大切なのは売り手の成果よりも「顧客の成果」。「Being軸」を意識したコンテンツマーケティングのススメ

生成AIには作るのが難しい「買いたくなる」コンテンツをどうすれば作れるのか。

ウェブライダー の松尾氏はウェブ解析士会議2024で、顧客が商品・サービスを購入する判断軸「Being(なりたい)軸」で成果を考えるコンテンツ制作のあり方を語った。

私たちはなぜ商品を買うのか。松尾氏は、コンテンツ制作の前に捉えるべき行動心理とウェブライダー流の制作アプローチを披露した。

目次

人は「なりたい(Being)」欲求を満たすためにモノを買う

コンテンツ制作の前に、マーケティングに欠かせない「成果」の定義を考えたい。松尾氏は、成果につながるコンテンツの作り方を考える前にまず、人がモノを買う理由を押さえるべきだと強調する。

人が商品を購入する理由は、自分の「こうなりたい」という欲求を満たすためだ。これが、顧客の成果である。

売り手の成果ではなく、顧客の成果から考えるのがマーケティングの入口であり、ビジネスの成果は、顧客の成果達成がなければ実現しない。

ウェブライダーの根源的な13の欲求
株式会社ウェブライダーでは購入の理由を根源的な13の欲求に分類しコンテンツ制作に活かす

例えば、「オフィス向けの壁掛けアートを求めて検索していたつもりが、最終的に購入したのはおしゃれな観葉植物だった」など、当初求めていたものとは異なる商品を購入した経験はないだろうか。

この場合、オフィスを手軽かつおしゃれに彩りたいという潜在ニーズ(真の理想)を満たすことこそ、お客様にとっての成果だといえる。

成果とは、顧客がなりたい(成りたい)姿になった結果だと松尾氏は強調する。この考えをもつことがマーケティングのスタートラインであり、買いたくなるコンテンツ作りに活かせる視点なのだ。

人がモノを買う理由は、なりたい姿を実現するため
人がモノを買う理由は、なりたい姿を得て真の欲求を満たすため

真のニーズを紐解く3つの軸

人がモノを買いたい欲求には、3つの軸がある。Having(所有したい)、Doing(やりたい)、Being(なりたい)だ。このうち、Being(なりたい)軸への訴求が、成果を上げるコンテンツの正解だと松尾氏は言う。

コンテンツは3つの軸(Being=なりたい、Doing=したい・やりたい、Having=手に入れたい・所有したい)を踏まえて訴求する
コンテンツは3つの軸を踏まえて訴求する

例えばダイソンの掃除機が欲しい人の心理を3つの軸に当てはめると、以下のように分類できる。

  • ダイソンの掃除機で部屋をスッキリさせ、ストレスから解放されたい=Being
  • ダイソンの掃除機を使って掃除したい=Doing
  • ダイソンの掃除機が欲しい=Having

この3つを踏まえたとき、Doingは機能的価値寄りの軸になり、Beingは情緒的価値寄りの軸と考えられる。松尾氏によると、Doingの訴求はあるものの、Beingの訴求が足りないウェブコンテンツをよく見かけるという。

では、DoingとBeingがイメージしやすい訴求とはどのようなものだろうか。

例えば、株式会社ウェブライダーが提供する文章構成ツール「文賢」のビジュアルは、顧客のBeing軸をもとにデザインされている。

文献のトップページ:サービスの機能訴求ではなく、「ビル群と青空=余裕がある」「仕事ができそうな社会人」といった、情緒的訴求を重視している
サービスの機能訴求ではなく、「ビル群と青空=余裕がある」「仕事ができそうな社会人」といった、情緒的訴求を重視している
「文章を校正したい」というDoingから、Beingを掘り下げた図。「それはつまり?」を問い続けるとBeingを割り出せる
「文章を校正したい」というDoingから、Beingを掘り下げるとこのようになる。

松尾氏は、この表現が100パーセント正解ではないと前置きしたうえで、文賢の訴求については成果が出ていると強調した。

また、オウンドメディア「文賢マガジン」でも、検索ユーザーに対しBeingの訴求を行っている。

文献マガジン:記事では、表記揺れの事例、表記揺れの指摘が人に与えるデメリットなどが、ユーザーの共感を生むエピソードとともにまとめられている
記事では、表記揺れの事例、表記揺れの指摘が人に与えるデメリットなどが、ユーザーの共感を生むエピソードとともにまとめられている
「表記揺れ」の検索キーワードから推察されるBeingの欲求
「表記揺れ」の検索キーワードから推察されるBeingの欲求

松尾氏はBeing軸を考える際に、自身がこれまでの経験から辿り着いた「ステージング理論」を大切にしているという。

人はみな自分のストーリーの中で生きている。人生というステージにどのような展開を期待し、どんな人物と出会い、どんな大道具・小道具を使いたいのかを考えて取捨選択している。Being軸のコンテンツとは、その商品がお客様の良質なステージに欠かせないものだと感じてもらうことが重要だ

「ユースケース」は最強のBeingコンテンツ

松尾氏は、Being訴求において一番影響力のあるコンテンツが「ユースケース」だと強調した。

活用事例・お客様の声は非常に重要なコンテンツだ。単に事例を載せるのではなく、Beingが伝わる事例を載せなければ意味がない。

また、わかりやすいDoingを伝えることも重要である。

ユースケースコンテンツをつくるポイントは以下のとおりだ。

インタビューで相手の感想を翻訳する

ユースケースに顧客の言葉をそのまま使うかどうかは検討の余地がある。言語化が得意な顧客ばかりではないからだ。

DoingとBeingの想起につながるエピソードをいかに引き出せるか。これはインタビュアーのヒアリングスキルが鍵になる。「それってこういうことですか?」など、解像度を上げて翻訳するスキルが求められるだろう。

文賢のユースケースコンテンツ。文賢でどのような情緒的価値が生まれているか明確に訴求している。

顧客の「本音」は丁寧かつ慎重に扱う

ユースケースを扱う際には、「相手の本音(インサイト)」を丁寧に扱うべきだと松尾氏は強調する。

人は、本音を言いたくないし、他人に本音を言い当てられたくないものだ。多くの人は建前を大切にしているという観点のもと、「あなたの本音を教えてください」という直球の質問ではなく、段階的かつ慎重に聞いていく必要がある。

「父の日 ワイン」で検索するユーザーに向けた理想の状況。
人の本音は建前の先にある
人は建前で行動している。本音は人に聞かれたくない、言い当てられたくない。

また、顧客の本音がわかったとしても、その本音をそのままコンテンツ化する場合は注意が必要だ。

本音をストレートに代弁するのではなく、本音を想起してもらいやすい表現に留めることが、相手の心情への配慮において重要である。

響く訴求はリスクもある

訴求の切り口は大きく4つに分類できる。右上にいくほど、訴求力もリスクも大きくなる。

松尾氏が考える4つ訴求テイスト
松尾氏が考える4つ訴求テイスト

このうち、本音を扱う本質系トークとぶっちゃけトークは慎重に対応しなければならない。本音を伝えるからこそ響くが、リスクもある。

かつ、顧客を取り巻く状況や感情によって響く内容が異なる点は気をつけたいところだ。

熱狂する姿が顧客のシンパシー(共感)を喚起する

ユースケースコンテンツを作る重要なポイントとして、ユーザーに「シンパシー」を感じてもらえるか?という視点がある。

松尾氏はこちらから相手に共感してもらうのではなく相手から共感してもらう、すなわちシンパシーを感じてもらえるコミュニケーションが重要だと強調した。

株式会社ウェブライダーの採用コンテンツで松尾氏が自社への思いを熱く語る様子
株式会社ウェブライダーの採用コンテンツでは、松尾氏が自社への思いを熱く語る

人は、楽しそうな人を見ると楽しく感じたり、悲しそうな人を見ると悲しくなる。その理由は、私たちの脳ではミラーニューロン(ものまね細胞)という細胞が動いているからだ。特定の商品やサービスのことが好きで好きでたまらない人の声を用いれば、多くの人の共感を生み、訴求力の高いコンテンツになるという。

例えば、松尾氏は自社の採用コンテンツで100分にわたって、自社や社員に対する思いを熱く語るインタビュー動画を公開している。その動画にシンパシーを感じた人たちが採用へ応募してくるそうだ。

松尾氏は、一般的なユースケースが100人分あったとしても、1人の熱狂的なファンのユースケースには勝てないと強調する。

まとめ

松尾氏はAI活用の一例として、マーケティングの議論に使えるような架空のユースケースを作成するTIPSも紹介した。もちろん、そのユースケースは架空のもののため、そのまま使うことはできないが、顧客のBeingを想像し、マーケティングアクションや製品そのものをアップデートするためにも、AIを積極的に活用するのも有用だと話した。

最後に松尾氏は「ヒューマンタッチ」という言葉を掲げた。人間の心はとても複雑だ。たとえAIでも完全に理解はできないだろう。だからこそ、1人ひとりの人生に寄り添い、敬意をもつことは大切である。

これからの生成AI時代において、人に喜んでもらえるマーケティングのコンパスが提示されたセッションだった。

デジタルマーケティングを基礎から総合的に学ぶには

Google アナリティクスをはじめとしたGoogle系のツールは、その使い方を知ることも大切ですが、使うための戦略や設計が必要です。それは、ビジネスに成果をもたらすために必須の考え方です。

ウェブ解析士協会では、このようなデジタルマーケティングの基盤となる「ウェブ解析」を体系的に学べる環境と、知識・技術・技能に一定の評価基準を設け、あらゆるデータから事業の成果に貢献する人材を育成しています。

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この記事を書いた人

ライター。静岡県在住。
事業のワクワクを言語化するインタビューをモットーとし、
ウェブコンテンツをはじめ、想像を形にする支援を展開。

保有資格:ウェブ解析士・初級SNSマネージャー

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