目次
1.越境ECの可能性と難易度を理解する
人口に比例して内需が減少することが明白な今、越境ECが日本の事業者にとってトレンドワードになっていますが、独自ドメインを使用した越境ECの成功事例は限られています。 これは、越境ECにチャレンジする企業の数自体が国内向けECと比べたときに少ないことも起因しますが、最も大きな理由は異国に自社の製品を販売することの難易度の高さです。 ただ越境ECサイトを構築して、広告で集客すれば売れるほど越境ECは甘くありません。海外で売上を伸ばすためには少しばかりのコツと、越境ECで成功するをするという覚悟が求められます。2.全ての商品が海外で売れるというわけではなない
越境ECに取り組んでいる、または取り組もうと検討されている事業者の支援をするにあたり、まずお伝えしなければならないのが全ての商品が海外で売れるというわけではないということです。 価格の優位性であれば東南アジアで作られたものの方がありますし、機能面でも日本製が必ずしも選ばれるわけではありません。提供している製品は顧客がEMS、DHL、Fedexなどで配送料20ドル以上を払ってでも欲しいものなのでしょうか?良いものを作れば売れるのではなく、顧客が「価格以上に価値がある」と感じたものが売れるのです。
- 何故、自国内の製品ではなく、越境で御社製品を購入する必要があるのか?
- どういった悩み、課題、願望を持った顧客に対しての製品なのか?
- どういった価値を提供しているのか?
3.提供する価値を分類する”価値のマトリクス”
越境ECのウェブマーケティングのご相談をいただいた際に、まず価値のマトリクスという観点で、市場性や提供価値を整理します。顧客が誰で、どういった価値を提供しているか(提供していきたいか)を分類することで戦略を導き出していきます。 製品の価値を評判、共感、実利、保証の4つに分類し、考えるフレームワークです。 価値のマトリクスでは情緒と機能の横軸、実績アリ、ナシの縦軸で4象限に分類します。それぞれの象限の定義は下記の通りです。評判価値
既に世の中に知られており、保有することで情緒的に満たされる商品 共感価値
世の中にあまり知られていないものの、保有することで情緒的に満たされる商品 実利価値
既に世の中に知られており、保有することで機能的に満たされる商品 保証価値
普段は機能を発揮しないが、いざというときに安心や安全を提供する商品
⑴ 評判価値製品の差別化戦略
■ 評判価値商材 ブランドバッグの例
例えば、ブランドバッグや時計を販売している場合は既に実績があり、購入することで情緒的な欲求が満たされるため、評判価値に分類されます。 既にニーズが顕在化しており、製品を探しているユーザーは存在します。この場合、同様の製品を販売する競合とどのように差別化し、自社が選ばれるのか?という視点で戦略を考える必要があります。 この場合は取り扱うブランド品のメーカーやカテゴリを絞ったり、アフターケア、保証などのサービス、安心感、仕入れの優位性がある場合は価格で差別化し、選ばれる理由を作ります。 例えば、同じHERMESのバッグでも日本で流通しているものと海外で流通しているものでは状態が大きく異なり、日本で使われていた=状態が良いと考える海外バイヤーも少なくありません。 Google広告が提供しているプレビューツールを使用すれば、ターゲットする国の検索結果を確認し、製品名、型番で検索する事でどういった競合がどういった訴求で広告を配信しているか確認することが可能です。 競合サイトを見て、自社で取り扱う製品と同じ型番がいくらで販売されているのか?どういった付加価値を訴求しているのかを整理してみることで自社がその市場で優位性があるものなのか、何か強みを作り出す必要があるのか考えていく必要があります。■ 独自ドメインサイトはモールと比べCVRは下がると考える
越境で高額商材を販売する際は、信頼を獲得することにある程度コストをかけていく必要があります。顧客の信頼がある程度得られているモールに比べ、独自ドメインサイトのCVRは大きく下がります。商材の価格にもよりますが、モールが1~4%とした時に独自ドメインサイトは0.3~1%くらいで見ておいた方がよいでしょう。 モールにはそもそも購買意欲の高いユーザーが多く訪れます。しかし、独自ドメインサイトの場合、異国から初めて訪れたサイトで数十万円もする商品を購入するのは躊躇されるでしょう。そのため、信用を獲得するような外部メディアへの寄稿や、サイト内のコンテンツは必須だと考えてください。 もし、実店舗をお持ちなのであれば実店舗の外観や内観、スタッフの様子など、できるだけリアルにビジネスをしていることを感じてもらえるようにしましょう。外部メディアに寄稿した際は外部メディアのロゴをサイト上に掲載するなど、初めて訪れたユーザーには購買よりも信頼を獲得することを意識してください。 評判価値商材と同様に実利価値商材も同じような考え方で、信頼と選ばれる理由作りが重要です!⑵ 共感価値製品の差別化戦略
■ 共感価値商材の事例
ブランドバッグや車などと比べて認知度はないもので、情緒的に満たされる商材を共感価値商材と分類します。アパレルD2Cブランドの商材などが分類されます。評判価値商材・実利価値商材とは異なり、ニーズが顕在化していないため、戦略が異なります。■ 共感価値商材は顧客接点を作り、共感者(ファン)を増やす
共感価値の戦略は顧客接点を持ち、共感者(ファン)を増やすことです。越境ECの場合、 ⑴ InstagramやTwitterなどのSNSを駆使し、情報発信することで海外に共感者を作る⑵ 海外に商品の卸し先を見つけ、実店舗で商品に触れてもらう機会を作り、ファンを獲得したり、オンラインに導くO2O施策 が効果的です。 カナダ初のカートシステムであるShopifyはSNSとの連携やO2O施策に適しており、越境ECのマーケティングで活用されています。
■ SNS発信と海外の実店舗でファンを増やしたPampshade
神戸にパンとランプシェードを組み合わせたPampshadeという名のランプシェードを、Shopifyを活用した越境ECサイトで販売しているD2Cブランドがあります。 開発者の森田さんがパン屋で働いていた時、廃棄になるパンを見るのが耐えられず、パンは食べるだけではなく、それ以外・それ以上の魅力があると考えて開発しました。 この想いを形にしてPampashadeを開発した、Instagramで発信していたところ海外から、「欲しい!」「かわいい!」という声が寄せられるようになりました。 海外でこんなに反応をもらえるならと思い、ニューヨークやパリの展示会に出展したところ、次々と海外の実店舗に出店が決まりました。現在は北米、ヨーロッパを中心に約50店舗で取り扱われています。■ O2Oも視野に入れる
越境ECに取り組む事業者の多くが、オンラインだけでビジネスを完結させようとしますが、共感価値商材はオンライン、オフライン問わず、- 顧客接点を持ち、想いを伝える
- 実商品を見て貰う、触れてもらう
4.顧客の解像度を上げ、企画や打ち手の精度を上げる
越境ECを行うとなると「英語圏」や「アメリカ人」などといった粗い解像度の顧客像を設定し、プロモーション施策を使用しがちです。しかし、顧客の解像度の高さと打ち手の精度は比例しており、解像度が低ければ広告費を投下しても無駄打ちになってしまう可能性が高くなります。 そのため、私たちが越境ECのマーケティング支援をする際は、出来る限り顧客の解像度を高め、チームで共通認識を持って打ち手を考えていけるようにしています。 ただ、海外の顧客となると、どうやって解像度を高めていけば良いか分からないという方も多いかもしれません。下記の例を参考に自社でどんなことができるか考えてみてください。5−1. 既存顧客の分析、インタビューをする
既に稼働している越境ECのマーケティングを考える場合はとても簡単です。クライアントに顧客データを見せてもらい、顧客データとGoogle アナリティクス のデータを見てザックリとした傾向を見ます。次に、ロイヤルカスタマーとInstagramやFacebookで繋がっている場合、顧客のプロフィールを見て、彼らのライフスタイルや家族構成、年齢を把握します。 ここで重要なのは想像だけに頼らないという事です。データを見て絞り込んでいくことで、自分たちが想像している顧客像と現実の顧客像に乖離がないか確認することができます。 例えば、以前、私たちが想定していた顧客は「LAに住むアメリカ人のニックさん」でしたが、実際に購入しているユーザーは「LAに住むチャイニーズアメリカンのチャンさん」だったということがありました。
いつも購入しているロイヤルカスタマーにInstagramやFacebookでコンタクトし、ユーザーインタビューをさせて欲しいとお願いをするのもよいでしょう。ここで得られたインタビュー結果に基づき、サイトの見せ方や伝え方、商品の訴求軸、ラインナップを検討します。 データを見ながら傾向を掴み、顧客をピックアップした後、インタビューすることでn=1のインサイトを細かく把握することができます。
5−2.新規顧客の分析、インタビューをする
これから越境ECを立ち上げる場合やまだ売上が発生していない場合は、自分たちが想像する顧客像(ペルソナ)を考えたり、競合サイトのレビューを見ながら想定顧客を設定します。 可能であれば想定顧客像に類似する海外ユーザーを集め、サンプリング会やインタビュー会を実施し、商品やサイトに関するコメントや感想をもらうようにしましょう。私はこれまでヨーロッパ、アメリカ、アジアでサンプリング会をしてきましたが、全てのサンプリング会での顧客の声がその後の戦略を考える際の根拠となり、役立ちました。 顧客の理解を深める為の質問例(化粧品の場合)<化粧品に関する質問>
・普段、使用している製品と価格
・化粧に関する悩み、課題
・月に使用する美容費
・普段、どこで化粧品を購入しているか?
・化粧品の使用感
・(定価を伝えて)この価格なら使用するか?
Yes/Noとそれぞれの理由
<デモグラフィックデータ>
・名前
・年齢
・家族構成
・居住地
<情報収集源>
・普段、使用しているSNS
・普段、何から情報収集しているか?
サイトURL、雑誌名、SNSであればインフルエンサー、YouTuber名
・購買決定要因
→価格や品質、知名度、友人から勧められたなど、複数要因があるので選択式にする インタビューやサンプリング会を通し、彼らがどこにいて、どういった悩み、課題を抱え、どういった購買決定要因を持っているかを把握すれば、どういった打ち手(戦術施策)を優先的に打っていくべきかが見えてきます。 イタリアにて、京都発のアパレルブランドのサンプリング会を実施した際は、ウェブを通して訴求していた商品コンセプトである「洋服の中に和(京都)のテイストを入れ、和を感じて欲しい」というものは十分伝わっていました。しかし、帯やブレスレットの使用方法が十分に伝わっていず購買に躊躇してしまう可能性があるということがインタビューを通して分かりました。 インタビューの内容を参考に帯の使い方の動画やブレスレットの固定の仕方の説明を追記することで、ユーザーの理解が深まり、購買に繋がることも分かりました。 また、共感価値商材の場合、サンプリング会やユーザーインタビュー時にビデオや写真を撮らせてもらい、許可を取った上でサイトに掲載することが有効です。そうすることで、サイトに訪れたユーザーに自分と似た悩みや課題を持った人の声で、商品の価値を伝えられます。 この後、競合製品のサイトを分析したり成分比較することで、市場で目指すべきポジションがクリアになればさらに戦略の精度は上がります。