こんにちは。ブランディング・マーケティングに関するコンサルティング事業を展開している、株式会社ピージェーエージェント代表取締役の加藤です。
今回は、顧客の購買行動モデルを理解し、顧客視点での施策を考えることの重要性について、解説いたします。
「AIDA理論(アイダ理論)」「AIDMA理論(アイドマ理論)」「AISAS理論(アイサス理論)」「SIPS理論(シップス理論)」という、購買行動モデルのフレームワークについて、お伝えいたします。
商品・サービスの売上向上に向けて、顧客視点での新たな打ち手を考えたい企業様は、ぜひご一読ください。
顧客の購買行動を想像することの重要性
顧客の購買行動を想像することはマーケティングにおいて非常に重要です。昨今では、「カスタマージャーニー」という言葉もよく聞くようになりましたが、顧客が商品・サービスを知って、興味を持った上で、最終的に購買するまでの、一連の行動や思考、顧客接点などを整理・分析することが大切です。購買に至るまでの一連のプロセスを段階に分けて分解して考えることで、商品・サービスの購買にあたっての障壁になっている課題点や改善点を見つけ出すことができます。
ただ、「では、自社のお客様の購買行動を想像してみよう!」と、いきなり何の前提知識も無いゼロの状態から、顧客の購買行動を考えてみようとしても、なかなか難しいかと思います。
顧客の購買行動の研究は古くから行われており、様々なフレームワークが存在します。今回は、それらのフレームワークについてご紹介いたしますので、自社のお客様の購買行動を想像する際の一助にしてみてください。
AIDA理論(アイダ理論)
1898年にアメリカの広告研究家、セント・エルモ・ルイス氏が提唱したとされるAIDA理論は、古くからよく知られている顧客の購買行動モデルの基本中の基本です。今、世の中にある購買行動モデルのほとんどは、このAIDA理論が基盤となっていると言われています。
- Attention(注意):顧客が商品・サービスを認知する
- Interest(興味):顧客が商品・サービスに興味・関心を抱く
- Desire(欲求):顧客が商品・サービスを欲しくなる
- Action(購買):顧客が商品・サービスを購入する
という4つのフェーズからなり、これらの頭文字をとってAIDA理論と呼ばれています。
AIDA理論は対面での直接営業や、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などのマスメディア広告を使った際の顧客の購買行動をよく表しています。
例えば、とある「化粧品」を例に取ってAIDA理論を考えてみると、以下のような流れになります。
- Attention(注意):家に化粧品のチラシが届いて、それを見て、初めてその商品を認知する
- Interest(興味):チラシの内容を見て、「これは、私の肌の悩みに合うかもしれないな」と興味を持つ
- Desire(欲求):「この商品、良さそうだな。欲しいな」と思う
- Action(購買):その化粧品を購入する
……という流れです。
すごくシンプルな購買行動モデルですが、あなたも何か商品・サービスを購入した際のことを思い出してみると、AIDA理論に沿って行動をしているケースがしばしばあるのではないでしょうか?
AIDMA理論(アイドマ理論)
前述のAIDA理論を基にして、1924年にサミュエル・ローランド・ホールが提唱したのが、AIDMA理論です。AIDMA理論は、AIDAの「Desire(欲求)」と「Action(購買)」の間に、「Memory(記憶):顧客が商品・サービスを記憶する」というフェーズを加えたものです。
先ほどの「化粧品」の例で言えば、
- Attention(注意):家に化粧品のチラシが届いて、それを見て、初めてその商品を認知する
- Interest(興味):チラシの内容を見て、「これは、私の肌の悩みに合うかもしれないな」と興味を持つ
- Desire(欲求):「この商品、良さそうだな。欲しいな」と思い始める
- Memory(記憶):その後、テレビCMや雑誌などで何度もその化粧品を目にして、その化粧品のことが記憶に残って覚えている状態になる
- Action(購買):その化粧品を購入する
……という流れです。
このAIDA理論やAIDMA理論は、日本でも長く活用されてきました。特に、まだインターネットがなく、商品・サービスの認知度を向上するには、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などのマスメディア広告に多額の広告予算を割いて実施をする必要があった時代においては、象徴的な顧客の購買行動モデルでした。
AISAS理論(アイサス理論)
インターネットが登場したことで、これまで企業側からマスメディアを使って一方的に顧客に対して情報を発信していたような環境が一変し、顧客が自らの手で必要な情報をインターネットで調べて探し出す時代になりました。また、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の登場によって、マスメディア以外でも、企業-顧客間や、顧客-顧客間にて、数多くの様々な情報が発信され、シェア・拡散され、双方向でのコミュニケーションが可能な世の中になりました。
こうした時代の変化の中で、株式会社電通の秋山隆平氏が「情報大爆発 – コミュニケーション・デザインはどう変わるか(2007年・宣伝会議刊)」の中で提唱したと言われているのが、AISAS理論です。
前述のAIDMA理論を基にしつつも、インターネットやSNSによるコミュニケーションを前提として、以下のような5つのフェーズで整理をした購買行動モデルです。
- Attention(注意):顧客が商品・サービスを認知する
- Interest(興味):顧客が商品・サービスに興味・関心を抱く
- Search(検索):顧客が商品・サービスについて調べる
- Action(購買):顧客が商品・サービスを購入する
- Share(共有):顧客が商品・サービスの口コミを共有する
先ほどの「化粧品」の例で言えば、
- Attention(注意):家に化粧品のチラシが届いて、それを見て、初めてその商品を認知する
- Interest(興味):チラシの内容を見て、「これは、私の肌の悩みに合うかもしれないな」と興味を持つ
- Search(検索):インターネットで検索をして、ホームページや口コミ情報など、その化粧品に関する様々な情報を調べる。
- Action(購買):その化粧品を購入する
- Share(共有):SNSでその化粧品の使用感を共有し、口コミサイトに評価を投入する
……という流れです。
テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などのマスメディア広告だけではなく、インターネットやSNSによるコミュニケーションが主流となりつつある昨今の時代背景を汲んだ、比較的新しい購買行動モデルです。
SIPS理論(シップス理論)
2011年に、株式会社電通が発表した購買行動モデルが、SIPS理論です。SIPS理論では、以下のような4つのフェーズで、顧客の購買行動を分けています。
- Sympathize(共感):企業が発する商品・サービスのコンセプトや、その商品・サービスに関する情報を発信している第三者の人物に共感する
- Identify(確認):インターネットでの検索だけでなく、知人・専門家の意見や、専門誌による情報など、様々な手段で、本当に有用な商品・サービスかを確認する
- Participate(参加): SNSによるフォロー・RT・いいね!や、試供品の利用、キャンペーンイベントへの出席など、商品・サービスの購買だけに限らず、その商品・サービスに関連する様々な事象に参加する
- Share & Spread(共有・拡散):「Participate(参加)」をした際の感想などを、SNSや口コミを通じて共有する。そして、その内容が消費者間で共感されることよって、コミュニティーを超越してより多くの人に対して拡散される。
先ほどの「化粧品」の例で言えば、
- Sympathize(共感):雑誌で化粧品の開発コンセプトを見て共感する。SNS上でその化粧品に関して語っているインフルエンサーの考えに共感する。
- Identify(確認):知人・友人にその化粧品について話を聞いて確認する。化粧品専門雑誌などを見て確認する。
- Participate(参加):その化粧品のSNSアカウントをフォローする。キャンペーンイベントに参加して、試供品をもらう。
- Share & Spread(共有・拡散):参加したキャンペーンイベントの様子・雰囲気や、試供品のパッケージデザインや使用感をSNSに共有する。そして、その投稿が拡散される。
……という流れです。
昨今では、マスメディアをはじめとした広告に対しての信頼が低下しており、インターネットに親和性のある若い世代を中心に、「マスメディア離れ」「広告離れ」が加速しています。そのような時代においては、「顧客にファンになってもらう」ことが非常に重要になります。
SIPS理論では、ただ単に商品・サービスの購買をゴールにしている訳ではありません。また、Share & Spread(共有・拡散)だけをゴールとしている訳でもありません。Share & Spread(共有・拡散)の先には、次のSympathize(共感)が生まれ、SIPSのサイクルが消費者の間で何度も回ることで、そのブランドに対しての信頼が徐々に高まり、ファンになっていってもらい、その人数が拡大していくことを目的としています。その結果として、中長期的な視点で考えると、商品・サービスの売上の拡大にもつながっていきます。
大切なのは顧客視点での「想像力」
テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などの一方的なマスメディア広告から、インターネットやSNSによるコミュニケーションが台頭することで、顧客の購買行動は少しずつ変化をしてきています。膨大な広告宣伝費を有する大企業が有利だったマスメディア広告時代から、中小企業であってもしっかりとしたブランド戦略とマーケティングを武器にして戦うことができるような時代になってきています。
ここで最も大切なことは、顧客の気持ちになって購買行動の一連の流れを想像する「想像力」です。全ての人間が前述のような購買行動モデル通りに動く訳では決してありませんし、最新の購買行動モデルを知っているから偉いといったような話では全くありません。
顧客の購買行動は時代と共に常に変化しますし、あなたの会社で扱っている商品・サービス、ターゲットとなる顧客の属性などによっても、正直、千差万別だと思います。
大事なのは、「自社の顧客は、どのようにして自社の商品・サービスに興味を持ち、どのようにして購買まで至るんだろう」ということを、徹底した顧客視点で想像することです。そして、「この部分が顧客にとって不便だな」「購買に向けての障壁になっているのはどこかな」「こうなればもっと適切に商品・サービスの魅力を感じてもらえるな」と一つ一つ丁寧に考えて、改善を繰り返すことが最も大切です。「どうしたら売れるか」という企業目線での発想ではなく、「顧客はどうしたら買いたくなるか」という顧客視点で物事を考えることが非常に重要です。
この本質を理解していただいて、顧客の購買行動を想像してみてください。きっと、商品・サービスの売上向上に向けた、顧客視点での新たな打ち手を思いつくことができるはずです。