ウェブ解析士マスターの世良です。私は普段、ウェブ解析士講座で資格取得に励む受講生の支援をさせていただいているのですが、近年はまだ入社間もない若い方や異業種からの転職をきっかけに受講されるケースが本当に増えました。
そんな方々にアクセス解析のサーバーログ方式やパケットキャプチャ方式の話をすると、少し昔話の様になってしまいます。
それもそのはず、現在はまさにウェブビーコン方式の全盛であり、かつてデメリットと言われたものは近年のアップデートによってどんどん解消されています。
そこで今回は、サーバーログ方式やパケットキャプチャ方式はどんな時に活用すべきか、どのような企業に採用されているかをテーマに掘り下げて解説していきます。
サーバーログ方式やパケットキャプチャ方式のアクセス解析ツールに触れる機会が無い方や、どのような可能性があるかを知りたい方に是非読んでいただければ幸いです。
アクセス解析の現在
Googleアナリティクスの導入率は、2021年5月時点で94%を超え(上場企業3,725サイトを調査)、Adobeアナリティクスやヒートマップツールなども含めると、世の中の解析ツールはほとんどがウェブビーコン方式による解析手法であると言っても過言ではない状況です。
元々ウェブビーコン方式の弱点とされていた非HTML情報の取得やリアルタイム解析、外部データとの接続なども近年のアップデートによって比較的容易に可能となり、Cookie情報の充実とともに、実装も容易で低コストなウェブビーコン方式に集中する状況も頷けます。
しかし、すべての企業にとってウェブビーコン方式が最適解であるかといえば決してそうではないことも事実です。
今回の記事では、コンテンツマーケティングが全盛となり、5Gによる大容量通信、IoTによって消費者の行動が劇的に変わろうとしている現在、そして「GDPR(EU一般データ保護規則)」や「ITP(Intelligent Tracking Prevention)」などのCookie規制が本格化している状況で、今一度サーバーログ方式・パケットキャプチャ方式の現在とトレンド、その活用方法について紹介していきます。
Cookie規制への対策
従来のIPアドレスによるユーザー識別を手法としていた「サーバーログ方式」と「パケットキャプチャ方式」ですが、サーバーサイドでは1st Party Cookieを用いてユーザー識別を行うものも登場しています。JavaScriptではトラッキングCookieの排除の影響を受けるものも、サーバーサイドでデータを集約することでブラウザサイドのCookie制限の影響を受けることなくデータを活用することが可能です。
なお、2020年8月からはGoogle タグマネージャーにサーバーサイドタグがリリースされ、Googleクラウドを経由しGoogle アナリティクスサーバーに転送される仕組みも実装されています。ただし、Googleクラウドの費用は発生するため、トラフィック量の大きなサイトではより高額になり、実装にあたりクラウドの知識が不可欠なこともあり多くのマーケターにとってハードルの高いものになっています。
サーバー負荷の削減
画像ファイル・動画ファイルが多用されると、データベースとの連携やサインオンといった複雑なシステムが絡むサイトが増えるため、数百ページを超えるような大規模なWebサイトも少なくありません。月間数千万から数億PVといったアクセスのあるWebサイトや、インフラ系等の安定稼働が第一優先のWebサイトにおいては、サーバーへの負荷も考慮してアクセス解析ツールを選定しなければならないのです。
ビーコンによって通信を行う「ウェブビーコン方式」に比べ、サーバーログ方式、パケットキャプチャ方式はサーバーへの負担が少なく、トラフィック量の大きなサイトや特定の時間にアクセスが集中するケースなどで採用されることが多いです。
5Gの普及とともに、今後大容量コンテンツのさらなる増加が予想されます。AIによるビッグデータの活用が一般化され、取り扱うデータはより膨大になっていきます。サーバー環境の整備とともに、データの取得方法についても注意して見直していきましょう。
また、今後解析が必要なものは、Webサイトやアプリだけとは限りません。IoTの時代とともに、ビーコンの実装が不可能な端末やモノの解析も視野に入れてデータを取得していく必要があるかもしれません。
サーバーログ方式のその他活用例
サーバーログ方式の大きな特徴として「蓄積されたログデータを使用するためのアクセス解析ツールを導入する以前の期間を遡って解析することが可能」という点が挙げられます。また、唯一オフラインでのデータ解析が可能なため、金融系や国家機関などの極めて機密性の高い情報を含むWebサイトではオンライン上でのデータ取得を避け、サーバーログ方式が選択される場合もあります。
さらには、外部データとの統合やデータ取得後の加工が比較的容易なため、特にオフラインデータとのクロス分析が重視される場合に好まれます。
パケットキャプチャ方式のその他の活用例
必要なデータを取捨選択しながら解析用データベースに直接格納するため、大容量のトラフィックでもリアルタイムかつ高速な処理が期待できます。情報公開とともにアクセスが集中し、かつユーザーの行動を瞬時に把握したい場合(オークションや販売サイトなど)や、詳細なリアルタイム解析が売上に大きな影響を与える場合に採用されています。
また、導入にコストがかかるイメージの強いパケットキャプチャ方式ですが、トラフィック量に応じた従量課金制のアクセス解析ツールが多く、大規模サイトになればなるほど管理するタグやサーバーの管理工数も踏まえると、コストダウンに繋がる場合もあるのです。
アクセス解析ツールは何を基準に選択するべきか
アクセス解析ツールを選択する際は、対象のWebサイトのKGI(Key Goal Indicator)やKPI(Key Performance Indicators)を明確にし、必要な数値を確実に計測できることが最も重要な選定基準となります。その上で、導入と運用にかかるコストを明確にし、その範囲内で自社の運用体制に適したアクセス解析ツールを選定するようにしましょう。
また、この時のコストとは金額だけでなく、運用にかかる人的工数も含みます。「必要な数値を抽出するための集計作業は簡易であるか?」や「イレギュラー時のサポート体制が十分か?」なども考慮に入れて、アクセス解析ツールを選択するようにしましょう。
もともと、サーバーログはパフォーマンス監視、ウェブビーコンはマーケティング、パケットキャプチャはネットワーク監視から派生して進化してきました。企業によっては、用途に応じて複数のアクセス解析ツールを使い分けているケースもみられます。
今一度、自社にとって必要なデータ、監視すべきリスクを整理して、アクセス解析ツールの再選定をしてみてはいかがでしょうか。