UXライティングとは?おすすめの本や資格、事例10選をご紹介

はじめまして。プロダクトやサービスのUXライティングを担当している中村早雪です。

昨今、「UXデザイン」といったUX(ユーザーエクスペリエンス=ユーザー体験)にまつわる言葉が多く使われるようになりました。「UXライティング」という言葉を目にしたことがある方もいるのではないでしょうか。

UXライティングを一言でいうと、「ストレスフリーに伝わるライティング」

今回は、びっくりするくらい地味だけれども、とても大切なUXライティングについて、ウェブデザイナーやライター、そしてウェブ解析士がどのように活かせるのかをまとめました。

目次

「UXライティング」とは

ウェブ制作に携わる人なら知っておきたい「UXライティング」。そもそもUXライティングとは何なのでしょうか。

UXライティングとは、ユーザー(読み手)の体験を助け、体験の価値を高めるように配慮した文章の書き方、技術のことをいいます。

引用元:ビジネスマンのための新教養 UXライティング

ビジネスの領域によって、要件の範囲は異なることもあります。ただし、「ユーザーの気持ちに寄り添って言葉を考えるためのシンプルな手法」ということには変わりありません。

例えば、ユーザーがボタンをクリックするとき。ボタンや、メニューのラベルの言葉によって、ユーザーが迷うことなく、目的の行動に移すことができるのかが大きく関わります。

具体的にいうと、ボタンの文言、入力フォームのラベル、エラーメッセージ、プッシュ通知、404ページ、FAQ……。ユーザーとのあらゆる接点で必要となる文章は、UXライティングの対象です。

引用:ウェブ解析士協会お問い合わせ https://www.waca.associates/jp/contact/

UXライティングの目的

ユーザーは何かを達成するために、ウェブ上で完結する場面も多くなりました。

例えば、銀行口座の情報変更。窓口に行かず、デジタルプロダクトの画面上で操作をする時代となりました。そこでは窓口の担当者が口頭で説明をするのではなく、UXライティングもしくはUXデザインを駆使することで、担当者を介さずにユーザーの目的達成まで誘導する必要があります。

ユーザーが操作を間違えることなく、もしくは間違えた場合には支援をする。このことが、ユーザーの信頼に繋がります。

言い換えれば、UXライティングは、「ユーザーに寄り添った声掛け」ともいえます。

UXライティングは、無意識領域に働きかけるライティング

UXライティングには、想定するユーザーに合わせて話しかけるように書くという技法があります。

UXライティングがうまく機能しているときは、あまりに自然で違和感なく認識されるため、ユーザーの目に留まる現象が起きません。スムーズにユーザーが行動を完了するのは、UXライティングにおいての重要なゴール。つまりうまく機能しているときほど、UXライティングは無意識の領域に働きかけているといえます。

これが、「UXライティングはびっくりするくらい地味」と実感する所以です。

例えば、ECサイトでヴァレンタインデーの彼氏へのチョコレートを探している女性を想像してみてください。

ECサイトの画面上で、クチコミやラッピングが施された画像を確認。「期間限定!」というキャッチコピーに購買意欲を刺激されたかもしれません。この女性が、購入の意思を決定するまで導くことができれば、コピーライターの役割はそこで終わりです。

しかし、まだオンラインショッピングは完了していません。購入者の情報、お届け先情報、そして、クレジットカード情報の入力を行う必要があります。ユーザーが違和感を覚えたり不安を感じたりすればページを閉じてしまうので、購入を完了するまでのプロセスでUXライティングの効果が発揮されます。

購入の決断をしたユーザーはできるだけ早くオンラインショッピングを完了したいと考えていることでしょう。「なぜ、会員登録が必須なのか?」と煩わしさを感じるかもしれません。「クール便の料金が必要ならばなぜもっと早く知らせてくれないのか?」と途中で想定外のことが発生し、ページを離れてしまう可能性もあります。

大切なことは、事実を伝えるだけでなく、ユーザーが行動を起こすための言葉を添えること。そして、ユーザーに考える負担を与えないことです。

テクニカルライティングの違い

  • テクニカルライティング:ユーザーに情報を(正確に)届ける
  • UXライティング:ユーザーの体験を(こっそり)助ける

テクニカルライティングのゴールは、ユーザーに正確な情報を伝えることです。製品やサービスの使い方を具体的に説明し、ユーザーが必要な知識を得られるようにすることが目的です。そのためには正確性と論理的な構成が非常に重要です。
一方、UXライティングのゴールは、ユーザーの体験を助けることです。ユーザーにもっと機能を使ってもらうこと、有料会員に登録してもらうことが目的の場合もあるでしょう。そのためには明快さが非常に重要です。

使用場面の違いも明確です。テクニカルライティングは主にマニュアルや仕様書、ヘルプドキュメントなど、製品やサービスの詳細な情報を提供する場面で使用されます。ユーザーが意識的に情報を探して読むことを前提としています。対してUXライティングは、プロダクト、アプリやウェブサイトのインターフェース上のボタン、エラーメッセージ、フォームのラベルなど、ユーザーがタスクを実行する過程で自然に目にする短い文章に使用されます。ユーザーが意識せずに読み、スムーズな行動につながることを目指しています。

UXライティングの事例

では、具体的な事例を用いながら、UXライティングの効果についてご紹介します。

ボタン:購入を後押しするマイクロコピー

FLOWER

人間は希少なものに価値を感じる傾向があります。ボタンに「残り10個」や「いま15人が閲覧中」というマイクロコピー(入力フォームやリンクなどに使用する短い文章)を表示することで「今買わないと次の機会を逃すかもしれない!」という心理を促す原理が働いています。

ボタン:押した結果を先に見せる

無印良品
「一覧を見る|全1455件」というボタンのラベルは、サービスを利用するユーザーが押す前に「何がどのくらい表示されるのか」を明確に伝えています。このように情報を事前に提供することで、サービスを利用するユーザーの行動判断を助けます。

本人確認:メリットを伝える

メルカリ

ユーザーが本人確認をすることでできるようになること・便利になることを「変わること」として提示しています。今との変化を対比して示すことで、本人確認の前後の違いが差がわかりやすく伝える内容になっています。プロダクトを利用するユーザーにとって、本人確認の作業は時間のかかる負担ですが、その手間をかけてでも行う価値があることを効果的に伝えています。
また、「同意して次へ」ボタン上部には「ご利用いただける本人確認書類」のマイクロコピーがあります。事前に準備すべきものがわかる親切なプロダクトだという印象を与えています。

本人確認:考える負担を軽減

メルカリ

本人確認の手順に進むと確認方法の選択肢が複数提示されます。「最短2分で申請完了」「審査結果は最短当日」という言葉によってマイナンバーカードを使った申請がおすすめであることが強調されています。
人間は、選択肢が増えると逆に選択が難しくなると言われています。サービスを利用する人の考える負担を軽減することで、プロダクトが使いやすいと感じられるようにすることも、UXライティングの重要な役割です。

本人確認:登録時の不安を払拭する

PayPay

申請をはじめる前に、3つの段階(3STEP)を提示することで、プロダクトを利用するユーザーは申請完了までの流れを明確に理解できます。
「入力したすべての情報が消去され」という表現は申請が途中から再開できないと伝えながら、同時に、個人情報が残らないというセキュリティー面での安心感も与えています。

プレースホルダー:入力を助ける

mixi2

プレースホルダーとは、入力フォームで表示される仮のテキストのことです。mixi2では、返信時のプレースホルダーとして「やさしさことばで返信しよう」と表示されており、サービスを利用するユーザー同士の優しい対話を促しています。UXライティングで、わかりやすさを重視した文章表現に加えユーザー体験の向上を目指している例です。

設定画面:プロダクトのコンセプトを反映

しずかなインターネット

ここは、Twitterやnoteのような賑やかな広場ではありません。ここは、あなたのパーソナルな部屋のようなものです。部屋に文章を置き、通りかかった人が部屋に入って自由に読むことができる… そんなコンセプトで作られました。

しずかなインターネット

機能的な表現ではなく、感情や体験を重視した言葉選びで、サービスのコンセプトが反映されています。

  • 公開範囲:「自分だけ」「みんなに公開」
  • 本文の余白の大きさ:「せまめ」「ゆったり」

これらの表現により、「しずかなインターネット」というコンセプトが単なる機能説明ではなく、体験全体を通して一貫して伝わるようになっています。ユーザーは機能だけでなく、そのサービスが提供する体験の質や雰囲気も理解できるようになっています。

ヘルプセンター:ユーザー視点で言葉を選ぶ

引用:slack https://slack.com/intl/ja-jp/help

slackのヘルプのトップ画面です。

ユーザーの状況を想像し、その人に語りかけるように書かれています。コンピューターやビジネス特有の固い表現ではなく、ユーザーの日常の感覚に合わせて言葉を選ぶことで、グッとプロダクトとユーザーの距離を近づけることができます。

ユーザー登録:サービスの世界観を演出する

引用元:ダイバーシティ時代に「性別を選択する」ということ – Corporate Blog – ヤフー株式会社

Yahoo! JAPANの事例では、「男性」「女性」に加え、「その他」「回答しない」という選択肢があります。ダイバーシティに配慮した企業である印象をユーザーは抱くことでしょう。逆にいうと、言葉次第で、簡単にユーザーを不安で不快な気持ちにもさせてしまう重要な要素だといえます。

プッシュ通知:プロダクトに人間味を与える

OuraRing

商品やサービスを人の姿や性質にたとえて表現することは、ブランディングに効果的と言われています。

「Ouraringが通知をしたがっています」

この一文は、単なる「通知を許可してください」ではなく、Oura ringというプロダクトに意思を持つ存在としての性格を与えています。これは、プロダクトと利用するユーザーとの距離を近く感じさせ、テクノロジーに温かみと親しみを加える効果があります。

UXライティングを学びたい方へおすすめの本・書籍・テキスト 3選

この記事をはじめに書いたのは2021年でしたが、その頃と比べるとUXライティングにまつわる書籍も増え、学びやすい環境になりました。今回は特におすすめの書籍を3つご紹介します。

秒で伝わる文章術


〜読み手の脳に負担をかけない〜

「UXライティングに興味がある」という人に、まず最初におすすめしたい本です。
著者がUXライティングのプロの方で、本自体が読みやすく、サクサクと読み終えることができます。これまで文章に関する本を数多く読んできましたが、ここまで読みやすい本は他になかったのではないでしょうか。徹底的に読み手の負担を減らす工夫がされています。

プロダクトのライティングだけでなく、メール、企画書、SNSなど、様々な場面で活用できるUXライティングの技法がまとめられていておすすめです。

UXライティングというビジネス


〜できるUXライターは「コピーを書く」だけじゃない! ビジネス目標の整理、成果の測定、社内のプロセスづくりまでをも網羅〜

UXライティングの技術書というよりも、UXライターがチームや組織内でどのようにコラボレーションを行うかに焦点を当てています。また、UXライティングがビジネスとしてどのように成果を生み出していくのかについても詳しく解説されています。
UXライティングは、ただ言葉を書くだけではなく、事業の成果につながることが理解でき、今後のUXライターの職務の明るい道筋が見える内容です。

ブランド・アーキタイプ戦略


〜THE HERO AND THE OUTLAW 驚異的価値を生み出す心理学的アプローチ〜

UXライティングに携わっていると、言葉の「ボイス(声)」と「トーン」を決める必要がでてきます。その時に参考になるのがこの書籍です。

「ブランド・アーキタイプ戦略」では、12種類の「人格」の型の性格や性質詳細に紹介されています。サービスやプロダクトを「どのような人格として定義するか」と考える上でとても参考になります。この書籍が、プロダクトやサービスの言葉づかいを一貫させる第一歩となるはずです。

おすすめの資格

あらゆる試験に言えることですが、試験日という目標期限を定めて、体系的に学べる資格試験は、学びの一つの方法として有効です。ご紹介するこれらの資格は、基礎を学べるので応用範囲も広く、合格不合格に関わらず実務に活かせる知識を学べます。

3級 テクニカルライティング(テクニカルコミュニケーション技術検定)

この試験は「相手に伝わる文章を表現できているか」を評価する試験です。テクニカルライターやUXライターのように、製品やサービスの「使い方」を説明する場面に携わる人だけでなく、文章表現技術を高めたいすべての方におすすめです。 何のために、何を、どう説明するか。日本語を見直し、伝わる文書力を磨くきっかけとなる試験です。

「3級」と書いていますが、テクニカルライティングに特化した試験は実質3級のみしかありません。
1級や2級はテクニカルライティング以外の領域も出題範囲に含まれます。

試験の内容

3級 テクニカルライティング試験[TW] (一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会)

  • 対象者:受験資格制限無し
  • 受験料:16,720円(法人会員・個人会員:11,000円、学生:11,000円)
  • 実施形式:「選択問題」と「記述問題」(それぞれ50分ずつの計100分間)/ オフライン実施(会場)
  • 出題範囲:シラバス参照
  • URL:公式サイト

試験対策

書籍『日本語スタイルガイド』を読むことに加えて、受験対策セミナーの受講をおすすめします。3級 テクニカルライティング試験は、過去問が非公開で問題演習をする術がないのですが、受験対策セミナーでは例題を解きながら解説が進む形式でした。回答のコツなどの解説が入り、勉強の時間を節約ができます。ただし、記述問題の例は取り上げられないため、記述問題の対策はなかなか難しいところです。

受験してみての感想

久しぶりに鉛筆を持ち試験に臨みましたが、とにかく時間との勝負でした。記述問題では、文章を理解し手書きで回答する必要があり、文章表現だけではなく、情報の正確な把握能力も求められる試験だと感じます。鉛筆を持ってたくさんの文章を書くという非日常な体験も味わうことができました(日常で字を書く機会が減りましたね)

UX検定基礎(HCD検®認定)

「UX検定基礎」は、UXやHCD(人間中心デザイン)の基本的な概念と知識を理解していることを証明できる資格です。UXライティングそのものへの言及は少ないですが、行動経済学やユーザビリティなど、UXライティングに必要な基礎知識やマインドセットを学べます。

試験の内容

UX検定基礎(一般社団法人UXインテリジェンス協会)

  • 対象者:ビジネスパーソン全般
  • 受験料:10,890円
  • 実施形式:知識問題(単一選択式:100問)/ オンライン実施(自宅受験)

試験対策

出題範囲(シラバス)に掲載されている内容を確認し、興味があるところ・知識が薄いと感じるところから学習推奨図書を読み進めることをおすすめします。用語の意味を問う出題以外に、「なぜ必要なのか」といった意味を問う出題もあるため、「意義を理解する」ことが必要だと感じました。

ちなみにシラバス上で、UXライティングは「UXデザイン具現化」の一つとして、「アイデア創出」「情報設計」「プロトタイピング」と並んで紹介されています。

一般社団法人UXインテリジェンス協会 | UX検定基礎の出題範囲(シラバス)

受験してみての感想

出題範囲が広いこともあり、試験では幅広く網羅的に出題された印象です。その中でもUXライティングに関する問いも数個出題されました。UXについての基礎知識を体系的に学ぶことができる良い機会となりました。

まとめ

「言葉」としっかり向き合うことは、ユーザーに伝える制作物を作るにあたって不可避なものです。日々の業務にUXライティングの力を掛け合わせることで、武器となるはずです。

ウェブサイトのユーザーの離脱や、コンバージョンで悩んでいるウェブ制作者の方は、ぜひ「UXライティング」を意識して改善してみてください!

デジタルマーケティングを基礎から総合的に学ぶには

Google アナリティクスをはじめとしたGoogle系のツールは、その使い方を知ることも大切ですが、使うための戦略や設計が必要です。それは、ビジネスに成果をもたらすために必須の考え方です。

ウェブ解析士協会では、このようなデジタルマーケティングの基盤となる「ウェブ解析」を体系的に学べる環境と、知識・技術・技能に一定の評価基準を設け、あらゆるデータから事業の成果に貢献する人材を育成しています。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

UXライター。
ウェブのコンテンツ企画や制作を中心に、ブランド力向上を支援。
ユーザーにとって心地よい「ことばのデザイン」を主業務としている。

保有資格:TC技術検定3級(テクニカルライティング)/ウェブ解析士/上級SNSマネージャー

兵庫県出身。丁寧なモノづくりと、バスケ観戦が好き。

目次