販や問い合わせが目的の場合は、お客様を引っ張ってこれる策はあるのでウェブサイトの改善に誘導するようにしています。利用者が検索した際に、目的にページに到達できるように検索してもらうキーワードを一緒に考えたります。

ゴールが決まると施策も組み立てやすいですね。SNSの場合はどう伝えられるんですか?

SNSだけだと、発信した情報がタイムラインで流れてしまって後から情報を拾うのが難しいので、ホームページやブログで記事を増やすことをお伝えします。
バックナンバーやカテゴリ分けしたページなど後から情報を拾えるという違いを示して伝えていきます。

では、やはりサイトのほうが地方でも有効、ということでしょうか?

地方だと、SNSでの情報発信が有効に働くケースが多いですね。
継続して発信するために、担当をグループ化し情報発信する目的や内容を企画して、原稿を書いて、リーダーがチェックをするなど、漏れなく発信できる仕組みを整理する手伝いをします。
最終的に改善手法がわかると、SNSだけでなく、ウェブサイトの改善も着手したいと意識が少しずつ変わってくることが多いですね。

ITコーディネータのグループワークは交渉力を身に着ける場

ITコーディネータとは、どんな知識と技術を学ぶ資格ですか?

経営に役立つIT活用に向けて、経営者の立場に立った助言・支援を行い、IT経営を実現するための資格です。
これは、『IT経営推進プロセスガイドライン』というテキストで学ぶことができます。
資格を取得する要件は2つあり、1つめは、ケース研修という集合研修をグループワークに参加し修了証をもらうこと。
もう1つは、ITC試験で合格すること、この両方で合格という基準になります。
グループワークでは、参加者の仕事環境や取り組み方が全く違う人たちと一つの経営課題に対して検討し合います。
考え方の違う人たちと一緒に、題材となる企業の現状分析や将来のあるべき姿を整理し、実行プランを計画していきます。

同じ考えではない人とすり合わせて業務を進める能力は大事ですよね。その能力は会社で働いている人にも役に立つスキルだと思います。

本来、企業は社員が同じ方向を向いて利益を追求したり、働き甲斐を見出したりするのですが、やはり利害関係があるんですね。

どこの会社もあると思います。

新しい取り組みをスタートさせようとすると「自分の部署はこれをやりたくない作業が増えるから嫌だ」とか「他の部署がこれをやってくれたらもっと自分たちの作業が効率化できるのに」とか。
自分の意見と相手の意見の妥協点を探る、押し通すため根拠を示して納得させるなど交渉力を身に付ける場を実践で体験できますね。
フリーランスの人で部下がいる経験がない場合でも、グループワークによってチームの意見を整理するなど、組織のことを学ぶ機会になったり、クライアントの組織の考え方を身に付けるきっかけにもなります

それはいい経験になりますよね。

研修に参加する人たちは、ITに詳しい人もいるし、そうでない人もいます。企業の中でも、ITに詳しくない、パソコンやタブレットなど不得手な人もいます。
研修のなかで、得意なことに取り組んでもらったり、不得手なものは教え合うなど、経営課題の解決に向けて役割分担を行い取り組むことが広い視野を持つきっかけになります。

ある経営相談の中でも、社長からシステム導入しても使いものにならなかったという話を耳にすることもありますが、その原因はITリテラシーや企業の成熟度を考慮していないので、使い切れないという問題があるためです。
システム会社さんに言われるがまま、また理解が乏しいことで積極的に関わらず任せすぎで、自社の意見を明確に伝え切れていないという場合もありますね。

通常の業務では、同じ方向を向かないといけないのに、みんなが違うことを言い出す場面は私も経験があります。そういう状況で上手くまわりを動かすことができるようになりたいです。

グループワークでは、チームリーダーが必要になるのですが、私の仕事で例えると経営者さんがチームリーダーと同じになります。そうした場合、経営者の意欲を高め、積極的に経営者が社員に伝えることをしないと、事業が前に進まなかったりします。
経営者の背中を押すアプローチが、事業計画を推進していく上で必要になります。そこで、心理学であったり、コーチングであったり学んできた知識を活かしながら、経営者の背中をひと押しする仕事をしています。
どのように伝えたら相手が自発的に興味を持って動いてくれるか、やる気になってもらう伝え方はないか、そういったところを意識して仕事をしています。

心理学やコーチングの話がでたので、もう少し実務で活用してきた経験を聞かせてください。

会社員の頃にも部下に動いてもらうにはどう伝えたらいいかを考えていました。すぐに着手できない原因について、やり方がわからないケースもあるし、たまたま気分が落ち込んでるときもあるので、ヒアリングをしたり、取り組む前に困っていることがないか声掛けをしたりしていました。

できない原因がわからないと業務が進まないですよね。

現在の仕事も同じで、ウェブ解析士だからといって経営者に「こういった企画がいいですね」と伝えても、その企業内でなかなか進まないケースがあります。
それは社員さんが経営者から言われたとしても、やったことがなかったりとか、何から取り組んだらスムーズにいくか、失敗したらどうしようという不安から動けないケースもあり、しっかり担当者と取り組み方の手順や疑問点を聞き取りながら計画を進める必要があります

更新の要件がある資格だからこそ価値がある

今までのお話から、ITコーディネータは、まだITを導入していないお客様にも提案するので、学んで資格を取っただけでは、喜んでもらえる提案は難しいですよね。

もちろん、継続して知識を重ねていくことは自身のスキルを上げる上でも必要になります。
ITコーディネータは実践力が求められるため更新要件には学習活動と実践活動があります。学習時間数や自身でセミナーの講師をしたりすることでポイント加点となり、規定ポイント数を超えないと資格維持ができない制度を作っています。
ウェブ解析士に資格更新要件があるので、個人的にはとても良いと考えています。

そうですよね。学ぶことは常に企業に求められる人材として必要なことです。

資格維持の更新制度がない資格は、一度資格を取ってしまうと、新しい知識を学ぶ機会がないまま資格維持ができてしまうので、社会の環境がめまぐるしく変化する中で資格として成り立つのか不安なところもあります。
だから、ITコーディネータ、ウェブ解析士のように資格更新の要件があるのは、自ら学べる機会をつくるきっかけになり、学ぶ機会は新しい仕事のチャンスにつながるのでとてもいい仕組みだと考えています。

あとがき

今回インタビューをした関原さんは、私がウェブ解析士の資格を取得するときに教えてくれた講師の先生です。最初に会ったのはもう7年以上前になります。

都心に比べて地方では、IT技術の導入が遅れていたり、自社の商品を売る技術がなく、売上に伸び悩む会社が多くあります。

それは、会社の古い体制を変えれない組織の問題であったり、新しい知識に触れる機会が少ないことも理由のひとつだと思います。

そんな環境で、ウェブ解析士として事業の成果を出すためには、関原さんが話していた、心理学やコーチングといったまわりを動かすスキルが必要ですよね。

いろんな環境下の人と意見を交わして企画をすすめていく、というITコーディネータの研修に似たグループワークを、ウェブ解析士協会でもやってみたいと思いました。

インタビューの後、「今日は、近くの薬膳料理をやってるお店に行って晩ごはんを食べる」と言われていました。そのお店も関原さんが、経営のアドバイスに関わっているそうです。

晩ごはんついでに、経営者と話をするのだとか。

伝え方で相手の心を開かせ、悩みに寄り添い、解決の手伝いをしていく、そんなウェブ解析士マスターの関原さんは、これからも地方の多くの経営者から頼りにされるに違いない、と思いました。

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