老舗アパレルブランドのECサイト売上を3倍にした、「ペルソナへのラブレター」とは?

こんにちは。株式会社ピージェーエージェント代表取締役の加藤です。
今回は、全国に十数店舗を展開している老舗アパレルブランドの事例をご紹介します。

スタッフを集めたワークショップを通じて、自社の強みを改めて棚卸しし、理想となる顧客像(ペルソナ)を明確にすることで、顧客の心情を深く理解した上でのブランド戦略を立案。それらの戦略に基づいた一貫性のあるマーケティング施策の実施により、ECサイトの売上を前年度の3倍にすることに成功したというお話です。

目次

実店舗ビジネスの伸び悩みを感じ、ネット販売の可能性を模索

直営店・卸売店などを含め、全国十数店舗の実店舗での販売を主軸として、10年以上の歴史をもつ老舗アパレルブランド。長い歴史の中で、コアなファンは多くついているものの、新規顧客の獲得がなかなかうまくできずに苦慮していました。

実店舗の家賃上昇や、店舗販売員の人件費の高騰などの理由から、「実店舗での販売」というビジネスモデルに限界を感じており、固定費が少なく、日本全国の広い商圏を対象にできる「ECサイトでのネット販売」に注力をしていきたいと考え、弊社にご相談を頂きました。

当初の弊社へのご用命は、「現状のECサイトは見た目が古臭いものになってしまっているので、若者にウケるような時流に合った最先端のデザインにして欲しい」というものでした。

ECサイトのデザインリニューアルで問題は解決するのか?

「ECサイトのデザインのリニューアル」というご用命でしたので、すぐに具体的な制作作業に入ることもできました。しかし、「デザインの変更」はあくまで手段に過ぎず、戦術の枝葉レベルの小さな話でしかありません。弊社では、根本の問題解決にはならないと考えました。

「新規顧客獲得」「売上向上」という目的を達成するためには、しっかりとしたブランド戦略を基盤として、それに沿ったデザインのリニューアルを実施することが必要不可欠です。そのような考えのもと、弊社ではECサイトの具体的な制作の話に入る前に、ブランドとしてのアピールポイントやターゲットとする顧客などの戦略面を、まずは丁寧にヒアリングする所から業務をスタートさせました。

ヒアリングの中で見えてきた本当の問題点

「御社の一番の売りは何ですか?」
「御社はどのようなお客様をターゲットとしていますか?」

さまざまなヒアリングを実施する中で、徐々に問題点が浮き彫りになっていきました。それは、「ブランドとしての一貫性の無さ」でした。

10年以上の歴史の中で、なんとなく「自分たちのブランドらしさは、このような雰囲気だ」というイメージはあるものの、会社として明確に定義されているものはなく、スタッフ一人ひとりの認識がバラバラだったのです。

各店舗のディスプレイ、ブランドサイト、ECサイト、販売促進方法などの方向性はそれぞれのスタッフの自主性に委ねられ、統一感がまったく無い状態で、一貫性を持った効果的なメッセージの発信ができていませんでした。

フレームワークを用いた現状整理と戦略立案

弊社からのご提案は、「ECサイトのデザインのリニューアルを実施する前に、まずは根本となるブランド戦略を立てましょう」というものでした。

スタッフを集めて複数回のワークショップを開催し、「自分たちのブランドはどのようなブランドなのか」ということを棚卸しして、話し合いの中で一つひとつ明確にしていきます。具体的には、まず自社(Company)、顧客(Customer)、競合(Competitor)の3C分析を進める所から始めました。

「今までこのようなフレームワークに当てはめて考えるようなことが無かった」という同社。しかし、経営層を含めたスタッフが集まり、時間をかけて丁寧に議論することで、自社ブランドを改めて俯瞰し把握していきました。

その中で、「企画から製造までを一貫して自社で行うことによる商品品質の高さ」「デザイナーによってこだわってデザインされた柄」などの強みが明確になるとともに、「大量生産できず安価での販売が不可能」「新柄などを頻繁にリリースすることが難しい」などの弱みも見えてきます。さらに、競合となるアパレルブランドを挙げ、競合のウェブサイトやプロモーション方法も細かくチェックしていきました。

すると、どの競合ブランドも、クーポン配布やポイント付与などの「お得感」をアピールするプロモーションばかりを実施しているということが分かってきました。そこで、同社では「会社としての歴史、各商品の開発秘話、デザインへのこだわりなどのストーリーを丁寧に伝えることで、他社とは異なる特別感をアピールする」というブランド戦略に舵を切ったのです。

理想とする顧客増(ペルソナ)は誰なのか?

市場にどのような方向性でアピールをしていくか、大まかなブランド戦略が決まったら、よりエッジの立った効果的なマーケティング施策を実施する必要があります。そこで、ペルソナの設定を実施しました。

ペルソナとは、自社の商品やサービスの対象となる理想の顧客像のことです。こちらも3C分析と同様に、経営者を含めたスタッフが集まり、丸一日議論をした上で時間をかけて丁寧に作成していきます。

そして、できあがったペルソナは「伊藤さやか」さん。32歳、埼玉県出身で横浜市在住、既婚で子供は2名・・・世帯年収、趣味、趣向、悩み、好みの服装、普段接するメディアなどの細かな設定を考え、顔写真のイメージ画像なども含め、A3用紙数枚にも及ぶ具体的なプロフィールを記載したペルソナが完成しました。

一貫性のあるメッセージの重要性

ここまで実施した上で、「では、ペルソナに対してどのような訴求をしていくのか」という具体的な議論に落とし込んでいきます。

「商品紹介ページにデザイナーからのコメントを入れよう」
「メルマガやSNSで商品企画の過程を発信しよう」
「過去のご購入者様にブランドブックを郵送しよう」

など、各スタッフがさまざまなキャンペーン施策のアイデアを出し、実施していきました。

「販売促進ではなく、伊藤さやかさんへのラブレターを書く」というコンセプトのもとでアイデア出しをすることで、これまでのように方向性がブレることなく、一貫性を持って自社の魅力を顧客に伝えることができるようになったのです。

また、同社では、今まで広告などのプロモーション施策はとくに実施していなかったのですが、ペルソナが明確になったことで自信を持った広告展開が可能になりました。ペルソナである伊藤さやかさんに近い属性の顧客にターゲットを絞って、Facebook広告をはじめとしたターゲティング広告を積極的に実施をしていったのです。

一貫性のあるメッセージの発信、ターゲットを明確にした上でのウェブ広告の活用によって、結果として前年度の売上の3倍にまで売上を伸ばすことができました。そして現在、さらなる売上の向上を目指して、当初のご用命であったECサイトのリニューアルに取り組んでいます。

ブランド戦略立案による副次的効果

今回のブランド戦略の立案にあたり、同社の経営者様から、「売上向上以外の副次的効果があった」というお言葉を頂戴しました。

それは、「スタッフのモチベーションの向上」です。

今までは会社として明確にブランドの方向性を定めていなかったために、どこか一体感の無い組織になってしまっていたとのことでした。しかし、今回実施したブランド戦略立案の一連の過程でのワークショップなどを通じて、「我々はこのようなブランドなんだ」「我々のお客様はこのような人なんだ」ということが明確になり、組織としての一体感が出て、スタッフのモチベーションの向上につながったと感じているとのことです。

ブランド戦略を立案するということは、売上向上以外の観点においても、企業にとって非常に大きな効果が期待できると言えます。新規顧客の獲得に悩んでいる方は、一度初心に返って、3C分析とペルソナを作成し、方向性を確認してみてはいかがでしょうか。

デジタルマーケティングを基礎から総合的に学ぶには

Google アナリティクスをはじめとしたGoogle系のツールは、その使い方を知ることも大切ですが、使うための戦略や設計が必要です。それは、ビジネスに成果をもたらすために必須の考え方です。

ウェブ解析士協会では、このようなデジタルマーケティングの基盤となる「ウェブ解析」を体系的に学べる環境と、知識・技術・技能に一定の評価基準を設け、あらゆるデータから事業の成果に貢献する人材を育成しています。

ブランドとしての一貫性

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この記事を書いた人

株式会社ピージェーエージェント代表取締役。中央大学理工学部卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社に入社。IT・WEBを活用したデジタルマーケティングに関する法人企業向けコンサルティング業務に従事。顧客の購買プロセスに基づいたマーケティングシナリオ設計、メールマーケティングを基軸としたCRMコンサルティング等、法人企業の売上向上に寄与するコンサルタントとして活躍。その後、2016年、株式会社ピージェーエージェントを設立、代表取締役に就任。ブランド戦略の立案を強みとして、ブランディング・マーケティングに関するコンサルティング事業を展開している。

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