WACA九州沖縄支部の田中です。2024年11月30日、福岡市中心部で開催された「アクセシビリティカンファレンス福岡2024」に参加しました。福岡での開催は2回目。天神・警固神社の社務所ビルが会場となり、伝統と革新が融合する特別な空間で、熱気あふれる議論が繰り広げられました!
1.アクセシビリティカンファレンス福岡2024について
1-1.アクセシビリティカンファレンス福岡2024とは
アクセシビリティカンファレンス福岡は「ここにいる。」をテーマに、福岡市で2023年に初めて開催されたアクセシビリティのイベントです。2年目となる2024年は「つぎはどうする」をテーマに4つのセッションと2つのスポンサーセッションが実施されました。
福岡でのリアル開催に加え、オンラインではYouTubeでの通常版・字幕や手話通訳を交えた情報保障版が同時配信されました。
1-2.参加のきっかけ
昨年、デザインプロデューサーに転身したことをきっかけに、より専門的な知識を深めたいと考えていました。特に、多様なユーザーが快適に利用できるウェブサイトを作るためには、アクセシビリティの知識が不可欠だと感じていました。
今回、WACAがブロンズスポンサーとして協賛していることや、地元・福岡で開催されるということもあり、このイベントに足を運んで、新たな知見を得たいと思い、参加を決めました。
1-3.紹介するセッションについて
今回のレポートでは、田中みゆきさんの「障害は乗り越えられるべき課題なのか?」と、坂巻舞羽さんの「アクセシビリティをあたりまえにするまで」の2つのセッションを取り上げることにしました。
アクセシビリティへの問い:
「障害は乗り越えられるべき課題なのか」という問いは、アクセシビリティの根源的な問題に迫るものであり、ウェブ解析士として、多様なユーザーへの配慮という観点から深く考えるべきテーマだと感じました。
社会全体の意識改革:
「アクセシビリティをあたりまえにするまで」というセッションは、社会全体の意識改革の重要性を示唆しており、ウェブ解析を通じて、よりインクルーシブな社会の実現に貢献したいと考えている会員の皆様にとって、示唆に富む内容であると考えたためです。
レポートを通して、アクセシビリティの重要性と、ウェブ解析の役割を再認識し、今後のWACA皆様の活動に活かしていただければ幸いです。
2.障害は乗り越えられるべき課題なのか?/田中みゆきさん
田中みゆきさん(以下、田中さん)は、障がいを「世界を捉え直す視点」と捉え、その考えに基づいたさまざまな活動を行っています。
オーディオゲームセンターという新たな体験
田中さんが手がける「オーディオゲームセンター」は、視覚障がい者向けに開発された新たなゲーム体験です。音だけで楽しむRPGや、視覚障害者と健常者が一緒に楽しめるオーディオゲームなど、多様な人が楽しめるように工夫されています。
このプロジェクトは、「逆インクルーシブデザイン」という考え方に基づいています。従来のインクルーシブデザインが、多数の健常者の中にハンディキャップを持つ人を合わせることを目指すのに対し、田中さんのプロジェクトは、オーディオゲームという新しい体験を軸に、多様な人が共存できる空間を作り出そうとしています。
アクセシビリティは、誰のためのものか?
著書「誰のためのアクセシビリティ?」の中で、田中さんはアクセシビリティに対する従来の考え方に疑問を投げかけています。
• 当事者不在のアクセシビリティ:
障がいのある人の意見を聞きながら、本当に必要なアクセシビリティが提供されているのか。
• 提供側の満足:
アクセシビリティを提供すること自体に満足し、本当に障がいのある人が求めているものに合致しているのか。
田中さんは、アクセシビリティは単なる「配慮」や「思いやり」ではなく、人々が生まれながらに持つ権利であると考えています。
障害者文化と、多様な「見る」
セッションでは、音で観るダンスのワークインプログレス(ダンスパフォーマンス)を例に、障がいのある人と健常者では、同じものを全く異なる形で「見る」ことができることが紹介されていました。
• 見える人: 平面的に、対象物との関係性の中で見る。
• 見えない人: 立体的、物語的に、音や触覚を頼りに世界を認識する。
このことから、田中さんは「障がいのある人の”見る”という行為は、健常者とは異なる独自の文化を生み出している」と考えます。
エイブリズムへの抵抗と、これからの展望
また、セッションの中で社会に根強い「エイブリズム」(経験者の規範で障がいのある人を差別する考え方)に対して、以下の2つの対策が提唱されました。
• マジョリティが健常者の特権について意識的になること:
健常者であることのメリットや、障がいのある人が抱える困難について理解を深める。
• 障がいのある人が作る側の立場に立つための技術をアクセシブルにすること:
障がいのある人が、コンテンツ制作や開発に積極的に参加できるような環境を整える。
田中さんは、障がいを乗り越えるべき課題ではなく、多様な視点をもたらすものとして捉えています。そして、障がいのある人たちが自分たちの声で社会を形作っていくために、アクセシビリティの概念を根本から問い直し、新たな視点から社会をデザインしていくことの重要性を訴えていました。
3.アクセシビリティをあたりまえにするまで/坂巻舞羽さん
SmartHRでアクセシビリティスペシャリストとして、プロダクトのアクセシビリティ向上推進に尽力する坂巻舞羽さん(以下、坂巻さん)。同セッションでは、SmartHRがアクセシビリティを「あたりまえ」にするために取り組んでいること、そして、その先に目指す未来について語られました。
アクセシビリティに取り組む組織のよくある課題
多くの組織がアクセシビリティの重要性を認識しつつも、具体的な取り組みが進んでいない現状があります。坂巻さんは、その原因として、
• 組織内に障がい者がいない、専門知識を持つ人がいない
• アクセシビリティを他人事と捉えている
• ビジネス的な価値が見えにくい
といった課題を挙げ、そういった現状の中でのSmartHRの取り組みが紹介されました。
SmartHRの取り組み 基礎から発展へ
SmartHRでは、まず自社開発製品をWCAG(Webコンテンツアクセシビリティガイドライン)のシングルAレベルに準拠するなど、アクセシビリティの基礎を固めました。さらに、より多くの人に利用してもらうために、誰もが使える製品の実現と現実のギャップを埋めるべく、発展的に以下の取り組みを進めています。
• やさしい日本語を参考にした取り組み:
大阪市の「やさしい日本語」を参考に、一文を短く、専門用語を避け、誰にでも分かりやすい表現に置き換えることで、より多くの人が理解できる製品を開発しています。
• ユーザーヒアリングを中心とした仮説検証:
障がいのある方を含む様々なユーザーへのテストを実施。2度のプロダクトリリースを行うなど、製品改善に活かしています。
アクセシビリティを「あたりまえ」にするために
坂巻さんは、アクセシビリティを「あたりまえ」にするためには、以下のことが重要だと強調しました。
• 柔軟な考え方:
どんなユーザーがいて、アクセスにどのような課題を抱えているのかを常に意識し、柔軟に対応すること。
• ユーザーを知る、ユーザーの声を聞く:
ユーザーヒアリングなどを通じて、ユーザーのニーズを深く理解すること。
• 「あたりまえ」の実現に向かって走り出す:
マジョリティに惑わされず、社会の変化に対応しながら、積極的にアクセシビリティの向上に取り組むこと。
未来の「あたりまえ」を一緒につくる
SmartHRは、アクセシビリティを「あたりまえ」にすることで、より多くの人々が製品を利用できるようになり、社会全体がより豊かになると考えています。坂巻さんは、セッションの最後に「未来のあたりまえを一緒につくりましょう」と参加者に呼びかけました。
4.イベントに参加してみて
また、閉会式では、WACA九州沖縄支部の中村祐貴子さんが次回の実行委員長に就任することが発表され、大変嬉しく思います!WACAメンバー一同、中村さんと協力し、次回のカンファレンスをさらに盛り上げていきたいと考えています!
田中暁彦
ビーコンコミュニケーションズ(株)NEAR SHORE FUKUOKA リードデザインプロデューサー。20年以上、教育機関・一般企業向けにコミュニケーション戦略の企画提案営業に従事。現在は福岡拠点でデザイナーの進行管理や新規事業開拓を担当。上級ウェブ解析士。
ウェブマーケティング関係を中心に、今のビジネスパーソンや経営者に必要なスキルを次々紹介していきます。
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主催 ウェブ解析士協会 Learning Plus部 上級ウェブ解析士 積高之