こんにちは。ウェブ解析士のクーヴェです。今回は経営コンサルタントとしてご活躍されているModelart代表の小池昇司さんのFlashセミナーに参加しました。
「ニューロマーケッティング」(以降ニューロマーケティングと表記します)という言葉自体あまり聞き慣れない方も多いのではないでしょうか。
なんだか敷居が高く、難しそうな印象を受けますが、これからのウェブ解析を考えていく上で避けて通れない非常に重要なテーマであることがセミナーに参加してよく理解できました。
今回、そもそも「ニューロマーケティング」とは何か?という初歩的な概念から丁寧にご説明してくださったのでぜひこちらのセミナーのレポートをご一読の上ご自身あるいはクライアント様のサイト改善にお役立てください。
ニューロマーケティングとは
2007年Patrick Renvoisé及びChristophe Morin共著の”NEUROMARKETING”にて、初めて「ニューロマーケティング」という概念が提唱されました。
ニューロマーケティングとは“消費者の脳の直感的な反応を測定して消費者の心理や行動を解明してマーケティングに応用すること”
として定義されています。
「ニューロマーケティング」の目的は、人間の脳の構造を理解し、視覚や聴覚といった認知機能が動作して発生するバイアスを利用して、消費者が広告の何に惹きつけられ、購買に至るのかを理解することでデザインの改善をすることです。
二重システム理論、及び脳の意思決定について
小池さんいわく、脳の意思決定は二つのシステムで構成されているそうです。
脳には素早く、直感的に判断する思考(システム1)=早い思考 と
システム1で判断した内容を熟慮する思考(システム2)=遅い思考 があります。
人間が行動を起こす原理はシステム1が動作した後、システム2が動作した結果で判断した内容に基づいています。
このうち、人間の意思決定に特に大きな影響を及ぼしているのはシステム1の部分になるため、そもそも人間の思考は認知エラーが起きやすく非合理的な判断をしやすい仕組みとなっているとのことです。
人類にとって、システム1はより動物的な認知のシステムで原始時代から人間が生存していく上で必要性の高い思考でしたが、進化の過程でシステム2を獲得しました。
脳の仕組みは二重システムとはなっていますが、人間の思考の優位性はシステム1に大きく比重が置かれているのが現状です。
システム1は認知エラーが起きやすい思考です。
なぜなら、素早く答えを出すことに比重を置いているため物事を単純化してしまったり、周囲の環境や影響を無意識に受けやすく、目で見たものが全てだと思ってしまったりする傾向があるからです。
熟考の思考であるはずのシステム2もシステム1での判断を正とした上で思考してしまう傾向があるため、情報が過剰な状態に置かれた場合、予想外の点に注意をすることができません。
そんな認知バイアスをカテゴリー別に整理すると以下の図の通り「情報過多」「認知しやすさ(複雑性)」「情報処理時間の少なさ」「記憶容量不足」の4つになります。
例えば、ウェブサイトのデザインがごちゃごちゃしていると情報処理に時間がかかってしまいユーザーが離脱してしまいます。
ニューロマーケティングを実践している企業ではこうした課題を上図のようにウェブサイトの課題をカテゴリー別に整理し、色やコントラスト、空白、フォントを変更する等デザインを改善するために活用しているとのことです。
問題意識と目的
2016年にP&Gはウェブのアクセス解析やデータに基づいたマーケティングを積極的に行ってきましたが、投資に対して売上を上げることができなかったという記事を発表しました。
この事例は、データ解析が必ずしも真に顧客を理解することに繋がっていないのではないかという議題を提示しています。
また、プライバシー保護の観点からサードパーティクッキーを規制する動きが活発化しているため「ニューロマーケティング」への関心が近年高まっているそうです。
実際、マイナビが実施したウェブ制作会社へのアンケートで今必要とされている技術について聞いたところ、3位インターフェイスデザイン、5位UXデザインとの結果も出ました。
「ニューロマーケティング」を勉強する目的は“脳の仕組みを理解してターゲット広告の精度を上げるウェブ解析士”として、五感に響くUIを改善できるようになるということで大いに意義があるのではないかというお話でした。
実際に「ニューロマーケティング」の観点からウェブサイトを評価するために用いることができるツールとして3つのツールをご紹介いただきました。
ニューロマーケティングツールについて
予測アイトラッキングモデルでは、図のようなアイトラッキングのツールを使いウェブサイトを見た時に脳のどの部分が働いているかデータを取り、収集した大量のデータを元にAIを使ってアイトラッキングの予測モデルを作成します。
脳の仕組みとしては、人は最初に見たい部分を意識して視認しているのではなく無意識のうちに見たい部分をまず認識します。
そのため、こうしたアイトラッキングモデルを利用して人類に共通の視認規則を知ってデザインを作成することが重要となります。
予測アイトラッキングモデルは数十万のデータを使用しており、神経科学者と認知科学者により開発され、常にアイトラッキング研究により補完されているため92%もの正確さで計測をすることができるようになっているそうです。
絵画に予測アイトラッキングモデルを適用させてみた事例
小池さんは絵画教室の講師も兼業されているそうで、予測アイトラッキングモデルを絵画制作に応用して作画を改善した事例もご紹介くださりました。
素人目にも、Beforeの絵よりもAfterの絵の方が、より印象に残る絵になっていることが分かります。
Beforeの絵では1番見てほしい赤の④の箇所(絵の主役)があまり見られていません。また、絵の下の方には視線がほとんど移動していないことが解析から分かります。
絵の主役箇所に着目させる・視線を上から下に二回転するように回す、の二点をKPIとし描き直したのがAfterの絵画となっています。
このKPIを達成するためにコントラストや陰影を調整します。
AOI(=Area Of Interest) は計測することが可能のため、絵の主役及び脇役、引き立て役それぞれにKPIをつけて、後は目標のAOIの値に近づけるよう濃淡をつけて修正していく作業となるそうです。
UIの改善も同じ要領で実施することができるとのこと。
企業の事例
株式会社ディオス様は名刺のデザインと印刷の会社で見てもらえる・注目してもらえる名刺を売りにしており、名刺のデザインにはニューロマーケティングを活用されています。
例えばこちらの図の名刺の場合、まず似顔絵で惹きつけてブランド名を認知してもらい、狙いとしては最終的に電話番号に注目してもらえるようなデザインとなるように工夫されています。
株式会社ディオス様は自社のホームページ自体にもニューロマーケティングの技術を活用されています。
こちらのトップページでは、人の顔にまず注意を惹きつけて、「根拠があるからデザインに自信が持てる」というバリュープロポジションに目が行くようにし、最終的には申し込みボタンへ自然と目が動き、お客様に行動をしてもらえるような導線が工夫されています。
アイトラッキングの活用だけでなく、認知バイアスのチェックリストも同時に活用してデザインの修正をしているそうです。
さらに、こちらの会社様のチラシデザインの制作事例では「予測A/Bテスト」についても解説を頂きました。
予測A/Bテストを実施する場合は、デザインのラフを2パターン用意し、色やコントラスト、背景色だけで目立たせる箇所をコントロールします。
DM(ダイレクトメール)を送付して、どちらのデザインのパターンがお客様からの反応が良いかを検証して最終的なデザイン案を決定します。
株式会社トリム様の事例はCADトレースのビジネスをされている会社で、サイトをニューロマーケティングの観点から改善したことでコンバージョン率を上げることができたとのご紹介でした。
素材はBefore/Afterで基本的に同じものを使っていますが、背景色や文字の大きさを変更しました。
以下の図がデザイン変更前後でのコンバージョンの比較ですが、変更後に大きく増えていることが分かります。
こうした軽微なデザインの変更で大きくコンバージョンが変わるというのは本当に興味深いですね!
まとめ・感想
ニューロマーケティングをウェブサイトのデザイン改善に活用するためのポイントは、アクセス解析を補完するような位置付けを決めるということが一点、ただなんとなく改善するのではなく、ビジュアルデザインのKPIをしっかり決めるということが二点、クライアントとKPIをしっかり握るということが三点、認知バイアス活用・予測アイトラッキング・予測A/Bテスト等を実践することで効果を実証するということが四点目のまとめとのことでした。
セミナーを受けるまでは「ニューロマーケティング」という言葉自体が耳慣れしておらず、なんだか敷居が高い印象がありましたが、小池さんのお話を聞いてウェブ解析に携わる人にとっては必需スキルといっても過言でない概念であることがよく理解できました。
またデザイン自体、評価が難しく、なんとなくこんなフォントや色使いが良いのではないか?と知識がないと感覚的に判断しがちですが「ニューロマーケティング」の観点からスコアリングしていけば合理性に基づいてデザインの改善をすることが可能となることが分かりました。
今後プライバシー保護の観点からサードパーティクッキーを利用しないマーケティングが主流となることを考えると「ニューロマーケティング」は非常に有用性が高いコンセプトになることが予測されます。
ウェブサイトのコンバージョン率の低さにお悩みの皆様、ぜひ「ニューロマーケティング」という観点からサイトのデザインの見直しをされてみてはいかがでしょうか。