上級ウェブ解析士の高橋です。
今回は『自社サイトをコストで終わらせないために〜ウェブ解析士の事例発表集(30)』のブックレビューをお届けします。
2019年7月6日に岡山で開催された第30回ウェブ解析士勉強会『自社サイトをコストで終わらせないために』のセミナーを書籍化したものです。
各講師の内容を一部転載してお送りします。
※転載に関しては、著者の許諾をいただいています。
※発表者の勤務先、役職につきましては2019年7月当時のものです。
剣山が売れるとは!日本文化をECサイトで復活させた目からウロコの手法(松岡 亜紀子 氏)
最初は上級ウェブ解析士の松岡亜紀子さんのセッションです。
松岡さんは株式会社ビットコミュニケーションズで2003年からウェブサイトの制作を担当し、2016年からはサイトの制作だけでなくコンサルティング業務も担当されています。
今回の内容は以下の通りです。
- 1.0 剣山が売れるとは!日本文化をECサイトで復活させた目からウロコの手法
- 1.1 自己紹介
- 1.2 剣山をネットで販売する
- 1.3 キーワードは「コツコツ」
- 1.4 商品画像の改善で売上アップ
- 1.5 失敗から学ぶこと
- 1.6 アナログ大作戦
- 1.7 海外展開へ
- 1.7.1 海外に向けて販売 STEP1
- 1.7.2 海外に向けて販売 STEP2
- 1.8 まとめ
ここでは『1.3 キーワードは「コツコツ」』を紹介します。
キーワードは「コツコツ」(一部転載)
前述のとおり、商品の取扱数が圧倒的に多い。
そのことを利用して、商品の登録数を増やしていきました。これが、第1のSEO対策です。ライバルが少ないうえに、商品数が多い。
幾多の華道に関するキーワードで、すべて検索順位が1位となりました。
とはいえ、検索してくれるお客様を待っているだけでは、それほど大きな売り上げは見込めません。そこで、目を付けたのが、「華道教室」です。
個人のお客様は大抵の場合、ご自分で使用する分だけを購入されるので、客単価の飛躍的なアップはそこまで見込めません。頭打ちになってしまいます。
しかし、華道教室になると、生徒さんが使う剣山やはさみなどを、先生がまとめ買いをしたり、教室で花器などの道具をみんなでまとめて購入するというケースがよくありました。
全国の華道教室に、直接連絡をしていこうと考えました。
ECサイトに華道教室の紹介ページを作成しました。
そこに掲載をさせてもらえないかと、ひとつひとつの教室にメールを送ったり、後にメルマガ配信を始めたときにはメルマガの中にも、お知らせ・お願いという形で記載しました。
一番の目的は、華道教室の方たちに、我々のECサイトの存在を知ってもらうことですが、
お教室の方は、教室の宣伝にもなるので、そんなに悪い反応はありませんでした。
次に行ったのが、「お客様のギャラリーページを作成すること」です。
花器を買っていただいたお客さまに発送完了メールを送る際、お客様が実際に生けたお花の写真を送ってもらい、ギャラリーページへの掲載を促す内容と、送り先のメールアドレスと、掲載ページのURLを送りました。
そうすることで、掲載された自分の写真を見るために、サイトへの再訪問が期待できると考えました。
その他に、メルマガ配信のためにメールアドレスを集めることにも力を入れました。
プレゼント企画を定期的に継続してやりました。
即購入に繋がらずとも、企画に応募してもらうことで
メールアドレスを収集→メルマガを配信する→サイトに来てもらう
という流れを作ります。
誰でもが欲しい商品ではないので、やはり華道に興味がある方の応募に絞られてきます。
ただ数が増える、というよりは、質がある数・見込み客の数が増えていく、という具合です。
これらの地道な作業をコツコツ続けることで、徐々にアクセスが増えていきました。
(転載ここまで)
正直にいうと、このタイトルが刺さってブックレビューを書こうと思ったといっても過言ではありません。
売ろうとするものが突拍子もないように感じられたからです。
しかし読み進めると、何年も、いや何十年と使われ続けたものには必ず需要があり、考え方一つで新しい需要は掘り起こせることがわかりますね。
まずSEO対策として「商品数が多く、ライバルが少ない」という点に目を付け、SEOで第1位をとるために商品数を増やしていく。
まさしくSEOの王道ですね。
そして今回のケースでさらに需要を掘り起こしたキーワードは「華道教室」だと思います。
こういった購入客に繋がるキーワードをみつけたら、問題解決に大きく近づけますね。
ECサイトに華道教室の紹介ページを作成し、そこに掲載してもらえないか、全国の華道教室に直接連絡していくことは、なかなかできないこと。
こういった、一見地味で手間のかかる仕事をこなしていくことで成功への道が開けたのでしょう。
売るためには結局こういった「当たり前のこと」をいかにしっかりとやるかが一番大切なことだと思うのです。
また、そういった良質なアイディアをいかに多く提供できるのかがウェブ解析士の勝負所になるのかもしれませんね。
あと『1.5 失敗から学ぶこと』の項目は興味深かったです。売上が伸び悩むと成功事例に頼ってしまう。これは会社の規模に関係なく陥りやすいところですね。
そしてそういうときに必要になることについても書かれています。
必見のセミナーだと思います。
実例紹介!WEB制作会社が知っておきたいウェブサイトのセキュリティについて(堀川 明徳 氏)
続いては上級ウェブ解析士・堀川明徳さんのセッションです。
堀川さんは、株式会社エス・ピー・エス(旧 株式会社四国パソコンシステム)で、SEO・SEMコンサルタント / チーフエンジニアを務め、インターネット広告の運用と、ウェブサイトのコーディングを主な業務としつつ、ウェブ公開サーバ、社内ファイル共有サーバの構築、社内LAN構築、拠点間VPNの構築などのインフラ系の業務や、システム開発などにも携わった幅広い業務経験をお持ちです。
今回の内容は以下の通りです。
- 2.0 実例紹介!WEB制作会社が知っておきたいウェブサイトのセキュリティについて
- 2.1 自己紹介
- 2.2 はじめに
- 2.3 ウェブサイトのセキュリティって?
- 2.4 ローカル環境のセキュリティ
- 2.5 インターネット環境のセキュリティ
- 2.6 サーバ環境のセキュリティ
- 2.7 サイト環境のセキュリティ
- 2.8 主なセキュリティ被害
- 2.9 パスワードの強度
- 2.10 実例① フォームからのスパム送信
- 2.11 実例② ウイルス感染したPCからサイトの改ざん
- 2.12 実例③ CMSからのサイト改ざん
- 2.13 実例④ フォームの脆弱性を利用したサイト改ざん
- 2.14 おわりに
ここでは『2.3 ウェブサイトのセキュリティって?』と『2.10 実例紹介』を紹介します。
ウェブサイトのセキュリティって?(一部転載)
では、実際にウェブサイトのセキュリティについて考えてみましょう。
・ローカル環境
-クライアント(サイトの持ち主の会社)
-サイトの制作会社
-クライアントの関連会社(サイト閲覧の可能性が高い会社)
・インターネット環境
-社内インターネット
-公衆インターネット
・サーバ環境
-レンタルサーバ
-社内サーバ
・サイト環境
-CMS
-お問い合わせフォーム
何かセキュリティ被害が発生した際の影響範囲として、セキュリティ被害に合わないために気をつける範囲として、上記のような環境があります。
意外と思われるかもしれませんが、もし、サイトが改ざんされ、ウイルスに感染するようになった場合、被害は連鎖的に拡散、拡大することがあります。
上記以外の環境についても留意すべきではありますが、上記環境を最低現のセキュリティ対策範囲として、対策について考えていきたいと思います。
実例紹介(一部転載)
実際に、私が相談され、解決した実例と対策をご紹介いたします。
どれも一般的に起こりえる事例になりますので、知っておいて損にはならないと思います。
2.10 実例① フォームからのスパム送信
特定のメールサーバへの攻撃に利用されるケースで発生します。
お問い合わせフォームから送られる通知が大量に届き、お問い合わせフォームに入力されたメールアドレスに自動返信メールを送信していた場合、宛先不明メールも大量に届きます。
迷惑メールが大量に届くだけと思われるかもしれませんが、大量の不正なお問い合わせメールに本当のお問い合わせが混じっている場合、選別が必要になります。
また、自動返信メールを送信していた場合は第三者からみた状況では、スパムメールの送信元になってしまい、数日間、公開ブラックリストに登録されることがあります。
公開ブラックリストに登録された場合、数日間。迷惑メールフィルタに引っ掛かりやすくなったり、同じブラックリストを利用している特定の企業へメールが送れない状態になります。
WEBサイトだけではなく、業務に支障がでてしまいますので、対策を行っておきましょう。
簡単な対策、再発防止策として以下があります。
・同じIPアドレスからの連続したお問い合わせを数分間拒否。
・同じメールアドレスの連続したお問い合わせの数分間拒否。
・特定の文字列が含まれる場合は、お問い合わせ自体を拒否。
・ロボット的なお問い合わせを拒否するために、Google reCAPTCHAの導入。
(転載ここまで)
セキュリティの案件は前回の寄稿でも取り上げました。そこでは「セキュリティポリシーの設定=運用ルールを決める」という準備段階について説明していますが、今回は「堀川さんが相談を受け解決した実例」付きの、いわば実践編といえます。
ウェブサイトのセキュリティはやることが多いですね。
しかし、どれ一つが欠けてもセキュリティを保つことはできないのです。
中でも、お問い合わせフォームからのスパム送信の防止は、大切だと考えます。
大事なお問い合わせがスパムに埋没して、それを見過ごして、お客様の信頼を失うというのは、ある意味取り返しのつかない失態ですから、簡単にできることならば、実行してそのリスクを下げておくことは大切です。
他にもセキュリティ対策の実践編として、参考になる内容とくに実例が盛りだくさんのセッションですので、多くの方にご覧いただきたいです。
あなたは知っていましたか?提案書にも使えるミクロ解析レポートの書き方(宮原 雅明 氏)
最後はウェブ解析士マスター・宮原雅明さんのセッションです。
宮原さんは株式会社ティ・シー・シー プロモーション部/経営企画部・情報システムの担当として、オンラインショッピングの運営と解析、企業ホームページのリニューアル・サイト更新や解析、業務提携先と共同事業のオウンドメディア「いいまち」の運営業務、自社サイトのSEO対策を担当されています。
今回の内容は以下の通りです。
- 3.0 「あなたは知っていましたか?提案書にも使えるミクロ解析レポートの書き方」
- 3.1 自己紹介
- 3.2マクロ解析とミクロ解析
- 3.3ミクロ解析レポートを作る順番
- 3.4ユーザー選定理由
- 3.5ユーザー環境調査
- 3.6 経路分析
- 3.7ペルソナ・カスタマージャーニーマップ
- 3.8改善提案
- 3.9エグゼクティブサマリー
- 3.10表紙、目次、ページのインデックス化
- 3.11最後に
ここでは『3.4 ユーザー選定理由』と『3.5 ユーザー環境調査』を紹介します。
ユーザー選定理由(一部転載)
では実際に経路を探してみましょう。経路を探すにあたり、問題点を洗い出してみましょう。ここでは、ある建設業の内装工事を行っている企業で、「内装工事の事例を閲覧しているが、お問合せ(CV)に繋がっていない。」ユーザーを選定してみます。
ユーザー環境調査(一部転載)
では実際にグーグルアナリティクスのカスタムセグメントを使って経路を探してみます。
対象は、「内装工事の事例を閲覧しているが、お問合せ(CV)に繋がっていない。」
カスタムセグメントの設定の条件として
(1)内装工事のトップページを閲覧している
(2)会社概要のページを閲覧している
(3)お問合せしていない(CVしていない)
人を抽出してみましょう。
上記がカスタムセグメント抽出画面(例)
フィルター1番目が、お問合せしていない(CVしていない)人
フィルター2番目が、内装工事のトップページを閲覧している人
フィルター3番目が、会社概要のページを見ている人
上記で条件を絞り、「オーディエンス」「ユーザーエクスプローラー」を表示すると対象者が表示されます。ここから詳細内容を見ていきます。
(転載ここまで)
自分の話で恐縮ですが、私はサイト分析のアウトプットとして、A4用紙1枚でレポートを作成するようにしています。
そのための最重要ポイントは、報告のテーマを1つに絞ることなのですが、宮原さんが説明されている「ミクロ解析におけるユーザー選定」と近いものがあります。
「内装工事の事例を閲覧しているが、お問合せ(CV)に繋がっていない」ユーザーというのは、絞り込まれたお客様像であり、商談に繋がりやすいお客様像でもあります。
こういったところから攻めるのは王道中の王道です。
ミクロ解析に限らず、「どのようなお客様」と向き合うのか、つまり具体的なお客様像、たとえば年齢、性別、業種、職種、性格などを思い描いて、チーム内で共有することが何よりも大切になります。
宮原さんのミクロ解析は、このあと「経路分析>ペルソナ・カスタマージャーニーマップ>改善提案>エグゼクティブサマリー…」と続いていきます。
しかし、最初の「お客様像の共有」がきちんとできていないと、分析も脇道に逸れてしまって、目的が達成できないことが多いような気がします。
なぜなら、私もサラリーマン時代にそういうことにいやというほど遭遇してきましたからです。
最初が一番大切なのだと意識して、そこからブレない分析こそが、難しいけどやらなければいけないことだと思います。
最後に
今回の3セッションを読んで、成功のためには手間を厭(いと)わないことが大切だと改めて思いました。
昨今はAIや、マーケティングオートメーションなどといったツールがもてはやされ、効率化が叫ばれていますが、結局これらはあくまで道具にすぎません。
新しいお客様を開拓していくためにはどうしても人の手、人の想いが介在することになります。
そして最初から成果が出ているわけではありません。成果を上げるためには、人の手と時間をかけた地道な活動が不可欠と改めて認識しました。
こういった部分があちこちにちりばめられているのが、書籍版「自社サイトをコストで終わらせないために」だと思います。
ウェブ解析士だけでなく、多くのマーケティングに関わる多くの方々にぜひ読んでいただきたい一冊です。
自社サイトをコストで終わらせないために
ウェブ解析士の事例発表集(30)
松岡 亜紀子 (上級ウェブ解析士)
堀川 明徳 (上級ウェブ解析士)
宮原 雅明 (ウェブ解析士マスター)
監修 ウェブ解析士協会
発行 亀井耕二 (ウェブ解析士協会理事)
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