皆さんはじめまして。黄 威翔(コウ・イショウ)です。
台湾出身で、現在は日本で社内不動産及び行政書士サイトを管理や集客対策などの業務に携わっております。
近年、スマートフォンの普及によりインターネット使用者は急増し、インターネットはもう欠かせない存在になっています。そのおかげで、世界との距離は短くなり、国内にいても、海外の情報を収集することができるようになってきました。
特に近年、日本人の海外旅行ランキング一位となり、親日派が多いとお馴染みの台湾。海外向けサイトを運営しようと考えている方の中には「まず台湾からターゲットにしよう」と考えているケースも少なくないと思います。
今回は台湾出身の私から、台湾におけるデジタルマーケティングの現状を紹介します。
台湾のネット使用状況
まず、パソコンの使用状況からご紹介します。
台湾では約2000年からパソコンが普及し始め、現在は基本的にすべての家には少なくも一台以上のパソコンがあります。特に30代前半までの若い年層の人は一人必ず一台持っていると言っても過言ではありません。
その後スマートフォンが登場すると一気に普及し、現在はほとんどの人がスマートフォンを使っています。そのため、パソコンさえ使ったことがない年配の方々も、インターネットを使えるようになりました。その結果、ちょっと厄介なことになります。
年配の方々がスマートフォンを使い始めたのは、親戚や子どもと連絡したり、近況を知ったりする事が主な目的だったため、初めてインターネットを通して使ったサービスはSNSでした。台湾の人は日本人のように「できるだけ他の人に迷惑かけないよう、自分で解決する」という民族性と違い、何か知りたい時は自ら調べるのではなく、遠慮なくSNSで他の人に聞きます。
つまり、台湾の人にとってインターネットは「何かを調べるため」に使うのではなく、「コミュニケーションのため」という概念なので、Google や Yahoo などの検索サイトの使い方がわかりません。もしくはそのようなサイトの存在自体を知りません。
このような背景をふまえて、次に進みましょう。
台湾のSNS使用状況
台湾では、Facebook、LINE、Instagramの3つのSNSが主流です。特にFacebookとLINEのシェア率はもっとも高く、日本で使われている Twitter はほとんど使われていません。
台湾では4人のうち3人はFacebookを使っている
2017年の調査結果によると、台湾の人口約2350万人のうちFacebookの使用人数は1800万人、つまり、国の75%以上の人がFacebookを使っていることになります。しかもスマートフォンを使っている人なら、Facebookを使ってない人はいないといえるほどシェアが高いSNSです。
参考:• Taiwan: social network penetration 2017 | Statistic
10代から60代までの幅広い利用者層が、自分のことをシェアしたり、友達や親戚の近況を見たり、情報収集や質問などのツールとして使われています。
台湾でのLINEは基本的に連絡用のみ
Facebookと同様に、スマートフォンを持っているならLINEは必ず使っていると言えます。しかし、使い方は基本的に連絡用のみで、タイムラインで誰かの投稿を見ることはほとんどしません。
ただ、台湾ではプライベートや仕事関係なく、LINEで連絡するのはごく普通の事です。メール代わりに使われていると言えるでしょう。
台湾の若い層はInstagramを使うものの、やはりFacebook
Instagramは基本的に30代前半までの層が使っています。またFacebookの膨大な情報にうんざりしている方はInstagramを使うことが多いようです。
しかし、このような人達はFacebookを使わない訳ではなく、単にFacebook上に発信しないだけで、友達の投稿や興味のある情報をFacebookで見たりします。
Facebook普及の裏に起きている「ブラックホール」
ここまで、台湾ではFacebookがどれほど普及しているか、ある程度わかっていただけたと思います。
あまり細かいことは気にしない民族性により、日本のように「本名を使いたくない」「知らない人に見せたくない」などの不安は少なく、皆どんどんシェアしたり質問したりします。そうするとGoogleなどで検索する必要がなくなるので、Facebookの利用が加速します。
これは台湾のある有名な情報サイト、宅宅新聞の流入状況(以下)からも伺えます。
以下のNHKのグラフと比べてみると、台湾ではソーシャルの流入割合がかなり高いことがよくわかります。SEO重視の日本とは大きな違いですね。
もちろん、検索サイトで情報を収集する人もいます。
しかし、ほとんどの人はFacebookで情報を発信するため、Webサイトは古い情報ばかりになっており、検索しても知りたい情報がないため、結局、Facebookに戻って誰かに聞くことになります。しかも、Facebookでは即時に反応が返ってくるため、ますます自分で検索して調べる必要がなくなります。
その結果、他の人が良い情報を書いても自然検索の流入が少なくなり、記事を書くことをあきらめ、Facebookで情報を発信するというサイクルができあがってしまいました。
この現状は、台湾のあるエンジニアに「情報のブラックホール」と言われています。もし、突然Facebookが無くなってしまったら、Facebookが流行った何年間分の情報はすべての水の泡になってしまうでしょう。
以上のように、Facebook一強の台湾でデジタルマーケティングをするなら、どのような戦略が考えられるでしょうか。
台湾のデジタルマーケティング戦略
上述のように、台湾のデジタル市場はFacebookに大きく左右されます。どんないい記事を書いたとしても、検索されることはほとんどありません。かといって、Facebookページを作れば良いというものでもありません。
台湾のFacebookページ運営のコツは「企業より個人」
日本ではブランドをかなり重視されているため、Facebookやサイトの運営は「我が社のブランド」や「我が社のビジョン」などの雰囲気が丸出しです。しかし、台湾の人にとって、これはむしろマイナスの点になってしまいます。
なぜなら台湾では「会社より個人」を信頼する傾向が強く、個人の発信者は会社より信頼されます。これは台湾香港向けの有名観光情報サイト「樂吃購」の運営方法からも伺えます。
このサイトを運営しているのは日本企業で、サイト内のコンテンツはほとんど日本在住の外国人個人ライターに依頼しています。そのため過剰な自社プライドなどが無く、記事の仕上がりがより個人目線の記事になるのです。
Facebookページの運営については、自社のブランドページはもちろん、社長自身もFacebookページを作り、一人の日本人として自分のプライベートや日本の観光情報を発信し、個人としてユーザーと会話し、台湾香港に多くのファンを得ています。
台湾でSEO戦略が有効な業種のポイントは「専門性」
現代の台湾人にとって、Facebookは「楽しい遊び場」です。そのため、堅苦しい商品やサービスなどを見たくありません。つまり、従来のSEO戦略が有効な業種もあるのです。
例えば、「法律関係」「不動産関係」「保険関係」「製造関係」などの情報は専門的でつまらないため、Facebookの反響はかなり低いです。本当にこれらの情報を必要としている人は、最初は知り合いに聞いてみるものの、誰も答えられないようなら、自分で検索します。
このような、SNSでも解決できない台湾ユーザーの悩みを解決できる記事を書くことは、とても有効だと言えるでしょう。
そして、記事の最後は問い合わせフォームではなく、FacebookページやLINEアカウントに誘導し、問い合わせてもらうようにしましょう。台湾はE-mailを使う習慣が薄れ、代わりにLINEで連絡しあっています。例え業者間の連絡だとしても、LINEを使うケースも少なくありません。
なお、台湾の人達は「既読スルー」に関して非常に敏感です。コメントを既読したら、すぐに答えが出なくても、「ただ今調べますので、しばらくお待ちください」などのコメントを入れることを強くオススメします。
以上のように、エンタメ色の弱い業種はSEO戦略が向いていますが、コミュニケーションにはSNSを使いましょう。反面、エンタメ食の強い旅行やグルメなどの業種は、SEO戦略に向きません。それは先述のとおり、会社より個人の考え方が強いからです。これはGoogleの検索結果にも伺えます。
例えば日本語で「東京 グルメ おすすめ」を検索したら、1ページ目のほとんどは企業が運営している情報サイトでした。
そして、中国語で同じ意味の「東京 美食 推薦」を検索したら、このような結果になります。赤い線で囲まれた検索結果はすべて「個人ブログ」です。
このように「企業が運営しているサイトの情報だけでは信じられない」という習慣があるので、自社の情報が検索結果の上位に出ていても、「しかし、この店(観光スポット)のことをブロガーたちは紹介していないし、本当に大丈夫?」と考え、実際にその店(スポット)に行った人がいるかをFacebookで尋ねます。Facebookでも情報が集まらない場合は「人気がないなら行かない」という選択をする可能性が非常に高いのです。
つまり、企業が旅行やグルメなどの情報サイトを運営するなら、まずFacebookでユーザーと話し合い、知ってもらい、シェアしてもらうことが重要です。そうした結果、SEOは後から効果を発揮するでしょう。
まとめ
台湾のデジタルマーケティングの現状について、いかがでしたか?
時代の流れに合わせて宣伝ツール(SNSなど)を臨機応変に選びながら、会社イメージよりも個人目線で発信すること、そして、ユーザーと友達感覚なやりとりでファンを獲得し、より長くつき合うこと。これが現時点での台湾デジタルマーケティングの主流です。
従来の日本企業の体質では難しいかもしれませんが、普段からスマホでコミュニケーションしている若い世代のほうが、台湾へのデジタルマーケティングをしやすいのではないかと思います。もし台湾向けのインターネットサービスを始めたいなら、堅苦しい自社イメージを少し緩めに、「友達」のような感覚で台湾ユーザーの心をつかみましょう。
とはいえ、日本人の感覚では距離感をつかみにくいかもしれません。次回は、台湾におけるビジネスマナーについてご紹介します。