WACAの顧問でもあるHappy Analytics 小川氏は長年、Google Analyticsの専門家として業界を牽引してきた。2022年3月のユニバーサルアナリティクスサポート終了とGoogle Analytics4(以下、GA4)リリース時には、「Google Analytics 4 ガイド(以下、GA4ガイド)」をいち早く公開。以降、資料ダウンロード数は累計20,000件を超え、関連書籍の売上部数は20,000部以上を記録した。さらに、小川氏による中上級者向けの講座「提案型ウェブアナリスト」をはじめ、セミナー、コンサルティング依頼の問い合わせに大きく影響したという。
「自分だからこそできること」がコンテンツ制作におけるキーファクターだと話す小川氏。ウェブ解析士会議2024では、興味関心をビジネスにつなげる要諦を解説した。
「GA4は絶対に来る!」と確信した背景
小川氏はいわずもがな、ウェブ解析の関連分野における第一人者だ。その小川氏がユニバーサルアナリティクス終了告知の2週間後にGA4ガイドをリリースしたのは、以前から抱いていた「GA4に関するコンテンツを作りたい」という思いだけで実現したものではない。
テーマ選びはどのような事業であれ、この4つの視点が大事だと小川氏は言う。
独自の専門性に加え、そのテーマを一過性のものではなく継続してアウトプットできるのか。かつ、ある程度の話題性があるテーマなのか。収益性が見込めるビジネスであるのかを、アイデアの時点で見極めたそうだ。
話題性と継続性の見極め
GA4の話題性は、Googleトレンドを見ると明らかだ。2023年、ユニバーサルアナリティクスが終了した頃をピークに、GA4の話題性は一定で推移している。
当時、企業の大多数がGoogle アナリティクスを導入しており、GA4への移行は避けられない状況だった。
だが、GA4の仕様は未成熟で、公式アナウンスだけでは全体像の把握が難しく、完全移行に戸惑う声も多かった。大多数がGoogleアナリティクスを使う時代ではなくなると見た人は、多かったのではないだろうか。
だからこそ、このテーマには継続性があると小川氏は考えたそうだ。
参考:2023年7月1日にGA(ユニバーサルアナリティクス)が計測終了とのアナウンスと所感 – Real Analytics (リアルアナリティクス)
「私がコンテンツのすべてを作る」制作方針
発信したいコアとなる情報があれば、コンテンツの形はいくらでも変化させることができる。テキスト、動画、画像、セミナーといった媒体を適宜、選択していけばいい。
GA4であれ何であれ、ビジネス戦略に合う媒体を選択することが重要だと、小川氏は強調した。
ユーザーニーズの捉え方
戦略を考えるにあたり、小川氏はGA4をめぐるニーズと課題を整理したという。
まず背景に正確性の課題がある。GA4は変化が早く、公式ヘルプですら対応できていないページがみられる。また、一般ユーザーの解説記事は数年前で更新が止まっていたり、複数テーマのうちの1つとして扱われていたりして、体系的にまとまってないことが多い。
断片的な情報ではなく、自分に必要な情報を正しく網羅的に学びたいニーズが、GA4にあったと小川氏は振り返る。
ニーズに対し、制作方針はこう決めた
上述のユーザーニーズを踏まえ、小川氏が取った制作方針は以下の3つだ。
- 場×コンテンツの明確化
- 私がすべてのコンテンツを制作する
- アップデートを行いやすい環境
それぞれ解説しよう。
- 1.場×コンテンツの明確化を行う
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GA4に関する情報・体験価値を、認知拡大、信頼構築、リード獲得、収益化のそれぞれで線引し、提供する場と内容を限定し、意図を持って設計した。
- 2.私がすべてのコンテンツを制作する
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小川氏自身の知見をもってコンテンツ制作をする点も大きな判断材料だ。そもそも、ユーザーへ提供する情報は自分が信頼できるものでなければならない。
- 3.アップデートを行いやすい環境を選ぶ
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GA4のアップデートが頻繁に行われることから、臨機応変にアップデートしやすい環境も必要だ。
これらの方針を踏まえて、収益化に向けたコンテンツ設計は以下のとおりだ。
小川氏は、GA4ガイドの信頼獲得に注力した。コンテンツの制作者や運営元はそれほど重要ではなく、信頼できる価値提供をしているかが重要だ。
そのうえで、リード獲得から収益化へつなげるために、どの情報をどこに置くべきか考えた。GA4ガイドで伝える内容とGA4講座やコンサルティングで提供する価値は一気通貫し、内容はユーザーにとって必要十分なレベルに留める必要がある。
コンテンツは媒体ごとに考えてしまいがちだが、収益化フローに沿って一気通貫させて考えると、運用後の歩留まりの確認や改善がしやすくなるだろう。
採用しなかった選択肢
コンテンツの選択肢は多種多様で、「とりあえずやってみよう」と安易に手を出してしまいがちだ。小川氏はGA4ガイドで採用しなかった選択肢を3つ挙げ、その理由を述べた。
- 1.YouTubeチャンネルの開設
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小川氏も悩んだそうだが、すでにGA4関連の複数チャンネルが開設され、小川氏自身も出演経験があったことから、お互いに競合になる可能性や運用負荷の大きさから除外した。
- 2.ブログの活用
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小川氏は個人ブログを運営しているがGA4に関して発信していないという。網羅性とアップデート頻度の観点から、成果が得づらいと判断した。ブログではなくウェブサイトとして運用するほうが更新もしやすく、利用者も必要な情報を収集しやすいと考えた。
- 3.複数人体制
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コンテンツ制作を小川氏が単独で行った。これにより、分業による品質のばらつき、誤りがあった場合の対応が取りやすくなる。
GA4ガイドの成功と失敗
小川氏は、上述の戦略にもとづくGA4コンテンツがもたらした結果を、成功と失敗の両面でまとめた。
【成功】外部連載・インタビュー・書籍執筆
小川氏は、自身だからこそできた結果であると前置きしたうえで、GA4に対するニーズを満たす活動が成果として数字に現れていることを示した。
【成功】GA4ガイドのトラフィック獲得とリードナーチャリング
現在、GA4ガイドのセッションは月6万セッションを超えており、そのほとんどがオーガニック流入だ。「ga4」といったビックキーワードの検索順位が5.7位、関連キーワードでも1位をキープしており、その影響力がうかがえる。
資料ダウンロードも好調だ。ウェブサイトの内容をほぼそのままPDFにしたものだが、「ディスプレイではなく手元で見たい」「印刷して見たい」といったニーズに応えている。
実際、ウェブサイトから問い合わせの事前行動は、GA4ガイドの閲覧、資料ダウンロードが大いに影響している。GA4ガイドの内容を読んだうえで問い合わせに至った背景がうかがえる。
【成功】講座・セミナー受講者数増
上述のリード獲得、リードナーチャリングの成果が、講座、セミナー受講者の増加につながった。
GA4に関する操作・基本は、操作する様子を見たほうが理解しやすい。小川氏は、資料には掲載しきれなかったTipsとともに基本操作をまとめた動画を販売している。
アクセス解析を実務に活かしたいニーズは依然として多く、事業規模によってハイレベルな知見が求められる。そのような高難易度のニーズに応えるのが「提案型ウェブアナリスト」だ。
2024年時点で114名の卒業生を輩出。上級ウェブ解析士よりもさらに高いレベルで学びたい方が多く受講している。
GA4に関する情報をピンポイントで解説するオンラインセミナーも月1回程度開催している。セミナーでは、実際の入金額も含めて披露し会場を驚かせた。
【失敗】潜在層への認知拡大
小川氏は1年半の間、ウェブ解析の関心が浅い層へリーチ拡大を行った。アクセス解析に関心はあるが業務で使う場面が少ないウェブデザイナー、エンジニアへのリーチを狙ったものだ。だが、知識が浅い層との目線を揃えきれなかった点や、リーチ後の動線が思うように機能しなかった。
一旦は諦めたものの、アクセス解析・GA4は内容が年々難しくなり、リーチも狭くなりつつある。いずれ何らかの形で再チャレンジしたいと小川氏は語った。
小川流、生成AIの使い分け
小川氏によると、GA4ガイドを含む関連コンテンツでは、生成AIを一切使っていないという。理由は3つの課題にある。
- 1.古い情報
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GA4は随時アップデートが行われており、ネット上には新旧さまざまな情報が存在している。それらの精査を生成AIは正しく行えないのが現状だ。
- 2.スクリーンショットを生成できない
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GA4の使い方を解説するうえでスクリーンショットは欠かせない。しかし、生成AIにその権限を与えることはできない。
- 3.精度のばらつき
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現在使われていない機能の生成や、ハルシネーションによるばらつきが起こってしまう。
小川氏によると、生成AI利用の判断は取り上げるテーマ次第だという。GA4のように、機能が常にアップデートされ情報が分散するテーマにおいて、生成AIは適さないと判断した。
自分が作りたいテーマと、生成AIの相性を試しながら検討すると良いのではないかと小川氏は提案した。
「あなたにしか作れないコンテンツの宝」にチャンスがある!
これらの結果と成果は小川氏だからこそ実現できたことだ。だが、誰しも学びたい、伝えたい、集めたいテーマを少なからず持っているはずだ。このようなテーマが、「あなたにしか作れないコンテンツ」の源泉といえるだろう。
源泉は必ずしもビジネスに成果をもたらすものではないかもしれない。しかし、誰よりも磨きたいテーマと、それを実現するビジネス戦略との掛け算が、あなたにとって宝になる可能性を示唆した内容だった。
GA4.guide:https://www.ga4.guide/