ウェブ解析に関わる人々は岐路に立っている。ユーザーの行動データは保護され、ウェブサイトを閲覧しなくてもAIが情報提供できる時代に変わりつつあるからだ。これは産業革命に似た時代の転換期だと言えるだろう。
私たちは何をもって事業に貢献するのか、真剣に考えなければならない。
WACAファウンダー 江尻氏は、ウェブ解析士会議2024で「あしたのウェブ解析2025」と題し、ウェブ解析とデジタルマーケティングの現状を伝えるとともに、参加者自身が自分なりの方向性を見つけてほしいと訴えた。
データは原油。精製して「情報」になる。
江尻氏は冒頭で、情報を(1)データ、(2)情報、(3)知恵の3つに分類し、ウェブ解析が扱っていたのは「データ」だったのではないかと伝えた。
ウェブ解析士の役割は、データが示す客観的事実を情報に変え、ステークホルダーに共有し、事業の成果を導くことだ。
客観的事実は、Googleアナリティクスやサーチコンソールといったツールで比較的簡単に手に入るものだった。もっと言えば、ウェブサーバー内に記録された処理内容(ツールなどで加工されていない記録=ローデータ)の解析が、ウェブ解析のはじまりだった。
ローデータはまさに「原油」のようなものだ。このままでは判断材料にならないため、以前は人の手で情報に変換してきた。その後、時代とともにアクセス解析の新技術が登場し、多くの行動データからさまざまな分析ができるようになった。
だが、冒頭で伝えた時代の変化により、データは保護される貴重なものになった。
さらに、ウェブ解析が扱う仕事の一部は自動化され、AIによって代替されつつある。
機械化によって市場構造を大きく変えた産業革命のように、これまで職人が行ってきたウェブ解析も革命的な変化を迎えていると江尻氏は指摘した。
AIがもたらす、ウェブ解析の新たな可能性
江尻氏は、AIが情報と組み合わさることで産業を大きく変えると強調する。データから情報を生成し知恵にするプロセスを人間がフォローすることで、人の手だけでは得られなかった知見に到達できるはずだ。
例えば、株式会社ビジー・ビー 中野克平氏が推進する「AI解析士」は、生成AIが出した分析結果をコサイン類似度で評価する仕組みを共有するなど、生成AIとウェブ解析の可能性をいち早く見出している。
また、気象データや株価など多彩なデータを組み合わせれば、これまで気づかなかった可能性を見出すことも可能だと江尻氏は言う。
江尻氏の目標「地方と都市の格差を0にしたい」
江尻氏は自身のビジョンとして、地方と都市の情報格差をなくし、誰でもデータ活用できる環境整備をしたいと語った。
日本は情報通信技術を使える人と使えない人との情報格差(デジタル・ディバイド)がある。地方ではネット環境の有無、人口減少による専門教育の機会の差が指摘されており、解消に向けた取り組みが注目されている。
江尻氏はこの課題に向き合うため、個人でも各種セミナーの開催や、新しいサービス提供に向けて活動を続けているそうだ。
ウェブ解析士会議2024の終了後、11月23日には、「WACA秋田部 立ち上げイベントin横手」を開催。
「都道府県や市町村といったコミュニティがあれば活動しやすい」、「WACAの協会活動は内輪だけなのでは?」といった声を踏まえて実現した。
WACA秋田部 立ち上げイベントin横手【開催レポート】 | 一般社団法人ウェブ解析士協会 https://www.waca.or.jp/news/87468/
また、WACAでは「デジタブルタウン(Digitable Town)」の取り組みを通じ、国内の各自治体との連携を進めている。地域のデジタル課題を解決するための各種支援が主な活動だ。
デジタブルタウンとは | Digitable Town|ウェブ解析士協会地方DX委員会 https://digitable.waca.or.jp/aboutus/
データを情報にし、知恵にするアプローチは地方だけにとどまらない。何のデータをもとに、どのような課題解決を目指すのか、ウェブ解析に関わるすべての人に問われている。
私たちは、何を持って事業の成果を導くのか
事業の成果につながるウェブ解析をするためには、経営・マーケティング、ウェブ・インターネット、統計・データ解析・データ分析の理解が必要だ。これらを再認識し、個人が「何のために、どのデータを、どう分析し活かすのか」が、AI革命後の未来を切り開く。
江尻氏の話が、その原点に立ち返る機会になったと思う。