生成AIには作るのが難しい「買いたくなる」コンテンツをどうすれば作れるのか。
ウェブライダー の松尾氏はウェブ解析士会議2024で、顧客が商品・サービスを購入する判断軸「Being(なりたい)軸」で成果を考えるコンテンツ制作のあり方を語った。
私たちはなぜ商品を買うのか。松尾氏は、コンテンツ制作の前に捉えるべき行動心理とウェブライダー流の制作アプローチを披露した。
人は「なりたい(Being)」欲求を満たすためにモノを買う
コンテンツ制作の前に、マーケティングに欠かせない「成果」の定義を考えたい。松尾氏は、成果につながるコンテンツの作り方を考える前にまず、人がモノを買う理由を押さえるべきだと強調する。
人が商品を購入する理由は、自分の「こうなりたい」という欲求を満たすためだ。これが、顧客の成果である。
売り手の成果ではなく、顧客の成果から考えるのがマーケティングの入口であり、ビジネスの成果は、顧客の成果達成がなければ実現しない。
例えば、「オフィス向けの壁掛けアートを求めて検索していたつもりが、最終的に購入したのはおしゃれな観葉植物だった」など、当初求めていたものとは異なる商品を購入した経験はないだろうか。
この場合、オフィスを手軽かつおしゃれに彩りたいという潜在ニーズ(真の理想)を満たすことこそ、お客様にとっての成果だといえる。
成果とは、顧客がなりたい(成りたい)姿になった結果だと松尾氏は強調する。この考えをもつことがマーケティングのスタートラインであり、買いたくなるコンテンツ作りに活かせる視点なのだ。
真のニーズを紐解く3つの軸
人がモノを買いたい欲求には、3つの軸がある。Having(所有したい)、Doing(やりたい)、Being(なりたい)だ。このうち、Being(なりたい)軸への訴求が、成果を上げるコンテンツの正解だと松尾氏は言う。
例えばダイソンの掃除機が欲しい人の心理を3つの軸に当てはめると、以下のように分類できる。
- ダイソンの掃除機で部屋をスッキリさせ、ストレスから解放されたい=Being
- ダイソンの掃除機を使って掃除したい=Doing
- ダイソンの掃除機が欲しい=Having
この3つを踏まえたとき、Doingは機能的価値寄りの軸になり、Beingは情緒的価値寄りの軸と考えられる。松尾氏によると、Doingの訴求はあるものの、Beingの訴求が足りないウェブコンテンツをよく見かけるという。
では、DoingとBeingがイメージしやすい訴求とはどのようなものだろうか。
例えば、株式会社ウェブライダーが提供する文章構成ツール「文賢」のビジュアルは、顧客のBeing軸をもとにデザインされている。
松尾氏は、この表現が100パーセント正解ではないと前置きしたうえで、文賢の訴求については成果が出ていると強調した。
また、オウンドメディア「文賢マガジン」でも、検索ユーザーに対しBeingの訴求を行っている。
松尾氏はBeing軸を考える際に、自身がこれまでの経験から辿り着いた「ステージング理論」を大切にしているという。
人はみな自分のストーリーの中で生きている。人生というステージにどのような展開を期待し、どんな人物と出会い、どんな大道具・小道具を使いたいのかを考えて取捨選択している。Being軸のコンテンツとは、その商品がお客様の良質なステージに欠かせないものだと感じてもらうことが重要だ。
「ユースケース」は最強のBeingコンテンツ
松尾氏は、Being訴求において一番影響力のあるコンテンツが「ユースケース」だと強調した。
活用事例・お客様の声は非常に重要なコンテンツだ。単に事例を載せるのではなく、Beingが伝わる事例を載せなければ意味がない。
また、わかりやすいDoingを伝えることも重要である。
ユースケースコンテンツをつくるポイントは以下のとおりだ。
インタビューで相手の感想を翻訳する
ユースケースに顧客の言葉をそのまま使うかどうかは検討の余地がある。言語化が得意な顧客ばかりではないからだ。
DoingとBeingの想起につながるエピソードをいかに引き出せるか。これはインタビュアーのヒアリングスキルが鍵になる。「それってこういうことですか?」など、解像度を上げて翻訳するスキルが求められるだろう。
顧客の「本音」は丁寧かつ慎重に扱う
ユースケースを扱う際には、「相手の本音(インサイト)」を丁寧に扱うべきだと松尾氏は強調する。
人は、本音を言いたくないし、他人に本音を言い当てられたくないものだ。多くの人は建前を大切にしているという観点のもと、「あなたの本音を教えてください」という直球の質問ではなく、段階的かつ慎重に聞いていく必要がある。
また、顧客の本音がわかったとしても、その本音をそのままコンテンツ化する場合は注意が必要だ。
本音をストレートに代弁するのではなく、本音を想起してもらいやすい表現に留めることが、相手の心情への配慮において重要である。
響く訴求はリスクもある
訴求の切り口は大きく4つに分類できる。右上にいくほど、訴求力もリスクも大きくなる。
このうち、本音を扱う本質系トークとぶっちゃけトークは慎重に対応しなければならない。本音を伝えるからこそ響くが、リスクもある。
かつ、顧客を取り巻く状況や感情によって響く内容が異なる点は気をつけたいところだ。
熱狂する姿が顧客のシンパシー(共感)を喚起する
ユースケースコンテンツを作る重要なポイントとして、ユーザーに「シンパシー」を感じてもらえるか?という視点がある。
松尾氏はこちらから相手に共感してもらうのではなく相手から共感してもらう、すなわちシンパシーを感じてもらえるコミュニケーションが重要だと強調した。
人は、楽しそうな人を見ると楽しく感じたり、悲しそうな人を見ると悲しくなる。その理由は、私たちの脳ではミラーニューロン(ものまね細胞)という細胞が動いているからだ。特定の商品やサービスのことが好きで好きでたまらない人の声を用いれば、多くの人の共感を生み、訴求力の高いコンテンツになるという。
例えば、松尾氏は自社の採用コンテンツで100分にわたって、自社や社員に対する思いを熱く語るインタビュー動画を公開している。その動画にシンパシーを感じた人たちが採用へ応募してくるそうだ。
松尾氏は、一般的なユースケースが100人分あったとしても、1人の熱狂的なファンのユースケースには勝てないと強調する。
まとめ
松尾氏はAI活用の一例として、マーケティングの議論に使えるような架空のユースケースを作成するTIPSも紹介した。もちろん、そのユースケースは架空のもののため、そのまま使うことはできないが、顧客のBeingを想像し、マーケティングアクションや製品そのものをアップデートするためにも、AIを積極的に活用するのも有用だと話した。
最後に松尾氏は「ヒューマンタッチ」という言葉を掲げた。人間の心はとても複雑だ。たとえAIでも完全に理解はできないだろう。だからこそ、1人ひとりの人生に寄り添い、敬意をもつことは大切である。
これからの生成AI時代において、人に喜んでもらえるマーケティングのコンパスが提示されたセッションだった。