「事業分析から考えるウェブ制作」競合ひしめく分野で、後発製品としてリリースした企業の事例

こんにちは。ウェブ解析士マスターの古橋香緒里(ふるはしかおり)です。
株式会社フェイスインテリジェンスという会社で、中小企業のウェブ活用のお手伝いをしています。

ここでご紹介する事例は、AIを導入した「クラウド会計」という競合ひしめく分野で、後発製品としてリリースした企業の事例です。市場拡大を目的とした事業分析から、ウェブ制作に落とし込むまでのワークフローをご紹介したいと思います。

アーバン・コーポレーション株式会社は、25周年を迎えた社員数230名の会社です。本社は横浜にあり、システム開発と経理代行が主力事業です。同社はこれまで蓄積した開発力と経理業務のノウハウを活かして、クラウド会計・勤怠給与ソフト「JOBるぽ!」の開発を進めていました。

弊社は4年前からプロジェクトに参画し、主にビジュアル面のロゴ、ネーミング、UI構築を担当していました。そしてこの度、2018年2月に本格的にリリースを迎えることになり、マーケティング活動を推進していくための土台となるウェブサイトの制作を担当させていただくことになりました。

目次

クラウド会計ソフトの事業分析

皆様ご存知のように「クラウド会計ソフト」という製品カテゴリの認知は十分広がっています。ところが、会計ソフト全体における「クラウド型」のシェアは2017年9月時点でわずか15%。

スタートアップ企業を中心に利用者が増えているものの、市場は伸び悩んでいます。このような状況で、後発製品をリリースする場合、先発ソフトと類似した訴求をしても市場の伸びは期待できません。新たなアプローチを検討する必要がありました。

クラウド会計ソフトの市場が伸び悩む2つの要因

1.入力速度が遅く実用的でない

クラウド会計ソフトの最大の強みは、仕訳と記帳作業を効率化できることです。金融機関と連携し、AIによる自動仕訳で簡単に記帳が完了します。

しかし、手入力した場合の速度は、インストール型のものよりも遅く、現金取引や手形取引が多い企業には実用的ではありません。

2.会計ソフトの選択権は税理士にある

中小企業の場合、税理士が利用するソフトを活用する企業が少なくありません。税理士を必要とする企業は税理士のすすめる会計ソフトを導入するため、会計ソフトの選択権は税理士にあるといえます。

新しいカテゴリで、先発との違いを発信することに

そこで「JOBるぽ!」では、クラウド会計ソフトの有料プランへ登録した企業に、これまで主力事業としてきた「記帳代行」と「税理士による申告サービス」をオプションとして提供することを考えました。

つまり、現金取引が多い企業には、記帳代行サービスを提供し、税理士を必要とする企業には申告サービスを提供します。これにより企業は、積極的にクラウド会計を導入できるようになり、結果として会計業務の効率化とコスト削減につながります。

「JOBるぽ!」の提供するサービス範囲をまとめると以下のようになります。

クラウド会計の導入は一部の業務を効率化できるのに対して、「JOBるぽ!」は税理士のように会計業務全般をサポートできることがわかります。

会計業務全般を任せたいという需要はどのくらいあるのか?

税理士とほぼ同等のサービスを提供できるということで、次に税理士の需要を調査しました。会計ソフトの需要と比較したものが以下になります。

1.Googleトレンド

会計ソフトより税理士の検索ニーズが圧倒的に多いことがわかりました。

2.シミラーウェブ

検索結果の上位に表示される税理士紹介サイトはシェアNo.1クラウド会計ソフトの10倍のアクセスがありました。

3.「税理士」の検索結果

「税理士」で検索して表示される広告はマッチングサイトが並びました。この検索ニーズに「JOBるぽ!」を提案できると考えました。

以上の分析により、需要が見込めると判断し、記帳代行と税理士による申告サービスを包括したクラウド会計サービスとしてマーケティングをすすめることになりました。

事業分析を元にセグメンテーションとターゲティング

税理士と契約している中小企業からターゲットを絞り込むために、中小企業庁が実施した「平成26年度 中小企業における会計の実態調査」のデータを元にセグメンテーションとターゲティングを行いました。

データを元にセグメント別に企業の割合を記載したものが以下になります。

上記の表より、ターゲットは以下のように設定しました。

  • 年間売上高1億〜30億円
  • 毎月自社で記帳業務を行い、決算のみ税理士に依頼している企業

コンセプトダイアグラムでビジネス全体を可視化

コンセプトダイアグラムとは、顧客の気持ちの変化と、態度変容を起こすための具体的な「施策」を図解したコミュニケーション戦略マップです。

顧客が製品を認知してから理想のゴールに至るまでを5つのステップ(黒い枠)で表し、態度変容を起してもらうための施策(青い枠)をあげ、戦略全体を可視化しました。

これにより、顧客が「JOBるぽ!」を知って活用するに至るまでの態度変容の様子がひと目でわかるようになります。

目標達成のプロセスを計測できるようにKPIを設定

KPI(重要業績評価指標)は目標達成プロセスの実施状況を計測するために、実行の度合いを定量的に示すものです。

各ステップにはKPIを設定し指標を取得しています。これにより、どのステップにどれだけの顧客がいるのかわかるようになっています。

こうすることで、事業の現状が一目で把握できるようになり、施策の優先順位がつけやすくなります。

例えば、各ステップのKPIをみたとき「使って利便性を感じる」まではうまくいっているけれど、「本格的な活用」や「他のサービス利用」には至っていないとします。その場合、アカウント登録しているけれど活用していないユーザーに利用を促す施策を優先的に打つことが出来ます。

具体的には、JOBるぽ!ではカスタムディメンションに会員IDを設定しているため、仕訳登録件数といった外部データをGoogleのデータインポート機能で取り込めば、ピンポイントで広告を配信することもできます。不要な広告費をかけずに施策が打てます。

コンセプトダイアグラムを参考にサイト設計

コンセプトダイアグラムは、サイト構成に反映する場合もスムーズです。

各ステップの顧客にどんな情報を提供すれば態度変容を起こすことができるか、また関心の深さと階層の深さを連動させ、深い階層にはより詳細なコンテンツを配置していきます。

このように発信する対象と重要度が明確であれば、コンテンツが増えた場合も整理されたディレクトリ構成を保つことができます。

広告との連携を考慮する

サイト構成を考える際、広告の流入先も考えておく必要があります。「JOBるぽ!」はオフライン・オンラインともに広告を展開していくため、それぞれの流入に対応できる構成にする必要がありました。

例えば、上図のように、新聞広告やディスプレイ広告のような認知促進型の広告からの流入は、第1階層へ誘導し、リスティングなどの理解促進系の広告は第2階層へ誘導します。さらにもっと具体的なニーズを持っている人は第3階層へ誘導します。

具体的には以下のようになります。

「会計ソフトを探している人」は会計サービスへ誘導し、「クラウド会計ソフトをすでに利用している人」は競合製品のキーワードで「記帳代行ページ」へ誘導し、「税理士を探している人」には「税理士による申告サービス」へ誘導するといった具合です。できるだけ、LPを量産せずに運用できる構成にしました。

会計業務の堅く煩雑なイメージを和らげる色彩設計

最後にサイトの配色を考えていきます。「JOBるぽ!」は、ロゴの検討段階から会計業務の堅く煩雑なイメージを和らげる目的で可愛らしいキャラクターを設定していました。

なぜなら、「JOBるぽ!」は会計業務をおまかせできるサービスのため、バックオフィスで作業する方は会計に苦手意識のある方も多いためです。また、勤怠給与管理も提供しているため、社員の方が打刻や勤怠記録をつけるためにほぼ毎日目にするものですから、親しみやすく明るいキャラクターを用いることにしていました。

色彩設計においては、可愛らしいキャラクターを配置しつつも、信頼性や安心感を損なわない配色にする必要がありました。そこで、信頼感を与える青色をメインカラーとし、安心感を与える緑色をアクセントカラーとして配色しました。トーンを明るめにすることで、可愛らしいロゴとも同調させつつクールさを保つ配色にしています。

以上、事業分析からサイト設計までのフローをご紹介しました。

今回ご紹介した「JOBるぽ!」のウェブサイトは今年2018年の2月1日に公開され運用が始まりました。

ウェブサイトは公開してからがスタートなので、これからが本番です。設計する際に作成したコンセプトダイアグラムやKPIを見ながら運用していくことになります。

まとめ

「JOBるぽ!」は企業規模に関わらず快適にお使いいただける会計・勤怠給与管理サービスです。

まだ生まれたてですが、サービスを支えるアーバンコーポレーションは25年間大規模なシステム開発に携わり、20年間会計サービスを提供してきた信頼性の高い企業です。

その開発体制はセキュリティ面の不安を払拭するものであり、士業の方々による強固なバックアップ体制は安心して会計業務をおまかせできます。

経営者や経理・総務の皆様に、「こんなサービスほしかった」と思っていただけるよう、随時、サービスのブラッシュアップと機能拡張を行う予定です。

JOBるぽ!」をどうぞよろしくお願いいたします。

デジタルマーケティングを基礎から総合的に学ぶには

Google アナリティクスをはじめとしたGoogle系のツールは、その使い方を知ることも大切ですが、使うための戦略や設計が必要です。それは、ビジネスに成果をもたらすために必須の考え方です。

ウェブ解析士協会では、このようなデジタルマーケティングの基盤となる「ウェブ解析」を体系的に学べる環境と、知識・技術・技能に一定の評価基準を設け、あらゆるデータから事業の成果に貢献する人材を育成しています。

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この記事を書いた人

株式会社フェイスインテリジェンス 代表取締役。

会社設立から10年間、中小企業を中心に約30社のウェブ活用をお手伝いしてまいりました。クライアント企業と長期で関わることで事業への理解を深め、組織のウェブ担当者のような位置づけで活動しています。

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