B2Bのデジタルマーケティングは、名刺の整理からはじめてみては?

こんにちは。上級ウェブ解析士の上尾と申します。
現在は小規模〜中堅のB2Bの企業を対象に、デジタルマーケティングの導入支援、営業支援を行っています。

前回に続き、今回は、デジタルマーケティングの主な手段と、名刺を例にしたデジタルマーケティングの第一歩についてお話しいたします。

目次

B2Bでよく使われるデジタルマーケティングの手段

まず、一般的な「デジタルマーケティング」にはどのような手段があるのか、改めて挙げてみました。皆さんはすべてご存知でしょうか?

1)ホームページ

まずはホームページです。企業が製品やサービスの最新情報を正確に発信するために、もっとも便利でもっとも普及している手段と言えます。

いろいろな用途に使えるという点でも便利です。動画メディアを貼れば展示会用にもなるし、英語でホームページを作っておけば海外向けの販促もできます。ナレッジを蓄積してサポート用のサイトにすることもできます。

どのようなツール使ってホームページを制作するのかという詳細は省きますが、更新しやすさという観点からCMS(コンテンツマネジメントシステム)を使うことをオススメします。HTMLのタグを知らなくとも、Microsoft Word(ワード)を使える方であれば、誰でもホームページを更新できるようになります。

ただし、残念ながらホームページはプル型メディアです。つまり、知っている人しかアクセスできず、広告やSEOを行って集客はできますが、基本的には「待ち」の戦術です。

その欠点を補えるのが、次の「電子メール」です。

2)電子メール

ホームページと並んで、インターネットの世界ではもっとも古いアプリケーションのひとつであり、ビジネスとしての使い方もさまざまです。

一斉通知を行うメルマガや社内報、見込客を育成するためのステップメール、データベースと連動した高度なターゲティングができるターゲティングメール等があります。

ホームページで最新情報を掲載し、メールで顧客に来訪を促すというのはよく行われています。メルマガは読まれなくなったと言われて久しいですが、顧客に合わせて活用すれば、しっかり接点を作れる有用な方法です。

登録してもらえればプッシュ型のメディアとして活用できますが、登録というハードルをいかに乗り越えるかが課題となります。

3)動画

自社で情報発信するのに、大変有効な手法です。これはひとえにスマホやドローンなどの撮影するためのツールや端末が進化してきたおかげです。

特にiPhoneは、ちょっとした道具の説明、イベントの様子を伝えるために有効に使いたい高性能な動画撮影ツールです。よほどライティング等に工夫を要する商品撮影でない限りは、手持ちのスマホで十分に使えます。

製品の詳細な説明、使い方、製品サポート等「見ればすぐにわかる」ことを説明するには、動画に勝るものはありません。動画をホームページで閲覧してもらうと、製品への理解はさらに深まります。

動画を使用するハードルとして、機材のことが心配になるかもしれません。しかし現在はSNSでライブ動画を配信できるように、スマホがあれば簡単な動画を作れてしまいます。

まずは簡単な紹介動画を作ってみて、クオリティを上げてみてはいかがでしょうか。協力していただける仲の良いお客様に動画を閲覧していただき、率直なご意見を伺ってみるのも良いでしょう。

4)メディア媒体

B2Bのデジタルマーケティングを行う時、意外と見落としがちなのが「外部のメディア媒体」です。

昔から、その業界にいれば誰でも知っているという業界専門誌というものがあります。今の時代、この手の専門誌も大抵デジタルメディアになっていて、ユーザに意思決定に少なからず影響を及ぼしています。これらの外部メディアからの自社サイトへの流入も、自社の認知度向上、自社ブランディング強化を考える上でおさえておくべき媒体です。

メディアによってターゲットとするユーザ層などが異なりますので、媒体の特性・費用対効果を測定しつつ出稿の戦略を立てる必要があります。

5)広告

上記の外部メディアとも重複することもありますが、新規顧客増加、引き合い増加を目的によく行われる手法です。Google 等の検索広告についての詳しい説明はここでは省きますが、Google 検索のキーワードによるターゲティング広告は、B2Bにおいてもよく使われます。

ただしB2Bの場合は、キーワードがニッチになりやすいため、限られたキーワードでは競合する企業もほぼ決まってきます。最近は特定のコンテンツに興味のあるユーザだけに限定して広告配信できるターゲティング広告等もあります。こちらもメディア媒体の特性を知りつつ、費用対効果を見て使い分けることが大事です。

6)チャット

ホームページを顧客接点として捉えた場合、「接客」「おもてなし」としては有効な手段です。ホームページへの来訪者をその場で満足させることができ、来訪者側も店舗にでかけてなくとも、自分の知りたいことがわかるという利点があります。

しかし、チャットツールはまだ完全にAIで行うところまで進化しておらず、基本的には人が行わなくてはならないため、バックエンドの営業体制を整えないと導入は難しいでしょう。

今後はAI等の進展により、利用が広がると思います。顧客サポートや購買前の導入相談などに威力を発揮します。AIを利用したチャットの場合、後述のMA(マーケティングオートメーション)とも共通しますが、綿密に業務フローや顧客対応内容を洗い出しておく必要があります。それが済めば、大幅に効率化できる可能性を秘めており、今後も注目されています。

7)アンケート

顧客からの声を手軽に集めることができる便利な調査ツールです。製品導入前、導入後、イベント、キャンペーンなど、いろいろな場面・目的で使えます。

インターネットにおけるアンケートは、デジタルデータとしてすぐに回答を利用できるのが最大の特長です。Google フォームなどを使えば無料で作れますので、社内でのアンケートや意見集約にも有効活用してください。

ただし、アンケートの設問は相手の意識を誘導したり、企業に都合の良い回答しか得られなかったり、調査後のデータを活かしきれなかったりなどの課題もあります。また、個人情報保護の観点からも、むやみに個人のデータを取得すべきではありません。

データを取得する目的や、そのデータをどのように活かすのかをしっかり設計した上で、効果の高いアンケートを目指してください。

8)MA(マーケティングオートメーション)

昨今、MAマーケティングオートメーションという言葉を耳にする機会は多いと思います。MA(マーケティングオートメーション)とはざっくりいうと、履歴を含めた顧客情報を蓄積するデータベースを核として、(2)の電子メールや(5)の広告を連動させた、「新規顧客の発掘・育成ツール」です。

目的は見込客の情報を収集し、顧客を「育成」して最終的にはコンバージョン、つまり顧客になってもらうまで見込客を「変容」させることです。

現状では、MAを導入してみたものの、使いこなせていない企業が大半です。残念な結果になるのは、ツールを導入すればなんとかなると考えている企業が多いからではないでしょうか。MAを活用するためには、導入前の仮説とシナリオが大切です。この「シナリオ」についてはまだ別の回で述べようと思います。

デジタルマーケティングの第一歩は、データの“デジタル化”から

B2Bでデジタルマーケティングと言われる領域で良く利用されているのは、上記のようなツールで、無料・有償のもの含めて市場でいろいろなツールが提供されています。様々な手段があるのはご理解いただけたかと思います。

では実際に、デジタルマーケティングをどのように進めてゆけばよいのでしょうか。横文字が並んでいると難しく考えてしまうかもしれませんが、

  • ①アナログな情報をデジタルデータ化する
  • ②データを共有化し、社内に展開する

この2つを行うと情報の風通しが良くなり、かなり整理されます。

①アナログな情報をデジタルデータ化する

デジタルデータ化は、デジタルマーケティングの第一歩です。

上記の「2)電子メール」と「5)広告」を利用した身近な例として、営業部に貯まっている名刺を例にとって考えてみましょう。

名刺のデジタルデータ化は地味な作業です。名刺はほうっておけば紙の束ですが、一旦デジタルデータ化されれば、社内で共通に利用できる非常に重要な営業リストとなります。これは、ゆくゆくはMAにも活用できます。

現在では、スマホで撮影するだけでデジタル化できるアプリもあります。本当に何から取り組んでよいかわからない場合は、まずは社内にある名刺をデジタルデータ化して整理するところから始めてみてください。これは、個人情報保護の観点からも企業として取り組むべき内容です。

②データを共有化し、社内展開する

さて、名刺がデジタルデータ化されても、活用しないのはもったいないですよね。デジタルデータは会社の資産です。

名刺データを例にとれば、例えば既存顧客A社と接点があったりするチームや担当者が複数あることがわかります。彼らを巻き込みながら、「既存顧客にもう一度買ってもらうにはどうしたらよいか」という共通の目的を持って、顧客データを活かしましょう。

またデジタルマーケティングの施策を展開するためには、システム管理の部門、ホームページの担当部門、実際に顧客と折衝する営業担当等と共通認識がないと、どんな素晴らしい施策もうまくゆきません。社内同士の連携は、デジタルマーケティングを成功させる大事な要素の一つです。

ターゲティングして、小さく測定していくこと

データの整理から始めるのですから、デジタルマーケティングはすぐには大きな成果は見えにくいものです。しかも、その道のりは、想像以上に地味なものです。ですから、大きなコストをかけずに済むようなことからはじめながら、小さな成功体験を積んでいきましょう。そして徐々にデジタルマーケティングの領域を拡大してゆけばよいのです。

しかし、この「小さな成功体験」は、どれくらいの「小ささ」が良いのでしょう?そして、何をもって「成功」と判断すれば良いのでしょう?

あくまでも一例ですが、先程の名刺の例で言えば、こんな風にも考えられるかもしれません。

  1. 各部署から名刺を集約できた
  2. 名刺をすべて顧客データとしてデジタル化できた
  3. マーケティング対象をターゲティングできた(この場合は既存顧客)
  4. 既存顧客に販促メールを配信できた
  5. 既存顧客から反応があった
  6. 反応に対して営業できた
  7. 既存顧客から売上が立った

デジタルマーケティングと言っても、まずはこれくらいの大雑把なステップで考えていただいて大丈夫です。上記はざっくりとしたものですが、実際に売上につながるまでのフローのように見えます。「いや、ウチの場合はちょっと違うぞ」と思われることも多いでしょう。

このシナリオは企業毎、業種・業界毎に当然異なってきますし、実行の粒度は企業によって様々ですが、大事なポイントは2つあります。1つは3でターゲットを絞ること。2つめは、数値化できる測定指標を定めておくことです。

ターゲットを定めるのも、どこまで細かく決めればよいのか、決めたところで実行できるのか、考えはじめれば時間はいくらあっても足らないテーマですが、まずは顧客のリストを「新規の見込み顧客」「既存顧客」ぐらいに分けてみましょう。そして、まずどちらをマーケティングの対象とするのかを明確にしましょう。アプローチする施策や方法は変わってきます。

企業の課題と関連しますが、一般的には、既存顧客の掘り起こしよりも新規顧客を獲得するほうが5倍のコストがかかると言われています。もし判断できないようなら、既存顧客を最初のターゲットとしてアップセルを狙うのも1つの方法です。

2つめは、3~7のステップに共通しますが、実施した結果をどうやって測定するかを決めてから取り掛かることです。成果を判断するには「数値によって測定できること」が大事です。また「目標値を定めること」を大切にしてください。現実的な目標数字がなければ、施策に現実味が出てきません。これは、最終的な売上から逆算すると見えてきます。

上記の例で言えば、「今期中に既存顧客へのデジタルマーケティングによる売上を10件で100万円つくりたい」という目標を立てたら、

  • どれだけの反応数が必要か(目標値)、反応数を増やすにはどうするか(施策)、目標値をどのように管理するか(定点観測と評価)
  • どれだけの配信数が必要か(目標値)、配信数を増やすにはどうするか(施策)、その目標値をどのように管理するか(定点観測と評価)
  • どれだけの顧客データが必要か(目標値)、顧客データを集めるにはどうするか(施策)、その目標値をどのように管理するか(定点観測と評価)

などの項目が考えられるようになります。なお、「いつまでにデータ整理が必要か」「スケジュールをどのように管理するか」も非常に重要ですので、合わせて検討しておきたいですね。

デジタルマーケティングの最大の特長は、根拠のある数字を定点観測でき、評価できることです。

これまでは、やったらやりっぱなし、すぐに結果がでなければ「効果なし」と判断され、放置されてしまうことが多いですが、上記のように順序立てて数字で管理していくと、状況を確実に変えてゆくことができます。

上記にあるような「反応数」や「配信数」など、測定可能な、最終目標を達成するための数字(指標)を「KPI」と呼びます。

初めてデジタルマーケティングに取り組むという場合は、まずは上記のように、

  1. 社内にあるデータを集めてデジタル化
  2. データを共有化、社内へ展開
  3. ターゲットと目標値、期限を考える
  4. 目標達成に必要なKPIとスケジュールを決める

という流れを参考になさってください。

まとめ

このようにデジタルマーケティングを「戦略的」に実行するには、

  1. 目的と対象を明確にする
  2. 目的達成までの流れと施策を洗い出す
  3. 施策に沿ったKPIを決めて定点観測し、評価する

以上の3点が大切です。

特に、KPIは定期的に評価することが重要です。どこで滞っているのか、施策の効果があったのか、効果がない場合、どのような打ち手を考えるか、という改善サイクルを回すためにも、KPIとなる数値を定点観測できるようにしておきましょう。

今回は名刺の例をご説明しましたが、デジタル化の範囲を決めて実施すれば、数字を測定することができるようになります。数字の評価を元に、効果がないと判断した施策は修正してゆけば良いのです。間違っても修正が効く、というのがデジタルマーケティングのもう一つの魅力です。

何もしていなければ、データは永久に取れず自社にノウハウも蓄積できません。まずは、小さくても目的を決めて、デジタルマーケティングをスタートしてはいかがでしょうか?

もし御社が「とは言っても、うちの場合はどこから始めたらいいのやら・・・」と思われたなら、そのお悩みは喜んでお伺いいたしますので、一度ご相談ください。

デジタルマーケティングを基礎から総合的に学ぶには

Google アナリティクスをはじめとしたGoogle系のツールは、その使い方を知ることも大切ですが、使うための戦略や設計が必要です。それは、ビジネスに成果をもたらすために必須の考え方です。

ウェブ解析士協会では、このようなデジタルマーケティングの基盤となる「ウェブ解析」を体系的に学べる環境と、知識・技術・技能に一定の評価基準を設け、あらゆるデータから事業の成果に貢献する人材を育成しています。

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この記事を書いた人

日本電信電話株式会社入社 法人営業、国際ネットワーク構築、新規事業開発を経て、検索ポータルgoo事業部でインターネットビジネスの草創期に検索エンジンビジネスに携わる。
その後大手CRM企業、ネットベンチャーにおいて法人ユーザ対象にメール配信、CRM、FAQ、WEB解析を中心としたデジタルマーケティングに一貫して携わり、サービス立上げ・運用、顧客開拓、顧客サポート等幅広く従事。リーマンショック時にIoTベンチャー企業にて、資金管理・決算書作成等の会社運営実務を経験し2014年独立。上級ウェブ解析士。英語検定一級。

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