上級ウェブ解析士の高橋です。
今回は『自社サイトをコストで終わらせないために〜ウェブ解析士の事例発表集(20)』のブックレビューをお届けします。
2017年2月4日に名古屋で開催された第21回ウェブ解析士勉強会「自社サイトをコストで終わらせないために」のセミナーを書籍化したものです。
各講師の内容を一部転載してお送りします。
※転載に関しては、著者の許諾をいただいています。
※発表者の勤務先、役職につきましては2017年2月当時のものです。
「新しいツール『AIアナリスト』を使ったサイト改善の事例報告」 (恒川琢朗氏)
最初は上級ウェブ解析士・恒川琢朗氏のセッションです。
恒川さんは、株式会社ミニチュアファクトリー 代表取締役 / 株式会社シー・エム・バー 取締役を務めていますが、子どもの頃は、絵を描いたり折り紙を作ったりすることが多い内気な少年だったそうです。
ただ海外交流にはなぜか興味があり、小学6年の頃には当時メンバーが2人ほどしかいなかった国際交流クラブに入ったことがきっかけで、将来は世界を舞台に活躍したいと思われたそうです。
そんな恒川さんが設立された株式会社ミニチュアファクトリーは、建築模型、ジオラマ模型、機械模型の企画・デザインおよび海外企業(工場)との密な連携が強みとのこと。
今回の内容は以下の通りです。
- 1.0 発表タイトル
- 1.1 自己紹介
- 1.2 はじめに
- 1.3 AIアナリストとは
- 1.4 導入までの背景
- 1.4.1 会社紹介
- 1.4.2 AIアナリスト導入の経緯
- 1.5 サービス開始
- 1.6 改善提案と効果検証①
- 1.6.1 最初の提案、結果は失敗?
- 1.6.2 効果検証
- 1.7 改善提案と効果検証②
- 1.7.1 トップページの改善
- 1.7.2 効果検証
- 1.8 改善提案と効果検証③
- 1.8.1 重要ページをスマートフォン対応
- 1.8.2 効果検証
- 1.9 改善提案と効果検証④
- 1.9.1 フォームの改善
- 1.9.2 効果検証
- 1.10 改善提案と効果検証⑤
- 1.10.1 ユーザーが知りたい情報を見やすい場所に
- 1.10.2 効果検証
- 1.11 AIアナリストを使用して感じたこと
- 1.11.1 総合的な結果について
- 1.11.2 使ってみて感じたこと
- 1.12 あとがき
- 1.13 付記
ここでは「1.3 AIアナリストとは」と「1.4 導入までの背景」を紹介します。
(一部転載)AIアナリストとは
AIアナリストは株式会社WACUL(ワカル)が提供するサービスです。Googleアナリティクスのデータを元に、ウェブサイトの改善案を自動でわかりやすく知らせてくれます。大企業や中小企業を対象に導入企業が急激に増加しており注目を集めています。
下記、具体的なサービスの流れです。
(1)改善案を出す アクセス状況からサイトのどこを直すべきかをわかりやすく提案
(2)成果を予測する 提案を実行した場合、どのくらい成果が出るかを予測
(3)変化を報告する 提案を実行後の効果を検証。訪問数やCV数を毎日チェックし変化があれば報告
WACULはもともとウェブ解析のコンサルティングをおこなっていた会社です。データの解析・集計・改善方針の提案までは自動でおこないますが、詳細な改善手法は人がおこないます。自動データ分析に基づくコンサルタントの経験を駆使した提案を月額4万円〜、という低コストで受けることができます。(セッション数に応じて金額は異なります。また、人的なコンサルタントのサポートで一部オプション料金が発生します。※2017年4月時点の情報)
(一部転載)導入までの背景
1.4.1 会社紹介
株式会社ミニチュアファクトリーは、ミニカーや、フィギュア、ぬいぐるみ等のキャラクターグッズをBtoBで受託製作している会社です。コンセプトは「小さなモノ、大きな感動」。費用と時間をかけて作るからには喜んでもらいたい、簡単に捨てられないものを作りたいという思いで製作に取り組んでいます。生産体制については、企画・デザインを弊社内でおこない、生産を主に中国の協力工場に委託しています。生産途中の監修では仕上がりを入念にチェックし品質を高めます。工場とは基本的に直取引であり、低価格・短納期の製作が可能です。
ウェブサイトは主に下記のような構成です。
(1)トップページ
(2)グッズ製作ページ(ミニカー製作、フィギュア製作、ぬいぐるみ製作等、アイテム別にサービスを紹介)
(3)私たちの強み(品質、納期、価格等に関する弊社の特徴を紹介)
(4)製作実績ページ(各アイテムの製作実績を掲載)
(5)お問合せフォーム
上記ページの内、(2)グッズ製作ページ は基本的なサービス内容について説明するページであり、弊社としては一番見せたいページです。グッズ製作ページは、ミニカー製作、フィギュア製作、ぬいぐるみ製作等、サービスごとにページが分かれており、PPC広告では、それぞれのページをランディングページに設定しています。たとえば「ミニカー オリジナル」と検索すると、「低価格でオリジナルミニカーを製作」といったような広告文のPPC広告を表示し、その広告をクリックすると、グッズ製作ページの「ミニカー製作」ページが開きます。下図は参考までに(1)トップページ、(2)グッズ製作ページ(ミニカー製作)、(3)私たちの強みページです。
1.4.2 AIアナリスト導入の経緯
新規クライアントからの引き合いは主にウェブサイトのお問合せフォームから入ります。受注までの流れは下記のようになります。
(1)フォームからの問合せ
(2)弊社から返答(電話/メール)
(3)仕様提案(見積/企画/デザイン)
(4)受注・製作開始
新規問合せのうち最終的に受注に至るのは全体の15%くらいです。問合せ件数を増やし受注を増加させるためにはウェブサイトの継続的改善が必要です。しかし、サイトの問題点を漠然と感じていても、具体的にどう直せばよいか、あるいはどこを優先的に直していくか判断するのは簡単ではありません。そんな中、サイトの改善提案を具体的な数値に基づき低コストでおこなってくれるサービス「AIアナリスト」を知り、弊社にぴったりのサービスと感じ導入することになりました。
(転載ここまで)
『AIによるウェブ解析をベースにしたウェブ改善』はウェブでの拡販を考える上で、現状認識として改善のために避けて通れない話ではありますが、AIツールを導入するメリットが本当にあるのかが一番大事なポイントになると思います。
一番多いのはウェブ解析を行う人材が社内にいないケースだと思われます。
この事例では、AIツール導入が成功するのですが、実際の改善において、AIアナリストがどのような提案をするか、そしてどのように効果があったかなど非常に興味深く読み進めることができました。(改善事例が4件も掲載されています。)
AIによるウェブ解析は今後広がっていくと思われますので、大企業、中小企業、個人事業主の方だけでなく、ウェブ解析士の方も一読の価値のあるセミナーだと思います。
「ニッチな業種ほど効果あり!今こそ重要な『メールマーケティング』」 (長瀬果氏)
続いて、上級ウェブ解析士・長瀬果氏のセッションです。
長瀬さんは、株式会社タービン・インタラクティブのマーケティングチームでマーケティングプランナーを務め、顧客・エンドユーザー双方の視点を取り入れながら、アクセス解析を元にした戦略指標の策定やレポート作成、コンテンツ企画提案を行なっています。
今回の内容は以下の通りです。
- 2.0 発表タイトル
- 2.1 自己紹介
- 2.2 メールマガジンは使えない?
- 2.3 メールマガジンが嫌がられる理由は
- 2.4メールマガジンからメールマーケティングへ。
- 2.5メールマーケティングを実施するメリット
- 2.6ユーザーが「欲しい情報」「欲しいタイミング」を探すには
- 2.6.1 バイヤーペルソナ
- 2.6.2 バイヤーズジャーニー
- 2.6.3 バイヤーペルソナとバイヤーズジャーニーを利用したメール配信案
- 2.7効率よく、反応がよいメールを送るために
- 2.7.1 目的にあったメールの型を作る (1メール・1テーマ)
- 2.7.2 メルマガは概要にとどめ、サイトに誘導する
- 2.7.3 スマートフォンで見ることを考える
- 2.7.4 差出人を明確にする
- 2.8メール配信システムを選ぶポイント
- 2.9メールからさらに深く顧客の反応・動きを検証するには
- 2.10まとめ
ここでは『2.6ユーザーが「欲しい情報」「欲しいタイミング」を探すには』について紹介します。
(一部抜粋)ユーザーが「欲しい情報」「欲しいタイミング」を探すには
では、ユーザーが欲しい情報、欲しいタイミングはどのように探せばよいでしょうか。
そのためには、メールを配信する前に
・「誰が読むか」を具現化すること
・読み手が「どんな行動」をとるか考えること
をまとめていくことが大切です。
今回は「バイヤーペルソナ」と「バイヤーズジャーニー」という2つの考え方で、まとめる手法を紹介します。
2.6.1 バイヤーペルソナ
「バイヤーペルソナ」とは、性別や年齢などの基本情報から、どのような場所(オンライン、オフライン)で情報収集を行ない、どのような仕事で、どのような課題を抱えているかなどの個人的な背景から抽出される要素をすべて含めた、理想の顧客像です。
理想の顧客はどんな人かを「基本情報」「役職」「生活スタイル」「抱えている潜在問題」や「大切にしているもの」「目標」などから製品・サービスに関連する要望・不安・不満を一つのシートにまとめます。
この「バイヤーペルソナ」を担当者全員で「深く理解する」ことで、対象の施策はどのようなタイミングで作成すればよいかを考えていくことができます。
作成上のポイントは以下です。
・「ユーザーにとって問題解決」となるコンテンツを優先させる
・自社のサービスの紹介だけに終始しない
・自社からの情報に間違いがなく100%事実であることを明確にする
・常にユーザーからの信頼を獲得することを意識する
まずは自社に問い合わせするユーザーのバイヤーペルソナを作成して、どのような情報が必要なのかをまとめていきましょう。
2.6.2 バイヤーズジャーニー
ペルソナがどのようなプロセスを経て決定に進むかを一つの図にまとめたものを「バイヤーズジャーニー」と言います。
下記の3つのフェーズに分けることで、ユーザーがどの状態にいるのかを見極め、それぞれのステージに合わせたきめ細かなアプローチで温度感を高めます。
○自覚ステージ(AWARENESS STAGE)
自身におこっている問題から課題をなんとなく認識し始めた段階です。
○検討ステージ(CONSIDERATION STAGE)
はっきりした課題を解決しようと、吟味するための情報を集めている段階です。
○決定ステージ(DICISION STAGE)
解決するための「方法」を決めるために、費用などより具体的な情報を集めている状態です。
自覚→検討→決定にあわせてバイヤーペルソナの行動をあてはめてみることで、どのタイミングでどのような情報を提供すればよいかをまとめることができます。
※サンプルでは解決部分が空白になっています。実際はこの部分にコンテンツの内容をまとめていきます。
2.6.3 バイヤーペルソナとバイヤーズジャーニーを利用したメール配信案
実際に中古重機企業サイトで「バイヤーペルソナ」と「バイヤーズジャーニー」を作成した場合、以下のような施策が出てきました。
(転載ここまで)
「メールマガジンはマーケティング手法として古い」という話を聞くことがありますが、本当にそうなのかと思うことが最近増えてきました。
「開封してもらえない」、「SNSの方が訴求できるのでは?」という話も確かにありますが、業態や業種によって、ケースバイケースだと思います。
とくに中小企業や個人事業主の方にとっては一人一人のお客様との関係を密にすることが大切で、その一手法としてメールマガジンは有効な手段だと思います。
メールでの集客がうまくいっていない場合は、ここで紹介したように『誰に、何を、どのタイミングで伝えるか』が明確になっていないケースが多いのではないでしょうか。
メールによる集客に壁を感じている方には必見の内容だと思います。
「レポートからアナリティクスへ Adobe Analyticsによってもたらされる変化」 (堀雄志氏)
最後はウェブ解析士マスター・堀雄志氏のセッションです。
堀さんは、2011年末、ソフトバンク・テクノロジーに入社され、Adobe Analytics(旧Site catalyst)の導入やカスタマイズを主とした業務に従事され、西日本のお客様へデジタルマーケティングについて技術的立場からのコンサルタントや導入推進業務を担当されています。
今回の内容は以下の通りです。
- 3.0 発表タイトル
- 3.1 自己紹介
- 3.2 はじめに
- 3.3 Adobe Analytics
- 3.3.1 Adobe Analyticsとは
- 3.3.2 Adobe Analyticsの機能
- 3.3.3有償ツールによる利点
- 3.3.4導入にあたっての注意点
- 3.4 AA導入体験記
- 3.4.1サイトリニューアル
- 3.4.2リニューアル後
- 3.4.3 実現したかった理想と現実
- 3.4.4 ヒアリングの実施
- 3.4.5 弊社の提案
- 3.4.6 AAの導入
- 3.4.7 導入後の変化
- 3.4.8 A社のその後について
- 3.5 ウェブの活用が思うように行かないときに考えられる原因
- 3.5.1 一人で進めようとしていないか
- 3.5.2 取り組んでいる内容を周囲に理解してもらえているか
- 3.5.3 後戻りできない状況を作ろう
- 3.6 最後に
ここでは『3.4導入体験記』の中の『3.4.5.弊社の提案』について紹介します。
(一部転載)弊社の提案
ウェブサイトに関する上記のような課題が存在することをSさんから受けた弊社は、それぞれの課題に対する回答を提示するために何が必要なのか、弊社のソリューションでご協力できることがないかといった観点から「Adobe Marketing Cloud」「SIGNALコンサルティング」のご提案をさせていただくこととしました。
1.ウェブ解析に関するトレーニングのご提案
対象課題
・数値が上がった下がったはわかるが、原因がわからない
・日々の業務があるため、新たな知識を身につける時間がない
そもそもデータの意味や見方を理解されていない方向けに、まずはデータの見方を理解していただくために弊社で行なっているトレーニングをご紹介。このような悩みの場合にはこの指標を見るなどの理解を得ることを優先しました。また、座学だけでは身につきにくい内容もワークショップ形式を用いることで、実際の自社データを用いながら現実感を伴った内容で行なっていただくプログラム内容としました。
2.サポート体制の提示
対象課題
・日々の業務があるため、新たな知識を身につける時間がない
トレーニングに参加いただけない多忙な方へのサポートとして、ツールの使用方法などの問い合わせを受け付けるサポート体制を提示いたしました。Adobeからのメンテナンス情報や、操作方法のお問合せ、実装相談などをサポートセンター形式で常設することにより、安心してご使用いただける環境が整っていることを提示いたしました。
3.Adobe製品のご紹介
対象課題
・ウェブサイトをどのように改善したらいいかわからない
・サイトを活用する事業改善のイメージがわかない
サイトやその他のデータを統合し、マーケティングプラットフォームを構築していくことで最適なデータ基盤の構築を提言いたしました。また、それぞれの改善に対するAdobe製品での適用例を示し、包括的にカバーできることをご提示しました。
(転載ここまで)
私も前職ではこのAdobe Analyticsを利用していましたが、どのようなアクセス解析ツールにもあるような基本的な機能しか使っていませんでした。その意味ではAdobe Analyticsを使いこなせてはいなかったわけですが、有償ツールで機能が豊富であればあるほど使いこなせないケースが多いと思います。
堀さんの取り組みの中で、お客様とAdobe社の間をとりもつサポート体制を構築されていることが非常に大切に思えます。
新しいツールを導入する時にはわからないことだらけで、たとえば提供元に話を聞いてもなかなか的を射た回答が返ってくることがないという話は非常によく聞きますし、私自身も経験があります。
それを解決することで新しいツールの導入はもっとスムーズになると思います。
これはアクセス解析ツールだけでなく全てのツールに共通することだと思います。
これ以外にも「ウェブの活用が思うように行かないときに考えられる原因」は多くの人が必ず突き当たる問題で、その実体験が書かれていて参考になりました。
ウェブ解析士必見のセミナーだと思います。
最後に
今回の3セッションは、ウェブ解析士向けといえる内容ですね。
4年近く前のセミナーですが、現在も変わらず応用できる部分が多く、改めて基本は何も変わらないのだという想いを強く持ちます。
技術は日進月歩ですが、マーケティングの基本的な部分、たとえば顧客中心の考え方や、現状分析の大切さなどはいくら年月が経っても変わりません。
こういった部分があちこちにちりばめられているのが、書籍版「自社サイトをコストで終わらせないために」だと思います。
多くの方々にぜひ読んでいただきたいと思います。
自社サイトをコストで終わらせないために ウェブ解析士の事例発表集(20)
恒川 琢朗(上級ウェブ解析士)
長瀬 果(上級ウェブ解析士)
堀 雄志(ウェブ解析士マスター)
監修 ウェブ解析士協会
発行 亀井 耕二(ウェブ解析士協会 理事)
Amazon のKindleUnlimited なら無料で読めます。