1. はじめに
私はウェブ解析士協会を一面では応援する立場であり、また一面では批判する立場にあります。応援しているのは、ウェブ解析士という資格を通して、ウェブ活用を支援するプロフェッショナルを育成されていること。批判しているのは、資格制度にすることで、育成以上に自らの収益のためのビジネスになってしまっていることです。つまり、貢献と収益のバランスがとれていないだろう、ということです。
私自身、ismで多くのウェブ解析士に対してプロフェッショナル教育を行う立場にあり、また国内ではもっともロングセラーであるウェブ解析書を執筆している立場の者として、今回解析士協会と解析士に提言をさせていただきます。
機会をくださった江尻さんに感謝します。
2. ウェブ解析士では生きていけない
ウェブ解析士には社内ウェブ担当者の立場にある方と、外部企業を支援する方がいらっしゃると思います。私が特に問題視しているのは、外部企業を支援する方です。
私が解析を仕事の一部として取り組み始めたのは2005年くらいだったと思います。そして、解析に関する最初の著書が2008年です。国内では古いほうです。解析業界をある程度知る私から見て、解析だけで食べていくのは不可能です。なぜなら、解析はをどんなにやっても直接成果にはかかわらないからです。解析は裏方なのです。それに対して、リスティング広告やウェブサイト制作は、それによって収益増が見込まれます。クライアントの視点では、解析は「コスト」、リスティング広告やウェブサイト制作は「投資」なのです。だからこそ、解析を語るときは、かならずリスティング広告や、ウェブサイト制作による具体的な改善案とセットで語らなければなりません。
ウェブ解析士は、ウェブ解析のためのツールの設定や、レポーティングで食べていく、というイメージをお持ちの方もおられると思います。しかし、私の知る限り、解析の歴史の中でそれだけで食べているような人はいません。専門性が高まるほどウェブマスターになります。あとは解析ツールを使って、改善を提案し、改善で収益を作るのが普通です。「ウェブ解析士」という名前が独り歩きして、まるで税理士や会計士のような国家資格のように、「ウェブ解析士」という職種があるかのように錯覚しますが、古くからウェブ解析だけで食べている会社はありません。
3. ウェブ解析士資格取得はスタートライン
それでは、ウェブ解析士資格を取得して改善まで支援できるかというと、ismやセミナーで出会うウェブ解析士資格者を見ていると、できない方がほとんどです。他のマーケティング手法についてのスキル、知識がありませんし、経験もありません。信頼できるプロのそばで実践経験がないと2~3年の短期間で実務レベルに到達するのは無理でしょう。
ismではケーススタディコースというプログラムがあります。会員が実際に支援している企業の案件を発表し、それに対して会員同士でアドバイスをしあうプログラムです。3年目以上の会員が参加し、2016年度は年間10回、大体1か月に1回行われます。
進捗を見ながら一つの案件の始まりから終わりまで立ち会えるため、抽象と具体、部分と全体、多角的な視点で議論をし、クライアントを含めて合意形成していく感覚が学べます。これは一度学んだら終わりというものではなく、コンサルタント実務に踏み込んだ方が何年も継続的に受けるプログラムであり、コンサルティングの成果を伸ばすための支援プログラムでもあります。当社でもコンサルタントを名乗るには最低5年はかかります。私と毎日接しているようなスタッフでもそのくらいかかるのですから、ケーススタディも1年、2年では足りません。
ウェブ解析士協会でもコンサル体験というイベントがあるようですが、一部の方が受講するものではいけないと思いますし、また1度や2度受けるだけではなく、定期的に、継続的に、長時間受講しなければ身につかないでしょう。むしろ実践が本科で、従来の座学はすべて初級ととらえたほうが良いと思います。
4. 食べていけるウェブ解析士になるには
ウェブ解析士という枠組みで食べていけるようになるのは難しいと思いますが、ウェブ解析士資格取得から、食べていけるようになるまでの最短コースを提示します。
1)ウェブマーケティングの7科目を広く浅く学ぶ
ウェブマーケティングの7科目とは、戦略、調査分析、SEM、オウンドメディア(ブログ、SNS)、コンテンツ企画制作、サイト設計、ウェブデザインです。
特に、3C(戦略)、戦略コンテンツの企画制作は着手しやすく、成果につながりやすいため、収益化しやすい部分です。真っ先に取り組むべきところでしょう。
*3C参考 http://www.webconsultant.jp/strategy/c.html
2)2~3年 実践に携わる
本質的には経験からしか学べません。日々実務に携わっていない限り、ウェブ活用を支援する人材になることは難しいでしょう。ソムリエも職業従事者と趣味の人では資格を取得する難易度が違うと言います。初級資格はまだしも、それ以上の資格は実務従事者のみが取得できる資格としたほうが良いでしょう。
5. ゴンウェブコンサルティングの場合
当社は、ウェブ解析単体で請け負うようなことはほとんどありません。あったとしても、30万円~50万円くらいで、まずは3時間くらいお話を聴きます。その後、簡単な環境調査をして、Google アナリティクスからダウンロードしたPDFを印刷してマーカーを引き、コメントする程度です。設定も、トラッキングコードと、目標設定、ECならEコマース機能の設定くらいです。
それよりも多いのは、サイトリニューアルのシーンにおいて、1,000万円くらいの規模の案件の中で、100~200万円を調査分析分として請け負うことです。期待されるリターンが大きい分、投資も大きくなります。その費用の中で、競合分析や市場規模の調査なども行いながら、さまざまな視点でウェブ解析も活用します。大きな視点では、ユーザーのモデル化、売り上げ予測、環境変化やユーザーの満足度評価など。小さな視点では、リスティング広告の評価や、TOPページメインビジュアルのA/Bテスト、商品一覧ページの一覧性の最適化など、試行錯誤しながら評価を行います。やはり、改善作業が伴ってこその分析の価値なのです。
これらの仕事はウェブ解析士というよりもウェブコンサルタントとの仕事でしょう。呼び方はこれからも変わっていくかもしれませんが、いずれにしても、企業のウェブ活用を支援する人材はこれから爆発的にニーズが増えてくると思います。小規模の飲食店や美容室など、個人事業レベルの事業者でも、ウェブを活用しています。ぐるなびなどが月額2~10万円程度で月次契約をしますが、このくらいの投資は必須になってきているのです。すべての事業者にとって、ウェブ活用を支援するプロが必要になるでしょう。税理士は全国に7万人程度いますが、作業の重みを考えると、その数倍のウェブ活用支援人材が必要になると思います。
6. ウェブ解析士協会への提言
以上はウェブ解析士を目指す方への提言ですが、最後にウェブ解析士協会への提言をまとめます。
- ウェブ解析士のキャリアに対する優良誤認をさせない
- ウェブ解析士というコストに見られがちな範囲でスペシャリストを目指さない
- 上級資格は実務経験者以外は取得できないようにする
- ウェブ解析士資格者へのウェブマーケティング学習機会と実践機会の提供
特に1から3はウェブ解析士のアイデンティティを変える提案ですし、組織としての収益にも大きくかかわる部分ですから、すぐには対応できないかもしれません。しかし、4の学習機会の提供は、すでに多くのニーズもあると思います。早急にウェブ解析士の地方支部の中で組織を立ち上げたほうが良いと思います。
以上、簡単ではありますが、ご提案させていただきます。
もし、ismにご興味がある方はぜひこちらのイベントにご参加ください。
⇒https://www.internet-strategy-marketing.org/seminar/osaka/