なぜ、生成AIで思い通りの文章が書けないのか。その一つの答えを、試行錯誤の末に見出した人がいる。2023年に日本で一番売れたビジネス書『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者、安達裕哉氏だ。9月4日に開催された「ウェブ解析士会議 2024」で、安達氏が登壇し、プロのコピーライティングの制作プロセスを取り入れた生成AIの活用方法を紹介した。
生成AIの登場で「完全に失業したな」と思った
2022年11月に生成AI「ChatGPT」が発表された。安達氏は、はじめてChatGPTに触れた時、大きな衝撃を受けたという。ChatGPTでは、短いテーマであれば30秒ほどで記事を作成でき、明確な指示がなくとも、ある程度まとまった文章が生成される。
「自身が携わってきた、執筆や提案書作成といった仕事は、早ければ5年後、遅くとも50年後には確実になくなってしまうだろう」と、当時の危機感を振り返った。
プロのクオリティーにはまだ届かないのではないか
しかし、生成AIに100%依存して記事の生成を試みると、いくつかの問題が浮かび上がる。
出力された文章から、以下のような課題が明らかになった。生成AIを使ったことがある人は同じような課題感を抱いたこともあるのではないだろうか。
記事を生成して見えた課題
- 短文の出力しかできない
- 抽象的な話に終止する
- 箇条書きが多すぎる
- 表現がくどい
長文を出力するほどに、ホワイトボードのような印象に
長文を生成させればさせるほど、まるでホワイトボードに箇条書きしたような無機質な印象になってしまったのだ。文章は確かに生成されるが、箇条書きの羅列が目立ち、プロのライターが書くような質の高い記事には及ばない。
オリジナリティーの表現が課題
さらに深刻な課題として、文章のオリジナリティーの乏しさが挙げられる。プロンプト(生成AIに示すテキスト)次第ではあるが、現状の生成AIが生成する内容は、どこかで見聞きしたような抽象的な一般論に終止する傾向がある。生成された文章を読み、「もっと具体的な内容について詳しく知りたい」というもどかしさを感じる人も多いのではないか。
コピーライティングの生成から見えた課題「単純な言い換え」
「生成AIによる長文生成には課題があるものの、短いキャッチコピーならば効果的に作成できるのではないか」と考えた安達氏は、検証に着手した。
しかし結果は期待を下回るものだった。生成AIは単に「果汁100%」という与えられた特徴を言い換えて繰り返すだけで、本質的な魅力を伝えるコピーの生成には至らなかった。
つまり、生成AIは最初に伝えたプロンプトの条件を、形を変えて出力しているに過ぎないといえる。わたしたちが求めているものは、単なる説明ではなく、消費者の心に響くコピーだ。現状の生成AIの性能がまだ十分でないと評価される背景には、このような課題があるのではないかと安達氏は指摘する。
転機となった生成AIにまつわるニュース「プロと同様の方法で行う」
安達氏が「生成AIでプロの仕事を代替するのは難しいかもしれない」と考えていた時、興味深いニュースが舞い込んできた。シカゴ大学の研究によると、生成AI(LLM)が「プロのアナリストと同様の方法で」財務諸表分析を行った結果、人間のアナリストを上回るパフォーマンスを示したという。
重要なポイントは、「プロと同様の方法で」という部分だ。つまり、単にデータを投げ込むだけでなく、プロフェッショナルの作業プロセスを踏襲することが重要だった。
プロのコピーライティングのプロセスを解明する
生成AIの出力には、プロと同様の方法で行うことがポイントとなるという発見を受けて、安達氏はコピーライター・梅田悟司氏に協力を依頼し、プロフェッショナルのワークフローを調査した。
コピーライティングの複雑な制作プロセス
梅田氏との相談を通じて、キャッチコピーの制作フローが明らかになった。1つのキャッチコピーの制作に、さまざまな職種の人々による多段階のプロセスを経て完成に至ることが分かった。
コピーの制作は、まず徹底的な商品情報の整理からはじまる。次に市場を幅広く調査し、得られた情報を集約する。その後、ペルソナを設定し、コンセプト設計の段階で、具体的な訴求ポイントを検討する。
ここからが、ようやくコピーライターの出番だ。コピーだけではなく、記事作成、イベント企画、広告制作など、さまざまな観点からも、最適なメッセージを総合的に検討する。そして、担当者を巻き込んでブラッシュアップを重ねる。
このように見ていくと、コピーライターの仕事が想像以上に範囲が広く、奥の深いものであることがお分かりいただけるだろう。
プロの制作プロセスを取り入れ、コピーを生成
安達氏は、生成AIで期待通りのコピーが生成されない原因は、プロフェッショナルのプロセスを踏んでいない点にあるのではないかと考えた。そこで、コピーライティングの制作プロセス全体を生成AIに実行させてみた。
商品の特徴については、可能な限り詳細な情報を生成AIに提供するために、商品詳細ページの情報や商品企画のキーワードなど、幅広いデータを入力した。
良いコピーを生成AIに学習させる取り組み
さらに、キャッチコピーに「ひねり」を持たせるため、手本となるコピーを生成AIに学習させた。コピーライター・梅田氏によると、商品やサービスのカテゴリーごとに意識すべきポイントが異なるという。この知見を基に、生成AIに質の高いコピーを参考例として学ばせる実験を行った。当初は、数百の見本となるコピーが必要かとも考えたが、結果、20〜30の事例でも十分な効果が得られることが分かった。
プロンプトを分割して数珠つなぎでデータを渡すことで、コピーライティングの精度が向上する
プロの制作過程ごとに細分化してコピーを生成した例が以下である。リズムのあるコピーが出来上がったといえるのではないだろうか。
オレンジジュースのキャッチコピー
- 笑顔溢れる朝に、甘さ自然なオレンジジュース。
- 家族みんなで健康、果汁100%の約束。
- 安全第一、子どもの未来を応援するジュース。
- 甘くてさわやか、毎日続けたいオレンジの味。
- エグみ知らず、オレンジの真実の美味しさ。
- 酸味を抑え、子どもの笑顔を引き出す。
- 自然の恵みで家族の健康を、一杯から始めよう。
- 成長の一滴、添加物なしで安心。
- 酸っぱくない、苦くない。だからゴクゴク飲める、果汁100%
- 甘さ控えめ、後味スッキリ。大人のための果汁100%オレンジジュース
- オレンジ本来の味を、酸味とエグみを抑えて。果汁100%
- ゴクゴク飲める、果汁100%。朝の目覚めにもぴったり
- オレンジのやさしい甘さ。果汁100%
- もう酸っぱいだけのオレンジジュースには戻れない。果汁100%
- 毎日飲みたい、果汁100%。健康と美容にも
- オレンジジュースの概念が変わる。果汁100%
- お子様から大人まで、みんなが笑顔になる味。果汁100%
- 自然な甘さと爽やかさ。果汁100%
生成AIを活用する5つのポイント
つまり、生成AIでキャッチコピーに今までイマイチだったというアウトプットが、分割して生成AIに与え、数珠つなぎでデータを渡すことで精度が高まるという結果がでた。
生成AIに高品質のアウトプットをさせるには以下のことが大切だといえる。
- 読み手のペルソナを設定すること
- 手本となる文例を与えること
- 詳しい周辺情報を与えること
- 出力プロセスを分割し逐次処理すること
- AIに、ステップごとに別のロールを与えること
タスク分割による、生成AI活用のススメ
生成AIの性能は1年前と比較しても、同じモデルでより高度な出力が可能になっている。生成がうまくいかない場合は、タスクを細かく分割して生成AIに指示を出すことで、より良い結果が得られるかもしれない。
商品情報からコピーを自動生成する「AUTOMAGIC」
このように生成AIの出力プロセスを分割し、データを順番に処理することの重要性が明らかになった。しかしその場合長いプロンプトを都度入力する必要がある。この課題を解決するために、安達氏らはWebアプリケーション「AUTOMAGIC」を開発した。
AUTOMAGICでは、商品情報を入力し項目を選択するだけで、以下のようなものを自動で出力できる。
- ペルソナ分析
- キャッチコピー
- キャンペーン企画案
- SEO記事
40,000トークンまでは無料で利用できるため、興味がある方は試してみてはいかがだろうか。