株式会社まぼろしの益子です。
懇意にしているウェブ解析士の中には、マーケティングを得意としている人が少なくありません。知識や経験もさることながら、目標(KPI)設定のうまさ、業務の組み立てのうまさなど、本当に学ぶことが多いと感じます。
わたしが本腰を入れてマーケティングに取り組みはじめたのは、わずか5年くらい前。それまでは、むしろマーケティングなんて必要ないと思っていたくらいです。(※CSSNite Shift10のフォローアップメッセージへリンク)その後、いくつかの心境や立場の変化をへて、今日に至ります。
さて、今回紹介したいのは、後藤晴伸さんの『ウェブマーケティングという茶番』(経営者新書、2016年8月)という本。
大げさな言い方をすれば、産業の健全な発展には「アンチテーゼ」が不可欠です。本書の存在を知ったとき、中川淳一郎さんの『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書、2009年4月)を思い出したのは、書名のインパクトもさることながら、業界へのアンチテーゼという点で共通しているからでしょう。
ただし、この本が対象としているのは、ウェブマーケティングという仕事の受託者ではなく、委託者である企業側です。章名、節名に刺激的な言葉が躍りますが、本文は抑制的な筆致であり、しっかりとした経験の裏打ちと、仕事に対する熱意を感じます。
たとえば次のような意見に、わたしたちはどれだけ有効な反論ができるでしょうか。一緒に考えてみましょう。
わたしたちはどれだけ有効な反論ができるだろうか?
その①
ところがこの人なら大丈夫と思って任せた途端、実際に担当につくのは経験の浅い若手の社員。それっきり、信頼を置いていた優秀な担当者は一切顔を出さなくなります。(中略)ウェブにしてもマーケティングにしても、目に見える物を売っているビジネスとは異なり、素人には分かりにくい話です。そこにつけ込んで次々とカモにしているのです。(22ページ)
ウェブマーケティングやウェブ制作は、製造業ではなくサービス業であり、担当者すべてが一定以上の品質のサービスを提供することのむずかしさを突いています。関連して、ウェブ業界全体で「すぐに結果が出る」「成果が測定可能である」ことを金看板にしたことが、結果的に自分たちの首を締めてしまったと考えます。こういった点を強調する「助っ人」的な提案ではなく、クライアントのパートナーとして、長く付き合う前提でプランニングをしてくれるのがよい会社だと思います。
その②
しかしリスティング広告やSEOを単品で扱っている多くの会社は、自分たちの商品をいかに売るかということしか頭にありません。ですから仮に効果検証をしたとしても、総合的な視点からの提案はできないのです。(25ページ)
ウェブマーケティングも分業化が進み、特に都市部を中心に、得意分野に特化した会社が増えました。ただ、ひとつの分野だけという会社は減り、事業ポートフォリオとして複数の分野を主力としているところが増えてきた印象です。また、個人的には、筆者と同じように、複数の手段と組み合わせ方をトータルで示し、アクションプランを提案するように心がけています。
その③
代理店への広告手数料は、毎月かかる広告料金の20%が一応業界の通例となっています。どれだけの仕事をするかによりますが、私はそれでも安いぐらいで最大20%までは許容範囲と考えてます。手数料はよく価格競争になりますが、25%とか30%と高めに設定して値下げしないところは仕事に自信を持っているので、むしろ安心できる代理店ではないかと想像します。(62ページ)
たとえば広告費を月額200,000円とすると、手数料(代行費)は40,000円。おそらく多くの会社の半人日から1人日程度でしかありません。打ち合わせやレポートのコストも含めれば、PDCAに十分な時間が割くのはむずかしく、筆者の意見はもっともといえそうです。ただし、あらゆる作業を代行費の枠内でやろうとするとムリがありますが、たとえばクリエイティブ制作、大幅な設定変更、レポートに関するコストをきちんと切り分ける、といった工夫はできると思います。
その④
多くのウェブマーケティング会社は、クライアントから依頼のあった広告を運用したらおしまいという姿勢です。ここまで集客したのだから、言われたことはもうやった、後は売れても売れなくても自分たちの責任ではないというわけです。(178-179ページ)
代理店や制作会社は結果責任をとりようがなく、むずかしいところです。成果報酬型の契約にするのもひとつの手ですが、これはこれでそう簡単にはいかない印象が。すでに書いたとおり、長く付き合う前提でプランニングをすること、効果検証にまで関わらせてもらうこと(追加施策の可能性も考慮してもらっておくこと)が、やはり大切だと思います。
最後に
さて、個人的な経験として、ウェブサイトの新規構築やリニューアルを依頼する企業担当者のレベルが、ここ数年でかなり上がった印象を持っています。優秀な人材がウェブ担当者になるケースが増えてきたこと、MA(マーケティングオートメーション)ツールの普及などによって、費用対効果がいっそうシビアに求められるようになったことが大きな理由と考えます。
この感覚が正しければ、今後ますます、ウェブマーケティングという仕事の要求水準が上がっていくはずです。人工知能(AI)も急速に進化しており、マーケティングの分野でも自動化の波がこれまで以上に大きくなるでしょう。
2016年には、電通によるインターネット広告の不正請求事件、DeNAのキュレーションサイト問題がありました。ウェブマーケティングやインターネット広告業界に、自浄作用が求められているのは明らかです。
自分の身近な仕事と、このような大きな出来事とを行ったり来たりしながら、身につまされる思いで本書を読み進めたのでした。