はい、ごめんください。新潟のウェブ解析士マスター、小杉です。
台風が首都圏を直撃するんじゃないかと言われていた8月8日、品川で開催されたペルソナとカスタマージャーニーマップのワークショップに参加してきました。
これらは上級ウェブ解析士やウェブ解析士マスター講座以外でまともに取り組んだことがなかったのですが、大体の流れは講座と大差ないことを知れたので、それほど難解なものではありませんでした。
講師はUXの専門家である、リーグラフィの Lee さんと水越さん、そしてまぼろしの益子さん。もう、このメンツでワクワクしますよね。しないわけがない。
ネタがウェブ解析士協会の改善なのである程度想定していた結果にはなったものの、ウェブ解析士ではない一般の方(半数近くの参加!)の視点は非常に視野を広げてくれるものであり、より具体的なペルソナやカスタマージャーニーマップになりました。これを活用するのが楽しみです(つまり、私の立場は底辺のステークホルダーです。要するに関係者枠です。得られた戦略をこれから戦術に落とし込んでゴリゴリ改善していくための、手を動かす役目を担っています。WordPress もスパゲッティソースもイケるという方、仕事はここにありますよ。お待ちしています)。
それでも私は、やっぱりコンセプトダイアグラム大好きだなって思うので、これで使い分けられるようになるため、違いなどをまとめました。
「コンセプトダイアグラムを知ったけど、カスタマージャーニーマップと何が違うのか、説明できない……違うのはわかるんだけど……」という方の参考になれば幸いです。
ちなみに、コンセプトダイアグラムは清水さんが2008年に提唱し、進化し続けているものなんですよ。
参考:コンセプトダイアグラムとは – 清水誠メモ
ペルソナ作成
カスタマージャーニーマップはペルソナ作成が前提
CJMの場合、まずペルソナをつくります。むしろこのペルソナが共通認識の塊です。ペルソナに納得感がないとその後がうまくいかないので、CDより段階がひとつ多いと考えたほうが良いかもしれません。
このペルソナを作っておくと、いわゆる「ちゃぶ台返し」を防ぐことができます。第三者を立てることで、経営陣や現場の意見に偏ることがなくなり、目的を共有して歩みを整えることができるからです。
つまり、ペルソナを定めることは「登る山を決めること」であり、CJMをつくることは「山を登るための道のりを考えて必要な状況を想定すること」ですね。
もちろん、ワークショップで皆さんとペルソナを作成する前には、様々な準備がありました。そもそも、現在対象としている顧客はどんな人がいるのかを考えてから、協会のステークホルダーの皆さんの投票を元に、今回の6つのペルソナ候補になったわけです。
ペルソナに落とし込んでいくための情報として、今回は事前に Google アナリティクスにてカスタムセグメントも作りました。そうして得られたマクロデータ(セッションやページビューのデータ)とミクロデータ(ユーザーエクスプローラによる行動履歴データ)を用意して、ペルソナのリアリティを高めていきました。
今回、私達の班は全員が資格保持者だったのですが、午前中にペルソナの個人ワークをした時は、グループの誰もがまだモヤモヤ感を抱えていたようでした。「本当にこれで大丈夫なのか……?」というオーラをまとったまま、みんなで中華食べてきました(笑)
午後からはグループで認識を合わせながら、マクロデータと自分たちの経験を元に
- 30代前半の男性
- まだ小さな子どもがいて、妻と4人暮らし
という基本属性ができ、ミクロデータを「なぜこのような行動をしているのか」というメタ視点で分析した結果、
- たくさんページを見ている、問い合わせもしている → 意識高い心配性
- 平日の昼間、スマホでアクセスをしている → 営業担当
- スマホで申し込みなども済ませている → 普段からモバイルユーザー
- 上級のオンライン講座を受講している → 地方在住
といった特徴に反映されました。そこからまた更に基本属性に反映し、以下のようなペルソナに落とし込まれました。皆さんがどんどん意見を言ってくれたので、納得感のあるペルソナになったのではないでしょうか。
名前は、小間 行久蔵(このま いくぞう)さん。ツッコまれビリティのあるほうが、印象に残るってもんです。地方だからといって、都道府県までは定めていません。具体化したことで妄想に走ってしまうような項目は、あえて具体化しすぎない方が良いのかなとも思っています。
ちなみに、今回のセミナーでは開始前に Lee さんからアイスブレイクを提示されていて、やっぱりグループワークにはアイスブレイク必須だなと改めて思ったことと、「照れを乗り越える笑顔と、お互いの意見を受容できるツッコミ合い」が大事だと実感しました。いいオジサンやオバサンが照れながら、顔の左右で手のひらをひらひらさせてる絵面って最高ですね。
コンセプトダイアグラムはペルソナではなくニーズを使う
清水誠さんの「ビジュアルWeb解析」の本を読んだ方は「CDもペルソナをつくるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、実は今のCDではペルソナを使いません。具体的に人を作り込むのではなく、想定している対象者の悩みやニーズをスタートとします。私は葛藤としていますが。
その分ペルソナよりも解釈の幅が広がってしまうので、CDはみんなでディスカッションしながら納得解をつくりあげるものなんです。コンサルタントなどがクライアントに作ってあげるようなものではありません。納品物は「ワークショップでディスカッションした経験と、コンセプトが落とし込まれたダイアグラム」です。
そうそう、ディスカッションとか議論の本質は、自分の意見を主張し合うものではなく、目的を達成するために認識を合わせていくものなんですよね。CDのワークショップは講師が教えてくれるものではなく、認識合わせをするものです。楽しいですよ。
ゴール設定
カスタマージャーニーマップは企業の想定ゴールを設定
CJMはペルソナの行動をマップにするものですが、これまでの印象よりもずっと企業視点で作られることが意外でした。企業都合を排除しようとするCDをやっているからこそ、余計にそう思えたのかもしれません。
今回、AIDMA や AISAS を参考にステージを設定すると良いということで、ウェブ解析士のペルソナを考える私達の班は「上級申し込み(合格)」を4番目に設定。これによって AISAS に合致するため、1〜3番目はセオリーどおりに、認知 → 興味 → 調査 としました。ただし5番目には「ウェブ解析士の小間さん」のゴールである「社内共有」を設定しました。
やっていくうちに興味と調査のステージが曖昧だと感じ始め、ステージ設定からやり直したほうがいいかもと一瞬思ったんですが、時間の制約もありましたし、ペルソナが「意識高い心配性の小間さん」なので、関心を持ちつつ調べるステージが長めになっても問題ないだろうと思い直して進めました。
こうやって顧客行動への理解を深めていくのが、CJM の醍醐味なんですかね。
コンセプトダイアグラムは顧客がハッピーな状態を設定
CDの場合、「企業のゴールを迎えたことでハッピーになる顧客の状態」をゴールとします。有名なドリルの話で例えると、
- 顧客はドリルがほしい
- ドリルによって、直径1cmの穴があく
- 直径1cmの穴によって、棚ができる
- できた棚によって、達成感を得られる
- 達成感あふれる父の姿によって、息子がボクもやってみたいと言い出す
- 息子のDIY欲によって、父子のコミュニケーション時間が増える
・・・と考えると、ドリルによって得られるのは「親子の絆」という幸せだったりするわけです。このように、CDのゴールは企業のミッションやビジョンであることも少なくありません。顧客の幸せを考えるので、社会貢献的な側面が大きい題材やNPOにはとても親和性の高いメソッドです。
どうです、CDってエモいでしょう?
これからの時代には、とても適している考え方だと思うのですよね。企業のポジションから考えやすいのは、CJMだとは思いますが。・・・ビズい?
進め方
ここがまったく違いました。
カスタマージャーニーマップは、ペルソナにインタビューした情報を整理
CJMは、ペルソナ役・インタビュー役・メモ役の、3つ役割に分かれて情報をまとめていきます。この方法は目からウロコだったのですが、ちょっと注意すべきところはあるかなと感じました。
私達の班のペルソナ「ウェブ解析士の小間さん」は、ウェブ解析士の資格を取ったあとで上級を取得し、社内でウェブ活用を進めていきたいという人です。ですから、「上級を取得(=ペルソナのゴール)したあとで、社内でウェブ解析のグループができた」という状態を理解できる人がペルソナ役をやらないと、情報を得にくいのではないかと感じました。
実際、インタビュワー役の方(ウェブ解析士の資格保持、でも上級のことがよくわからない)が質問に困っていました(笑)
このような状態になりそうな場合、実際の顧客にインタビューしたほうが良いのかもしれません。それができない場合、ペルソナの背景を理解して「なりきれる人」か、ペルソナ役が答えられるように「質問できる人」でないと、ちょっと難しそうだなという印象はありました。
暗黙の了解部分をなるべくなくすためには、企業都合に偏らず、顧客の背景をできるだけ洗い出す必要がありそうです。ある意味今回は「CJMの描き方講座」でもあったので、本来なら講師の方々のようなファシリテーターがいて、クライアントさんの意見を引き出しながら行うのでしょう。
もし企業都合の強い結果になったとしても、複数の視点が集まることで「出来レース」にはなりませんし、必要なコンテンツの洗い出しは可能なので、CDよりは取り組みやすいかもしれません。
コンセプトダイアグラムは、進行役によって納得感を積み上げていく
CJM は一度情報を洗い出してからマッピングしましたが、CDはひとつひとつの手順ごとに納得解を作っていきます。
そんなCDはワークショップが命なので、グループの進行役、つまりファシリテーターによって参加者の意見が引き出されながら進みます。事前に自分の考えをまとめておく必要があり、ワークショップ前に個人ワークをお願いしています。
ある程度「この人の考えに落ち着きそうだな」と感じる人がいたとしても、参加者すべてが対等の関係となり、ネガティブな意見もポジティブな意見も、想定できた意見もまったく異なる意見も、ぜんぶ事実として共有されます。みんなの認識は違っていて当然。だから足並みを揃えて共通解を見出していこうというものです。
チームビルディングに近い分、ファシリテーターのスキルによって結果が大きく左右されるリスクは、CJMより大きいかもしれません。ただし「ハマった」時の快感がすごくて、私はやめられないんですよ、これ。
カスタマージャーニーマップとコンセプトダイアグラムの共通点
- ワークショップで顧客のことを知っているクライアントと一緒に作り上げた方が良い
- どちらも企業と顧客の視点を行ったり来たりする
- ビジネスや顧客の背景を知っている人が参加しないと、机上の空論に終わりがち
- コンサルが一方的に提案するものではない
- 指針となるが絶対解ではない
- おかしいと思ったら、作成段階に戻ることも検討する必要がある
- 戦略マップなので、作ってからがスタート
カスタマージャーニーマップとコンセプトダイアグラムの違い
顧客の行動から心理を追っていくのがカスタマージャーニーマップ
CJMは企業のビジネスフロー的なステージ設定から入るので企業都合の匂いが強く、視座も企業だと感じました。企業の立場から、顧客の行動を想定していくイメージです。その分、従来の企業のやり方に沿っているので、比較的取り組みやすいのではないかと思います。
ペルソナをつくり、設定したステージごとのペルソナの行動を元にして心理や感情を描き、必要な施策に落とし込んでいきます。
顧客の心理から行動を追っていくのがコンセプトダイアグラム
CDは顧客の心理や態度変容からステージを設定するので、視座は顧客だと思っています。ただし顧客にはなりにくいので、上から俯瞰するイメージのほうが合うかもしれません。
対象者のゴールからスタートにさかのぼり、心理や態度変容の深まりにそって必要な行動や施策に落とし込んでいきます。
どうしても施策ありきになってしまいかねないという難しさがありますが、ステップに落とし込むまでは戦略の段階なので、もう少し考えやすい方法を模索中です。戦略の失敗は戦術では補えませんから、手段(施策)が目的にならないようにしなければなりません。
カスタマージャーニーマップとコンセプトダイアグラム、どっちがいい?
※今回のワークショップを通じて得られた個人的な印象に基づく判断です。
結論を言ってしまうと、自分が使いやすいメソッドを使うのが一番です。
ビジネスフレームワークだって同じですよね。3Cが使いやすいという人もいれば、SWOTで整理できるという人もいますし、様々なものを臨機応変に組み合わせて使うという人もいれば、オリジナルのフレームワークを持っている人もいます。自分の得意な「型」を持っておき、それをアップデートしながら使うと楽しいですよ。
ではCJMとCDのどちらも扱えるという前提で、「リニューアルしたいんだけど、どちらを選んだら?」という状況があったとき、私の判断方法を参考までにご紹介します。ただ、私はコンセプトダイアグラムが得意で大好き、というバイアスがかかっていることをご了承ください。
増築が続いて対象者が複数になっているときは、ペルソナをつくってカスタマージャーニーマップで整理する
ひとつのサイトに新しいサービスをどんどん盛り込んでいくと、そのサービスが誰を対象にしたものかわかりにくくなってしまい、サイト全体がわかりにくいものになってしまいます。益子さんも「事業成長のジレンマ」と仰ってました。
そんなときは、一度サービスごとのペルソナに分解して、ビジネスフローを洗い出すつもりでCJMをつくると、整理しやすくなります。これは、サービスが部署となってそれぞれのポジションが出てきた時にも有効で、それぞれの大切なものを丁寧に表すことができます。つまり、サービスのポジショントークが強い時にはCJMはとても有効です。
優先順位をつけてアクションプランに繋げられるのが大きなメリットですよね。今回のウェブ解析士協会さんがそんな感じでした。
企業都合から顧客中心の戦略に切り替えていきたいときは、コンセプトダイアグラムで整理する
ビジネスフローは定まっているのに、頭打ち感から戦略変換の必要性を感じているなら、CDがオススメです。企業のミッションやビジョンに真っ向から向き合うので、チームビルディングにも活用できます。
絶対解がないぶん考えにくいというデメリットはありますが、コミュニケーションによって納得解が得られたときの推進力はすごいです。それにカスタマーアナリティクスのためのメソッドでもあるので、解析と改善も面白くなります。
こう考えてみると極論、CJMは事業フローの整理、CDは戦略の整理とも言えそうです。
CDが選択肢に入りにくいのは、自分の頭の中で変換してアウトプットしなければならない状況が多い、ファシリテーターのスキルに左右される、未だアップデートしていて大衆化しきれていない、という3つの原因があります。それらのハードルをクリアして扱えるようになれば、カジュアルに使えて汎用性が高いんですよ。
社会貢献性の強いケースには、ぜひCDを使ってみてください。エモいので。
まとめ
今回体験したCJMは、いわゆる関係者にグループワークの進行を委ねられていた部分も感じたので、一般的な企業向けの内容とは少し違っていたかもしれません。よく言われているタッチポイントの洗い出しもしませんでしたし。
本来はクライアントとチームになって、背景を共有しながらワークしていくものなんでしょう。というか私なら、答えを持っているのはコンサルタントではなくクライアントだと信じているので、間違いなくそうします。
Leeさんからも「今回の案件に一番ベストと考えたやり方をアレンジして作成しました」とコメントいただいているので、CJMに興味を持たれた方は、ぜひ講師陣に相談してみてください。
普段からCDをやっている身としては、違いを考える良いきっかけになりましたし、CJMを使ったほうが良いケースもわかりました。これまでCDをやってきて納得感が低いときは、メンバーが背景を共有しきれていないだけでなく、それぞれのポジショントークをしている可能性が高いからだな、ということに気づけたのは収穫でした。
どちらにしても、できたCJMから次に落とし込んでいくのが本番です。一緒に仕事したいというウェブ解析士の方、ぜひトリプルメディア委員会にお越しください。